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ヤクザVS死霊ノ館【ヤクザVS怪異シリーズ】  作者: 西塔鼎
ヤクザVS呪いノAV編
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■6//二人の犠牲者(2)

 その後警察に通報して、しばらくの間事情聴取を受けた後で東郷たちが事務所に戻ったのは深夜になってからだった。

 とはいえこんな現場で、疑惑を向けられても仕方のない状況にも関わらずこの程度で解放されたのはいささか意外ではあったが……向こうとしても、この異常な状況がたかがヤクザの手によるものとも思えなかったというわけか。

 あるいは単純に、東郷たちにかまけていられるほどの人員が不足していたのかもしれない。というのも――


「……本田川の奴まで、やられたとはな」


 工藤のアパートで通報をしてすぐ、東郷は本田川の安否を確認するため彼と連絡をとろうとした。

しかし電話は繋がらず、仕方なしにリュウジを彼の自宅へと向かわせたところ――案の定、と言うべきか。……彼もまた工藤と同じように、自宅で殺されているのを発見された。

 二箇所でほぼ同時に起こった、同じ手口の殺人。

 それも、被害者はまたもや暴力団の構成員――こうなってくるともう、警察としても頭を抱えたくなる案件だろう。


 応接間奥の椅子に座りながら、東郷は頬杖をついて舎弟たちを見回す。流石に皆、少なからず動揺しているようで――重苦しい沈黙が横たわっていた。

 そんな中、ややあって口を開いたのはリュウジだった。


「……本田川の部屋の状況も、工藤のところとほとんど同じでした。全身が捻じ曲げられて、やはり壁中血まみれで――例の印も」


 そう言って彼が携帯で見せたのは、本田川の部屋にあったという「印」。それは間垣、工藤の現場にあったものと同じ、あの奇怪な文様であった。


「間違いなく、間垣の時と同じだな」


 呟きながら深くため息をつく東郷。

 失策だった。……あの時、本田川を帰すべきではなかったのだ。

 あそこで彼を保護しておけば、あるいは「呪いのビデオ」とやらの尻尾を掴めたかもしれないというのに。

 そんな後悔に囚われそうになるのを振り払うようにして、東郷は言葉を続けた。


「……呪いのAV、呪いのビデオ。ったく、ふざけた真似してくれやがる」


 そんな東郷に、俯いて悩んでいたヤスがぽつりと口を開いた。


「でも……その。変な言い方っスけど、今回のが本当に呪いのAVってぇやつの仕業だとしたら、少なくともうちの組員からはこれ以上は被害は出ないってことなんスかね」


「どういうことだよ?」


 首を傾げるコイカワに、ヤスは指を立てながらこう答える。


「今回最初に呪いのAVを観たのは間垣で、それに付き合って観たのが本田川と工藤……ってことは少なくとも、ここまでで呪いは一段落のはずっス。間垣の部屋からはビデオ自体は消えてたって話でしたし、ならひとまずは安心なんじゃないかなぁと思うんスけど」


 しかしそんな彼の推論に、腕を組んでいたリュウジが口を挟む。


「だが、呪いのAVってのはお前が調べてきた話じゃあ勝手に送られてきたりもするんだろう? 間垣の部屋にすでにねぇってことは、またどこかの誰かの手元に送られているかもしれん。あるいは、それを送りつけてる奴が――俺たちを、つまり『経極組』自体を狙って仕掛けている可能性だってある」


「……呪いのビデオを使って、暗殺紛いのことをしてるってことッスか!?」


「そういう可能性もあるって程度だがな。……だが、まだ無いとも言い切れない」


 そう神妙に呟くリュウジに、東郷はゆっくりと頷いた。


「リュウジの言う通りだ。……それに、仮に俺たちとは無関係だとしても、俺たちのシマで呪いのAVなんてワケの分からんものに好き勝手させておけるかよ」


「……ってェことはカシラ、今度もまた“戦争(バト)”るってワケですか!?」


 どこかテンション高めに問うコイカワに、東郷はもう一度、しっかりと頷いて返す。


「当然だ。そもそも何であれ、呪いのAVとやらはうちの組員を殺しやがったんだ。……生かしておけるかよ」


「生きてはいねェと思いますけど……でもそうでさァな! 今までだって色々な相手とやりあってきたんだ、今度だってやってやらァ!」


 気合十分にそう答えるコイカワ。だが反面で、やはりヤスはいまだ奥歯に物が挟まったような顔をしていた。


「カシラの言う通り、確かにどうにかしないといけないッスけど……でもカシラ、今回はどうするッス? ビデオも手元にない、本田川さんも工藤さんも死んじまってて――今のところ、手がかりがこれ以上ないッス」


「……うーむ」

 彼の指摘は、もっともだった。今回は完全に受け身に回ってしまっている上に、肝心の呪いのAVとやらも手元にない。

 しかも呪いを受けた二人はすでに死んでいて――今のところは動きようがない。

いつぞやの「死霊の館」事件の時や「学校の怪談」事件の時のように明確にカチコミ先があり、殴る相手が分かっていればやりやすいのだが……今回は完全に後手に回らざるを得ない以上、そうすることも叶わないのだ。

 唸りながら思考を巡らせて……そこで東郷は、己の机の上であるものに目を留めると、しばしの黙考の後でこう告げた。


「……よし、決めたぜ。お前らは今日のところは帰って休め。また明日から、色々と働いてもらわんといけないからな」


「何か、手を思いついたんで?」


 そう訊ねてきたリュウジに、東郷は頷くと机の上――そこに無造作に置いていた一枚の名刺(・・・・・)をつまみ上げて続ける。


「ああ。餅は餅屋、ってな――ちょいとばかしアテがあるから、ここはひとつ専門家の意見を聞いてくるとするさ」




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― 新着の感想 ―
[一言] 極道と拝み屋が交差するとき、物語が始まるんですね(既に始まっている
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