表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤクザVS死霊ノ館【ヤクザVS怪異シリーズ】  作者: 西塔鼎
ヤクザVS呪いノAV編
84/145

■10//DAY1:彼方より届く呪い(2)

 ヤスからの連絡に、東郷は草壁のことはひとまず置いて電話で尋ね返す。


「事故って、大怪我だと? コイカワの奴は大丈夫なのか?」


『わがんないッスぅ……。車もぺしゃんこになって、コイカワさんも全身血まみれで……』


「救急車は」


『呼んでるッス……』


「お前の方は大丈夫なのか?」


『はい……俺はちょっとおでこ打ったくらいで、なんともないッス……』


 ヤスは無事、コイカワは……どの程度かわからないが、負傷した。その状況に東郷は、嫌な予感を覚える。

 つまり――呪いのビデオの影響。ヤスに降りかかるはずだった災いが、すでにコイカワに降りかかろうとしているとでもいうのか。

 だが、それでは筋が通らない。呪いで死ぬのは三日後のはず、まだ昨日の今日というタイミングで影響が出始めるというのはいささか妙なのではないか?

 そんな思考を巡らせながらも、とはいえそんな理屈をこねている場合でもない。


「……場所を教えろ。今すぐ俺らも駆けつけ――」


 そう言いかけたところで、電話口で『わわっ!』とヤスの驚く声。

 何かと思っていると、聞こえたのは……コイカワの声だった。


『カシラァ……俺ァ大丈夫です。こんなん、かすり傷ですから――ツバでもつけときゃ治りやすぜェ……』


「コイカワなのか!? この馬鹿、救急車が来るまで喋らず待ってろ。俺らもすぐ、そっちに……」


『そいつァいけません――カシラたちは、草壁のやつを締め上げて、吐かせてくだせェ……。でないと、呪いが……あの、女がッ(・・・・・・)……』


 ごほ、ごほ、と明らかによくない咳をするコイカワ。「喋るな」ともう一度東郷が叱責するがそれを無視して、コイカワはさらに震える声で続けた。


『お気をつけてくだせえ、カシラ……。あの女は、もう、俺らに取り憑いてます……。呪いをさっさと潰さねえと、3日も経つ前に、みんな――ああ、窓に……窓に、ひぃ、ひぃぃぃ!!』


 そこでコイカワの言葉が途切れて、遠くで「コイカワさん!?」と呼ぶヤスの声が聞こえてきたのを最後に通話が終了する。

 携帯電話をしまうと、東郷はしばしの沈黙の後――草壁をじっと見つめながら口を開いた。


「草壁。頼む、知っていることを全部、話してくれ」


「…………知ったことかよ」


「この呪いをどうにかしねえと、舎弟が死ぬかもしれねえんだ。……頼む」


 そう告げたかと思うと、頭を深く下げる東郷。そんな彼の背後でリュウジもまた、草壁を睨みながら静かに言葉を継ぐ。


「聞けよ草壁。カシラはな――舎弟の呪いを回避させるために、自分でもあのビデオを観たんだよ」


「……何だと?」


 その言に、草壁はわずかに顔色を変えて東郷をきつく睨む。


「観た、だと? なんで、そんなことを。馬鹿なのかお前、あれ(・・)を観ればお前もッ……」


 東郷の眼差しと草壁のそれとが、剣先のように交錯して。……やがて草壁は顔を押さえると、再びソファに沈み込む。

 そして、しばらくそうした後。彼は深いため息を吐いて、こう呟いた。


「…………いいさ、話してやる。どうせお前も死ぬんだからな」


 ふてぶてしく足を広げソファの背に背中を預けたまま、東郷を睨んで彼はどこか投げやりな笑みを浮かべて――


「お前の舎弟に例のビデオを送りつけたのは、僕だよ」


 告げられたその言葉に、しかし東郷は眉ひとつ動かさず。ただ一言だけ、問いを返す。


「復讐か、俺への」


「ああ、そうだ。……と言っても、舎弟を殺すだけのつもりが――まさかお前まで観るとは思っていなかったがな」


 そう言って鼻を鳴らすと、彼はそのまま、話を勝手に続けた。


「最初は、たまたま僕のところにアレが送られてきた。……差出人はもちろん不明でな。気味の悪いビデオだと思ったし、なにかの嫌がらせかと思った。なにせ出ているのは僕の両親なんだからな。だから一度観たっきり、放置していたんだ。そうしたら間垣の奴が何を勘違いしたか勝手にパクって行ってな――するとどうだ、あいつが殺されたって言うじゃないか。しかもあいつと一緒にビデオを観た奴らまで」


