第一章 第七話 可笑しい。なぜこれまで倒せた魔物の倒し方がわからなくなる!
〜イアソン視点〜
「チェ、どうして俺たちがこんな面倒臭い依頼を受けないといけないんだよ」
「それはイアソンが考えないで、羽目を外しすぎたからよ」
「それはリリスもだろう。あんなに酒を飲みやがって」
「だって、あんなに美味しいお酒は久しぶりだったのだもの」
「とにかく今の俺たちは、今後の資金が必要だ。愚痴を言っていないで早くダンジョンの中に入ろう。イアソン」
「はいはい、わかったよ。こんな依頼、さっさと終わらせようぜ」
俺たちは今、最近発見されたというダンジョンの探索という依頼を受けている。昨日の酒場で豪遊しすぎたせいで、今の俺たちの所持金は殆どない。だから手っ取り早く金が稼げるこの依頼を受けたのだ。
この依頼をクリアできれば、大金が手に入る。さっさと終わらせてまた酒場で女遊びといこう。
盾役のジョージを先頭に、リリス、そして俺の順番で中に入った。普通勇者というのは、一番前で戦うものだと思われがちだが、それはバカの考え方だ。俺のように頭がいいやつは、仲間を有効に活用するために後方で指示を出す。冷静に的確な指示を出すのは、リーダーの素質だからな。
洞窟の中は、光をを放つクリスタルがところどころあるお陰で明るい。これなら、わざわざリリスのファイヤーボールで明るくする必要もないだろう。
「ジョージ、盾を構えながら前進しろ。リリスはいつでも魔法を放てれるように杖を構えておけ」
「了解した」
「わかったわ」
指示に従い、二人は警戒態勢をとった。俺は胸の前で腕を組みながら堂々と歩く。
勇者が魔物に備えて警戒するなんて格好悪いからな。英雄は堂々としておかなければ。
『キュ、キュキュ』
洞窟内を進んでいると、前方から吸血コウモリが現れた。
ふん、どうやらこのダンジョンは、ザコしかいないようだな。本当なら見逃してやってもいいのだが、ザコのくせに俺たち勇者パーティーの歩みを邪魔しやがった。
ザコが堂々と俺たちの歩みを止めようなど、万死に値する。よって、お前たちは血祭りだ。
「ジョージ、盾を正面に構えて敵の攻撃に備えろ! リリスはフローで攻撃だ」
「了解した」
「食らいなさい! フロー!」
ジョージが前に盾を構え、リリスは微風を撒き散らせる。
しかし吸血コウモリは、風の影響を受けることなく羽ばたいている。全然ダメージを負っていないようだ。
なぜだ! いつもなら吹き飛ばせられるはずなのに!
何か間違えたか? 吸血コウモリはまず、強風で動きを封じた後に攻撃するのが鉄則だったはず。
「って、よく考えたら、フローは微風を発生させる程度の威力しかなかったじゃない! ここはフローではなくストロングウインドウでしょう! もう何やっているのよ」
リリスの言葉を聞き、俺は思い出す。
そう言えばそうだった。どうして俺は、フローなんて最弱の呪文をリリスに指示を出してしまったんだ?
今日の俺は、昨日の酒のせいで頭が働いていないようだ。とにかく、今はジョージの盾で敵の攻撃を防げるはず。今のうちに体制を立て直す算段を考えなければ。
「キャー!」
次の策を考えていると、リリスが吸血コウモリの突進を受け、地面に倒れた姿が視界に入る。
バカな! ジョージの盾をすり抜けて攻撃してきやがったのか!
とにかく落ち着け、落ち着いて戦況を見極めろ。
周囲を観察していると、俺はあることに気づいた。
吸血コウモリは頭上を飛んでいる。当然攻撃の軌道は上から下だ。盾を前に突き出しても意味がない。
くそう。今日の俺はいったいどうしちまったんだ? いくら酒が残っていたとしても、いつもなら頭の中がクリーンになって、状況に応じて頭の中に戦略が広がっていく。それなのに、今日はそれがないせいで正しい指示ができないでいる。
「リリスすまない。俺としたことがザコ相手に慢心してしまったようだ」
「もういいわよ! 今日のイアソンは調子が悪いみたいだから、今回は私の判断で攻撃させてもらうわ! ストロングウインドウ」
逆ギレしたリリスが強風を発生させる魔法を唱える。しかし数秒経っても風が発生する前触れすらも起きない。
気まずそうな顔をして、リリスは俺を見た。
「ストロングウインドウって、どうやって発生するのだったけ?」
「はぁ?」
彼女の言葉に、俺は驚きと呆れが入り混じったような声が漏れた。
「何を言っていやがるんだ! いつも使っていたじゃないか!」
「それがなんでか知らないけど、思い出せないのよ。私ってどんな感じであの魔法を使っていたんだっけ?」
「俺が知る訳がないだろう!」
「二人とも喧嘩をするな! 吸血コウモリはまだ倒していないんだぞ!」
ジョージの言葉に、俺は若干イラつきを覚える。
何一人で冷静ぶっていやがる! お前なんて防御するしか取り得がない肉壁じゃないか!
「そんなことはわかっている! お前はタンクなんだからタンクらしく黙って俺たちを守りやがれ!」
「な! そんなに言うこともないだろうが! イアソンが的確な指示を出さないから、俺の本来のガード力が出せなかっただけだ。お前がちゃんと上を守るように言えば、リリスがダメージを受けることもなかった」
「だったらテメーの判断で、好きなように盾を使えばいいだろうが!」
「ああ、そうさせてもらう!」
ジョージは盾で魔物の突進を防ぐ。だが離れた位置から見ていると、俺は空いた口が塞がらない状態になっていた。彼は盾を大ぶりに動かし、魔物攻撃を防いでいるのだ。しかし彼の動きはムダだらけで、盾をコントロールするのではなく、盾に振り回されているといった状況だ。
あのバカが! 盾に振り回されてどうするんだよ! 初心者じゃないんだぞ!
俺の怒りは頂点に達しようとしていた。
どいつもこいつも使えないやつばかりだ。いったい何年勇者パーティーをやっていると思っているんだ。これじゃあ初心者冒険者と一緒じゃないか!
「こうなったら俺が倒す。ジョージはそのまま押さえつけていろ!」
ジョージに吸血コウモリを押さえつけるように指示を出し、俺は剣から鞘を抜く。そして魔物に一太刀を浴びせた。
吸血コウモリの背後を斬り裂き、血飛沫が飛び散る。
「今からこの戦法でいく。ジョージはしっかり押さえつけていろ」
「くそう。今日の俺はいったいどうしてしまったんだ。盾が異常に重く感じる」
敵の攻撃をジョージが盾で防いでいる間に、俺が隙をついて斬りかかった。
どうにかこの戦いかたは、吸血コウモリには通用した。辛勝ではあったが、どうにか俺たちは吸血コウモリを倒すことができたのだ。
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