第二章 第五話 依頼完了したけれど、結局イアソンたちは見つけられなかったな(最終話)
『ガオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォン』
俺たちを見下ろしながら、デスライガーは威嚇をするように再度咆哮を上げる。
風の魔法が上手く働いているようだな。これだけ近くにいても、臭いのせいでイライラしない。
「アリアは下がっていろ! 風の魔法で臭い物質を吸引しないようにしてはいるが、いつ風の魔法を破ってくるかはわからない。デスライガーの腐敗臭を嗅いでしまうと、感情がかき乱されてしまう」
「わかりました。では、何かあったときは後方支援をさせてもらいます」
『ガルル?』
やつを目の前にして平然としている俺たちが不思議なのだろうか。デスライガーは、首を傾げているような動作をした。
一度深呼吸をして、魔物に視線を向ける。
「俺たちの目的は、ここのダンジョンのマッピングと調査だ。魔物とはいえ、無駄な殺生はしたくない。俺の作業が終わるまで大人しくしていれば、命までは取らない」
そう、俺の受けた依頼はあくまでダンジョンの調査であり、魔物の討伐ではないのだ。今まで倒してきた魔物は、俺に牙を剥いてきたから倒したまで。アリアを危険に晒すようなことは、できる限り避けたい。
しかし、デスライガーは俺の言葉を聞き入れる様子はなく、後ろ足で立ち上がると、前足で踏みつけようとしてきた。
敵意を向けてきた瞬間、横に跳躍して魔物の一撃を回避する。
「やっぱり、こういう展開になるのは避けられないか。ならば、悪いが倒させてもらう! 英知スキル発動!」
スキルを発動し、デスライガーの詳しい情報が脳内に入ってくる。
「なるほどな。デスライガーの消化液は危険、そしてあんなにボロボロの翼でありながら、空も飛ぶことができるというわけか」
魔物に関する情報を手に入れたその時、デスライガーは後方に跳躍して翼を羽ばたかせると、風をこちらに送り込む。
すると、僅かに異臭を感じてしまった。
なるほど。気圧に変化を起こし、こちらに臭い物質を送り込んで、精神汚染をしようという算段か。魔物ながら、それなりに考えるじゃないか。
「でもな、それ以上の風をこちらから送り込めばいいという単純な話だ!ストロングウインド!」
強風を生み出す魔法を使い、こちら側の気圧を高くする。それにより魔物が送り込んだ臭い物質が押し流され、再び異臭を感じなくなった。
「さすがに体格がでかいだけあって、吹き飛ばされて壁に激突するなんてことにはならないか」
デスライガーは戦略を変えたようで、俺に向けて突進してきた。しかし、バカ正直に突っ走ってくるだけの攻撃は、容易に躱すことができる。
「ハハ、どうした? そんな攻撃簡単に避けられるぞ」
魔物の攻撃を躱し、振り返る。しかしその瞬間、俺は過ちに気づく。
やつの狙いは俺にダメージを与えることではない。風下から風上に移動するのが狙いだったのだ。
魔物の身体から放たれる臭い物質を吸い込んでしまい、俺はイライラし出す。
「しまった!」
「ユーゴさん! 私に任せてください! スタビライティースピリット」
思わず叫んでしまった瞬間、アリアが呪文を唱えた。
すると、不思議なことに俺のイライラは治まっていく。
「ユーゴさんに精神安定の魔法をかけました。これで、魔法の効果がある限りは、精神汚染は無効化されます」
「サンキュー助かった」
「いえ、これも妻として夫をサポートするのは当然ですので」
アリアの言葉に、俺は苦笑いを浮かべる。
本当にこの聖女様はブレないな。
だけど、彼女のお陰で立ち位置を気にすることなく、戦うことができる。
あと、怖いのはやつの口から放たれる消化液だ。触れれば肉体の物質を分解させられ、骨だけになってしまう。
やつの口を警戒していると、デスライガーは翼を羽ばたかせて舞い上がり、俺の頭上に移動を始める。
