第一章 第六話 勇者イアソン、酒場で豪遊する
〜イアソン視点〜
俺こと勇者イアソンは、仲間のリリスとジョージと共に、魔の森から帰って近隣の町を歩いている。
「いやーそれにしても傑作だったな。まさかユーゴのスキルが、頭痛が起きるだけのゴミスキルだったとは。あんなコミを今まで仲間として扱っていたなんて、勇者として恥ずかしいぜ」
「でも文字通り、ゴミを排除できたのだからいいじゃない。お荷物がない分、これまでの冒険が楽になると思うわ」
「リリスの言う通りだ。何だか知らないが、気分的に身体が楽な気がする」
「お、やっぱりジョージも同じか! 実は俺もなんだ。ギャハハ」
一時間ほど前のできごとを思い出すと、俺は笑った。本当に使えなかったやつだったぜ。スキル名をアルファベットで誤魔化すから、どれだけ凄いスキル持ちなのか気になってパーティに入れてやったのに、蓋を開ければゴミだと分かってしまった。
きっと頭痛が起きる程度のヘボスキルだったから、アルファベットで誤魔化しやがったんだろうな。それを見抜けなかった俺はどうやら調子が悪かったらしい。
「それで、ギルドに報告しに行ったあとは、どこのお店に行くの?」
リリスが今後の方針について聞いてくる。ギルドに報告しに行った後の予定は、どこの店に行くのか決めていなかった。
「ゴミを排除した記念に酒場に行かないか? 俺たちの新たな門出を記念して」
「ジョージ! それはナイスなアイディアだぜ! そうしよう。今後の英気を養うには、心の休息も必要だ」
ジョージの言葉に俺は多いに賛成した。実は、内心イライラとしていたんだ。知らなかったとはいえ、あんなゴミスキルの所有者をパーティーに加えていたなんて、一生の恥だ。一刻も忘れたい。そのためには酒を浴びるように飲み、女を侍らすのが一番だ。
俺たちは酒場に行く前に、依頼の報告をしにギルドへと向かう。
十分ほど歩くとギルドの前に辿り着いた。扉を開けて中に入る。
ギルド内には数人の冒険者たちが賑わいを見せていたが、俺が姿を見せた途端に急に静かになりだした。
まるで葬式場のようだな。だけどそれも仕方がないことだ。何せ俺は王様から勇者として認められ、聖剣を貰い受けた勇者なのだから。俺が登場すれば、どんな威勢の良い強面の冒険者でも、猫の子を借りたように大人しくなりやがる。
ふん、いい気味だ。俺が勇者である限り、どんなやつも逆らえない。
我が道のように太々しく受付の方に歩いていく。
「お嬢さん、例の魔物の討伐は終わったぜ」
「え! もう終わったのですか! まだ出発して二時間しかかかっていないはずですが?」
「ふん、俺は勇者だぞ! どれだけ恐れている魔物であろうと、俺にとっては赤子同然だった。討伐対象は数分で倒してやったさ」
「さ、さすが勇者様です! あの凶悪な魔物を数分で倒されるなんて!」
受付嬢は大げさに驚きの声を上げ、この俺を称賛する。
「おい、今の受付嬢の言葉を聞いたか?」
「ああ、聞いた。まさか国の兵士が束になっても倒すことができなかった魔物を、たった数分で倒すなんて。さすが勇者様だぜ」
彼女の言葉がギルド内にいる冒険者にも聞こえたようだ。奴らは俺の実力に驚くも、受付嬢と同様に称賛の言葉を漏らす。
いいぞ! もっと俺を褒めやがれ! てめーらのようなザコ冒険者は、どれだけ逆立ちしようと、この俺には届かないんだ。精々俺の機嫌を損ねるようなことはしてくれるなよ。ここにはザコ冒険者しかいないからこそ、この俺がこんな辺境な地まで赴いてやっているのだからな。
「あれ? 勇者様たちは確か四人パーティーでしたよね? もう一人のかたは外におられるのですか?」
チッ、この女、せっかく忘れようとしているのに、ユーゴの話を出して蒸し返しやがって。だけどまぁ、この女は何も知らないんだ。当然の反応と言えば当然か。
「ああ、ユーゴは死んだ。魔物に殺されてしまった。俺が未熟なばかりにアイツを助けることができなかった。悔やんでも悔やみきれない。だけど魔物討伐には犠牲がつきもの、きっとアイツも前に進むことを望んでいるはず」
「わかりました。では、死亡届を出しておきますね。こちらが報酬になります」
受付嬢は表情を暗くすると、カウンターの上に今回の報酬金額の入った袋を置く。
「また何かあったときはすぐに連絡をしてくれ。俺たち勇者パーティーが、いつでも解決してやるからよ」
袋を握ると、俺はギルドの外に向かう。
「さすが勇者様だぜ。仲間が亡くなったというのに、鋼のような精神をしていやがる」
「それだけ強い精神力がないとやっていられないのだろうな」
ククク、バカな奴らだぜ。どうやらあいつらは、俺の言葉を信じているようだな。ユーゴのことを悔やんでいる? バーカ! 俺は全然これっぽっちも悔やんでいない! むしろ清々しているってーの! ギャハハハ!