 口元を引きつらせたように歪めながら、彼は笑う。


「……だから僕は、この復讐を思いついたんだ。任侠は、家族だなんて――下らない、時代遅れの仁義を気取るお前の面目を、潰してやりたかったんだ」


「てめぇ……腐れ外道が」


 青筋を立てて拳を握るリュウジを手で制しながら、東郷は黙ったまま草壁の言葉を待つ。

 草壁の顔に浮かんでいたのは……戸惑いだった。


「――なのに、なんでだ。なんで、お前はあのビデオを観た。自分の命が惜しくないのか? 観れば……死ぬんだぞ?」


「そんなもん、当然だろ」


 東郷の答えに、迷いはなかった。


「兄貴分ってのはな、舎弟の、盃交わした義兄弟の命を背負ってんだよ。舎弟が死ぬかもって時に自分だけ助かろうなんて考えてたら、極道失格だろうがよ」


「……っ!」


 目を見開いた後、それきり黙り込む草壁。そんな彼を見つめたまま、東郷は静かに続ける。


「てめぇとは、きっちりケジメをつけてやる。だが……その前に、ケリをつけさせちゃくれねえか。どいつもこいつも馬鹿ばっかだが、俺にとっちゃ大切な舎弟(かぞく)なんだ」


 東郷の言葉に、怒りや憎しみはない。ただ凪いだ海のように落ち着いていて――だから、だったのかもしれない。


「……間垣が死ぬ、少し前のことだ。あいつは僕に、電話を入れてきた」


 ぽつりと。そう話し始めた彼に、東郷は問う。


「どういう内容だったんだ」


「女が。全身を腐らせた、髪の長い女が――どこに行ってもついてくる、と。助けて欲しい、と。そうあいつは、言っていた」


「女……」


 その言葉に東郷は顎に手を当て思考する。つい先ほどコイカワも、「女が」と口走っていた。

 女――呪いのアダルトビデオに無関係だとは思えない。だとすれば。

 そう東郷が思考を巡らせていた矢先。


「東芦原共同墓地。ここからそう遠くない、市営の墓地だ。そこに――僕の母親は埋葬されている」


「埋葬……」


「あの男が死んで数ヶ月ほどしてから、後追いのように自殺したんだ」


 そう告げる草壁の言葉に、しかし先ほどのような刺々しい敵意はなく。今はただ、その声音はどこか疲れ切ったようだった。


「あのビデオのことは、僕にもよく分からない。西行が死んだ後、どこで埋葬されたのかも僕は知らない――だから僕が出せる情報といえば、このくらいだ。そんなものが、何か役に立つかは分からないが」


 そうぼやいて視線を逸らす草壁に、東郷はゆっくりと、頭を下げた。


「……恩に着るぜ、草壁」


「はっ。……せいぜい足掻いてみせろ。くそったれ」


 そんな言葉の応酬を最後に、部屋を後にする東郷。その後にリュウジも続こうとして――その時草壁が「おい」と呼び止めた。


「何だ」


「リュウジ。……あいつは何で、僕に何もしなかったんだ」


「……あん?」


 怪訝な顔をするリュウジに、草壁は手を組んだまま静かにぼやく。


「『経極の白虎』。敵だけでなく、組員だろうがヘマをした人間には容赦なくケジメをつけさせる、暴力の権化のような男――そのはずだ。それがどうして、僕のことを見逃した」


 そんな草壁の、どこか戸惑いの混じった言葉に。リュウジは彼の困惑を見て取って……少しばかり呆れたように小さく息を吐きながら、こう返した。


「似てるから、かもしれんな」


「似てる、だと?」


 頷きながら、リュウジはサングラスを外して直に草壁を見つめる。


「カシラは絶対に言わねえだろうから、俺が代わりに言うがな。カシラは――お前の父親、西行にご両親を殺された。そしてその復讐として、西行を殺した……だからってこと、なのかもしれんさ」


「なっ……!?」


 驚いた顔で固まる草壁を見て小さく鼻を鳴らすと、リュウジはサングラスをかけなおして「じゃあな」とそのまま部屋を後にする。


 ……ただひとり残された草壁は、彼らが出ていった扉をいつまでも、いつまでもじっと見つめ続けていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ああ、窓に!窓に! ……やっぱギャグ味が強いと思うんだ、この作品 ???:「ええっ?そんな事ないっすよ!」 [気になる点] かゆい うま が登場する日もそう遠くない?w [一言] 地…
[良い点] 一度は観た。その後かっぱらわれた。三日以上経過しているのに死んでない 草壁には呪いがかかっていない…? いいですねぇ、回収が気になります [一言] 窓に窓にって、元ネタはコズミック『ホラ…
[一言] 誰が草壁にビデオを送ってきたんだろうな…… 間違いなく何らかの悪意が有って送ってきたんだろうけど。 草壁は過去を知らなかったのね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