なんだか嫌な予感がするな。
そう思った瞬間、魔物の喉が膨れ上がった。
「やっぱり予想的中!」
前方に倒れるように跳び、両手が地についたタイミングで腕に力を入れる。そして筋肉のバネを利用して空中に飛び、身体を一回転させて着地を決める。
振り返ると、俺の立っていた位置には、魔物の消化液だと思われる液体が飛び散っていた。
危なかった。もし、少しでも判断が遅れていたのなら、あの消化液に当たっていたかもしれないな。
再び同じ攻撃をされたのなら、厄介だ。早々に決着をつけたほうがいいだろう。
「何かいい方法がないか探すか。英知スキル発動!」
スキルを発動させ、この場に適した解決方法を探す。
よし、これならやつの消化液を封じることができる。シャクルアイス」
空気中の水分子を集めて水の塊が出現。
水の一部を切り離し、蛇のようにデスライガーに向けて飛び出すと、敵の口周りに巻きつく。
すると今度は巻きついた水に限定して気温が下がり、氷へと変化した。
これでやつが消化液を吐き出すことができないはず。
口に張り付いた氷をどうにかしようとしたのだろう。デスライガーは首を左右に振ったり、自ら壁に激突して氷を破壊したりする。
しかし皮膚に密着した氷は簡単には破壊されることはなかった。
「氷に気を取られている今がチャンスだ! 燃え尽きろ! ファイヤーボール」
空中に複数の火球を生み出し、デスライガーに向けて放つ。火球は魔物の肉体に直撃し、全身を燃やし尽くす。
『ギャオオオオオオオン』
最初は氷で口を塞がれていたことで、静かに燃えていた。けれど、熱で口を覆っていた氷が溶けてなくなると、魔物の悲鳴が洞窟の中に響く。
その後、体内の臓器を燃やし尽くされたデスライガーは、地面に倒れて動かなくなった。
「これでよし、後はこの辺りのことを紙にマッピングするだけだな」
服のポケットの中に仕舞い込んでいた紙とペンを取り出し、マップの作成を始める。
「ユーゴさん大丈夫ですか! どこかお怪我などは」
俺がマッピングを始めたことで、安全になったと判断したようだ。アリアが俺のところに駆け寄ると、ケガをしたところがないか尋ねてきた。
「大丈夫だ。ありがとう」
心配してくれたアリアにお礼を言い、マッピングの作業を再開する。
洞窟の最奥まで来たけれど、結局イアソンたちの痕跡すら見つけることができなかったな。多分死体が見つかっていない以上は生きているだろうから、多分リタイアして逃げ出したのだろう。その辺もギルドに報告しておかないといけないな。
「これでよし。マッピングの作業が終わったから、ギルドに戻って報酬金額をもらいに行こう。結構な額だから、今日は奮発していい店に行くとしよう」
「まぁ、今日ぐらいは許しますが、贅沢は家計の敵ですからね。妻として、ギルドの報酬金は私が管理します」
「いやいや、正式に挙式を上げていないから関係ないだろう」
「ダメです」
俺とアリアは違いに笑い合う。
アリアとの呪いの契約を解くことができるのか、それはわからない。だけどこれからどんな苦難が訪れようと、彼女と一緒なら乗り越えていける。
俺はそう思った。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
思っていたのよりもPV、ポイントが伸びないので、キリのいいこのタイミングで打ち切り完結とさせてもらいます。
言い訳になってしまいますが、今回の件は、注目を集めるようなタイトルが思いつかなかった私の実力不足です。
もし、万が一にも完結ブーストでランキング入りをするようなことが起きましたら、続きを投稿しようかと思います。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございました! 心からお礼を申し上げます。
もし、何かしらの縁で私の新作を見ましたら、その時は是非読んでいただければと思います。