内心大笑いしていると、俺は仲間たちと一緒にギルドから出ていく。
「よーし! 報酬をもらって、ゴミスキルの死亡も伝えたこと出し、今からパーとしますか。リリス、ジョージ、俺に着いて来い!」
ギルド内にいたザコ冒険者たちを嘲笑い、気分をよくした俺は、綺麗な姉ちゃんたちが接客してくれる酒場へと向かった。
十五分ほど歩き、目的地である酒場に辿り着く。
「きゃー! イアソン様よ! イアソン様がいらっしゃったわ!」
「やった! 私イアソン様の接客をしてくる」
「ずるいわよ! 私もいく!」
扉を開けて中に入ると、バニーガールたちが黄色い声を上げる。
それもそうだろう。何せ俺は勇者なのだからな! 当然の反応だぜ!
「よお、お前ら。元気にしていたか?」
「元気、元気! ささ、こっちの席に来て! たくさんお話ししましょう」
バニーガールの一人が、俺の手を握って席へと案内する。
この女の手、荒れているじゃないか。女なのだからもっと綺麗にしておけよ! 触られているだけで気分が悪くなる。だがまぁ、胸のほうは上出来だ。その胸に免じて今回だけは見逃してやろう。
席に案内され、俺たちは座る。
「それで、何を飲まれますか?」
「この店で一番いい酒に決まっているだろう! 俺は勇者なんだぞ! 安物の酒なんか飲めるか」
「さすが勇者様です! 懐のほうも暖かいようですね。注文受けたまりました」
「リリスとジョージも同じやつでいいよな?」
「ええ」
「もちろんだ」
「みっつですね!」
バニーガールの一人が注文の品をマスターに伝えに向かっていく。そして俺の両サイドにはバニーガールたちが座った。
数分後に人数分の酒が用意される。
「それでは、俺たちの新しい門出を祝してカンパーイ!」
「乾杯!」
「乾杯!」
俺たちは酒の入ったジョッキを軽く触れさせ、酒を口に含む。
全く、高級な酒は格別だぜ! 味も全然違うし、喉ごしも抜群だ!
「プハー!」
「いい飲みっぷりです。さすがイアソン様!」
この酒はどうやらアルコールの度数が高いようだ。一杯飲んだだけで気分が良くなる。
「まだまだ足りねぇ! どんどん持ってこい! 金ならたんまりあるからよお」
報酬金の入った袋から紙幣を取り出し、それをバニーガールの胸の谷間に差し込む。
「こんなにたくさん! ありがとうございます!」
「イアソン様、私にもください」
「いいぞ! そんなに欲しければくれてやる」
再び、紙幣を取り出すと、俺は別のバニーガールの胸の谷間に紙幣を入れる。
そのとき軽く手が胸に触れてしまうが、これも役得というやつだ。
「ハハハハ! 卑しいメスは俺のところに集まれ! 俺が札束で叩いてやるよ」
おそらくこの店にいる全員だと思われるバニーガールたちが、俺のところに集まってくる。
ハハハハハ! 気持ちいぜ! この世は酒、金、女! この黄金比こそが勇者の力の象徴だ!
俺たちは朝まで飲み明かし、楽しいひと時を過ごすのであった。
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