第二章 第三話 ここのダンジョンたいした敵がいないのに、どうしてイアソンたちは戻ってこないのだろう
俺とアリアは、ギルドからの依頼を受けて新たに発見されたダンジョンの前に来ていた。
「ここが新しいダンジョンのようですね」
「そうだな。どんな魔物が住み着いているのかわからない。ここは気を引き締めていこう」
「ユーゴさん」
「なんだ……う!」
服の袖を引っ張られ、俺はアリアのほうを見る。すると彼女はいきなり爪先立ちをしてきたかと思うと、俺の唇に自分の唇を触れさせてきた。
軽く触れる程度のものだったが、不意をついたキスをされ、俺の鼓動は早くなる。
「ダンジョンに入るのですから、ユーゴさんのスキルを使えられるようにしとかないといけないですよね」
ニコッと笑みを浮かべながら、彼女はいきなりキスをした理由を述べる。
ビックリした。まさか、俺が頼む前に、アリアのほうからしてくれるとは思わなかったな。
俺は自身の胸に手を置く。当たり前だが、まだ心臓が高鳴っている。
嬉しいけれど、正直申し訳ない。キスをしないと頭痛が発生する副作用のせいで、アリアは俺と共に行動をしている限り、自身の身を守るためにも唇を触れさせる必要があるのだ。
呪いの契約のせいで、彼女にこんなことをさせてしまっている。一秒でも早く、ここのダンジョンの調査を終わらせて依頼を完了させよう。
キスによる頭痛の緩和は永続ではない。一定期間が経てば、効果がなくなる。
今の俺には、立ち止まっている時間はないんだ。
ゆっくりと歩き出し、ダンジョンの中に入っていく。
ダンジョンの中は、光を放つクリスタルがあるお陰で明るい。
「ダンジョンの中は、光を放つクリスタルがある……と」
紙にダンジョン内のマップを描きながら、ダンジョンの中の様子を詳細に書いていく。
『キュ、キュキュ』
しばらく歩いていると、吸血コウモリが現れた。侵入者を排除しようとしたのだろう。俺たちに向かって突進してきた。
アリアをお姫様抱っこして後方に跳躍し、敵の攻撃を躱す。
「英知スキル発動!」
スキルを発動し、魔物の情報が頭の中に流れ込んでくる。もちろん、先ほどアリアにキスをしてもらったお陰で頭痛を感じない。
吸血コウモリは強風を発生させてバランスを崩させる戦法が効果的か。えーと、強風を生み出す魔法の使い方は……と。
もう一度スキルを発動させて魔法の使い方を学ぶ。
「よし、わかった。ストロングウインド!」
呪文名を叫ぶと、空気の流れが変わり、吸血コウモリに向けて強い風が発生する。
強風の影響を受け、魔物は翼を羽ばたかせてバランスをとることが困難な状況に陥っていた。
抱き抱えていたアリアを下ろし、俺は短剣を取り出す。
吸血コウモリは、バランスを保つことができずに洞窟の側面に激突していた。
「倒すなら今がチャンス!」
魔物に接近し、俺は吸血コウモリの心臓に目がけて短剣を突き刺す。
『キュキュキュ!』
コウモリ型の魔物は体内から鮮血を吹き出し、短い鳴き声を上げる。身体に激痛を覚えて暴れていたが、数秒後には動かなくなった。
「ユーゴさん、大丈夫ですか!」
短剣を魔物から抜くとアリアが駆け寄ってくる。
「ああ、返り血を浴びてしまったけれど、俺は無傷だ」
「大変! 直ぐに拭き取りますね」
アリアがポケットからハンカチを取り出すと、俺の服や顔についた血を拭き取ってくれる。
「別に帰ってから洗えばいいから、そんなに慌てることはないのに」
「ダメですよ。挙式を上げる前なのですから、ユーゴさんの顔を綺麗にしておかなければなりません」
彼女の言葉に苦笑いを浮かべる。
挙式って、頼むから諦めないでくれよ。こうなってしまったのには、俺にも原因があるのだから。
声に出して言うと、また反論されそうな気がしたので、心の中で呟く程度に留める。
「とりあえず、ここのダンジョンには吸血コウモリがいることも書いとかないといけないな」
マッピング中の紙に、吸血コウモリのことも付け足す。
「よし、先に進もう」
再び洞窟内の様子を書き写しながら奥へと進んでいく。
『グルルルルル』
しばらく歩いていると、虎型の魔物、キリングタイガーの生息を確認した。
相当気が立っているのか、周囲を警戒しており、唸り声を上げている。
「怖そうな魔物ですね」
「見た目は怖いが、大した魔物ではない。Cランク以上の冒険者であれば、負けるような敵ではないさ」
俺は様子を見てはいたが、キリングタイガーが俺たちに気づき、鋭利な牙を剥き出して襲いかかってきた。
キリングタイガーは、鋭利な牙と爪で獲物を攻撃する。
しかし、デスファンゴのように人語を話せない分、知能は低い。よって、攻撃は基本的に一直線の単調なものだ。
再びアリアを抱き抱え、後方に跳躍して躱す。俺たちが先程いた場所に爪を振り下ろされ、地面に爪痕を残す。
「さて、先制攻撃をされたが、今度はこちらが攻撃をする番だ」
俺はアリアを下ろすと、素早く眼球を動かして周囲の状況を把握する。
すると、キリングタイガーの足元に麻痺茸が生えていることに気付く。
よし、あれを使うとしよう。
「フロー」
呪文を唱えて微風を発生させると、俺は魔物に背を向け、アリアを片手で力強く抱き締める。
そしてもう片方の手で自身の口を塞いだ。
しばらくして俺は手を離す。
身体に異常が起きていないことを確認すると、俺はアリアを解放する。
「ユ、ユーゴさん、いきなりどうしたのですか! ビックしたじゃないですか」
「すまない。麻痺茸があったから、魔法で胞子を飛ばしたんだ。だから吸い込まないための処置として抱きしめたけれど、痛かったか」
「いえいえ、寧ろ嬉しいと言いますか。ありがとうございます」
頬を赤くしながらアリアは首を横に降る。
胞子を吸わないための処置だったけれど、顔が赤いところを見ると、酸欠の一歩手前だったかもしれないな。
麻痺茸は食べることはもちろん、胞子を吸い込んだだけでも、身体に痺れが痺れてしまう。なので、風で麻痺茸の胞子を飛ばしたのだが、キリングタイガーはそれを吸引してしまったようだ。
地面に這いつくばるように倒れ、ピクリとも身体を動かすことができていない。
「麻痺の効果がなくなったころに、再び襲われてはまた面倒臭いことになる。悪いがとどめを刺させてもらうよ」
懐から短剣を取り出し、動けない魔物の心臓に向けて刃を突き立てる。
麻痺で口もまともに動かせられないのだろう。キリングタイガーは、悲鳴を上げることはなかった。
「うーん。それにしても、今まで出会った魔物は強敵と言えるようなやつはいないじゃないか。イアソンのやつ、いったい何と出くわしたんだ?」
どうしてこの程度の魔物しかいない中、勇者パーティーが帰ってこないのかが不思議だ。だけど、まだ決めつけるのは早いよな。
念のためにも、今以上に気を引き締めていこう。
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