第一章 第八話 勇者イアソン、魔物に襲われ、下半身の装備を失う(ざまぁ回?)
〜イアソン視点〜
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
荒い息を吐きながら、俺は全力疾走をしていた。後方が気になり、後ろを振り向く。俺の後方を走っているジョージとリリスも顔を青ざめていた。
くそう。どうして今日はこんなに調子が悪いんだ!
心の中で叫び声を上げながら、もう一度振り向く。
視界の奥に四足歩行で走るトラ型の魔物、キリングタイガーが追いかけてきている。
本当に最悪の日だ。ダンジョン内を歩いていたら、気づかないでやつの尻尾を踏みつけてしまった。
いつもなら、あんな魔物は簡単に倒せれる。しかし今日は吸血コウモリに苦戦するほど調子が悪い。どう考えても逃げの一手に徹するしか無かった。
「いい加減に諦めろよ! リ、リリス! あいつの足止めをしろ!」
「やっているわよ! でも、いつもよりも魔法の威力が小さすぎて全然効果がないわ」
くそう。ポンコツな女だ。足止めもできないのかよ。
「ジョージ! アイアンガードを使って弾き飛ばせ!」
「了解した。アイアンガード! ぐあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「キャアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!」
「ぐえええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
走っていると急に背中に何かがぶつかり、俺は勢いよく前方に吹き飛ばされる。
おそらく、ジョージがガードの技を使ったのにも関わらず、キリングタイガーを弾き飛ばすことができなかった。そして逆にあいつが吹き飛ばされ、俺たちにぶつかってきやがったのだろう。
まったく、何やっているんだよ! タンクが力負けなんかするな! カスが!
心の中でジョージに悪態をつきながら、俺は地面を転がり、何度も身体をぶつける。そして何かにぶつかり、ようやく俺の身体は止まるのであった。
「いたた。回転は止まったが、何にぶつかったんだ?」
全身に痛みを覚える中、ぶつかったものを見る。そして絶望した。おそらく俺の顔は青ざめているだろう。
「フ、フルベアー!」
俺を止めてくれたのは、よりにもよって魔物だ。お腹の模様が満月のように丸いのが特徴の凶暴なクマ型の魔物だ。やつの爪は鋭利で、突き刺されば簡単に風穴が空く。
「くそう! 挟まれた! 前方のフルベアー、後方のキリングタイガー! 逃げ道がない」
どうする? どうやってこの状況を乗り切る?
この戦況を打破する策を考えていると、壁に小さい穴が開いていることに気づく。
人間がどうにか入ることができそうだ。この中に逃げ込めば、あいつらは負ってこられない。
リリスやジョージには教えねぇ。勇者である俺は、この世界の希望なんだ。おまけのような存在の二人よりも命の価値が違う。
俺は穴の中に飛び込もうとした。
「な!」
しかし、俺よりも先にリリスとジョージが穴に近づく。
あいつらも、穴の存在に気づいていやがったのか!
ワンテンポ早かったリリスが先に入り、続いてジョージが入る。勇者である俺は最後に飛び込んだ。
その瞬間、ビリッと何かが破ける音が聞こえた。
まさか……な。
穴は通路のように長く、俺の身体は滑り落ちていく。
落下スピードが速い。リリスとジョージの姿が見えないところから考えるに、二人はそうとう下の方にいるのだろう。
到着地点にたどり着くのを待っていると、異臭を感じる。
くせー! 何だよこの臭いは! まるで何日もの生ごみを溜め込んだような臭いが漂ってきやがる。
思わず鼻を摘んだ。
本当にこの抜け穴を通ってよかったのだろうか? 何だか嫌な予感がしてならないぜ。
落下をしていくことしか選択肢がない俺は、ことの顛末を見守り、身を任せるしかなかった。
しばらくすると出口が近づいたようで、光が漏れている。
そのまま落下し、光を通り過ぎる。すると今度は重力に引っ張られるような勢いのある落下に切り替わり、俺の身体は真っ逆様に落ちた。
このままでは頭をぶつけて死んでしまう。どうにかして体制を整えないと。
宙に浮きながら、どうにかうつ伏せに体制を変えた。すると、落下地点にリリスとジョージがいるのが見えた。
「ジョージ! 俺を受け止めろ!」
ジョージはタンクだけ合ってガタイがいい。俺を受け止めることぐらい造作ないはずだ。
俺は大の字になって受け止められる体制になった。
すると彼は急に顔を青ざめさせ、なぜか天高く盾を構える。
おいおい、まさかそんなわけがないよな。
そんなわけがない、そんなわけがない。ジョージが盾を使って乱暴に受け止めようとはしないはずだ。
心の中でジョージを信じるも、俺の気持ちを彼は簡単に裏切った。
「ぐえっ」
俺の身体は大きな盾に防がれ、全身に激痛が走る。
なんて乱暴な受け止め方をしやがる。お前は抱きしめてキャチするという考えが思いつかないのかよ。
盾に激突した俺は、ずり滑るように落ちて地面に倒れた。
「いてて、おい! なんて乱暴な受け止め方をしやがる!」
上体を起こすと、俺はジョージに文句を言った。
「あ、当たり前だろうが! お前、自分がどんな状態なのかわかって言っているのか!」
「今の俺がどうしたって言うんだよ」
俺は顔を俯かせて身体全体を見る。すると、下半身が露出している状態になっていたのだ。
「何じゃこりゃあ!」
俺は咄嗟に両手で股間を押さえた。
まさかあのとき、何かが破ける音が聞こえていたのは、俺のズボンとパンツが破ける音だったのか!
そう言えば、フルベアーはアーマーブレイクという技を使うことができるとユーゴから聞いていた。ダメージはないものの、敵の装備を破壊して防御力を低下させることができる。
運良く逃げ切ったと思っていたが、実際は喰らっていたのか。
「予備の着替えを出してくれ」
「こっちを見ないでよ。今のあなたなんか視界に入れたくはないわ! それに、着替えなんてものは宿屋に置いているから一枚もないわよ」
「マジかよ! 俺はこれから、股間を押さえたままダンジョン内を彷徨かないといけないっていうのかよ」
「まぁ、そうなるだろうな。ご愁傷様だ」
「ジョージ、お前の鎧を貸せ!」
「嫌に決まっているだろうが! お前のムスコが触れた鎧なんて、もう一度装備したくないからな」
俺は勇者なんだぞ! 股間を押さえたままダンジョン内を彷徨く勇者がいるか!
そう口から言いたかったが、心の中の叫びに留めておく。もし、そんなことを口走ってしまったのなら、目の前にいるじゃないかと論破されるに決まっている。
「わかった。とりあえずは何か代わりになりそうなものを探してやるから、そこでジッとしていろ」
「早くしましょう。この辺は本当に臭いから長居はしたくないわ」
二人が変わりになりそうなものを探し始める。俺は惨めな思いをしながらも、変わりになるものが見つかるように、心から願うのであった。
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