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ヤクザVS死霊ノ館【ヤクザVS怪異シリーズ】  作者: 西塔鼎
ヤクザVSゾンビヤクザ編
137/145

■8//呪術師、井境(2)

 車を走らせて例の屋敷を訪れると、屋敷の周辺には人の気配はなかった。

 東郷たちのもの以外に車などが近くに停まっている様子もない。美月たちが転居して以来、ずっと空き家となっているのだ――あるはずもない。

 門をくぐって玄関口まで来てみても、やはり最初この屋敷を訪れた時のような独特の敵意も感じられなかった。

 それを確認しつつ、東郷は携帯電話でヤスの母、宮前燐へと連絡を試みる。

 だが……やはり連絡はつかないまま。

 美月がさらわれたということは、井境は燐すらも退けてしまったということに他ならない。

 燐の安否も気にかかるが――ひとまず今は、井境のもとへ急がねば。

 そんな思いとともに一行は玄関を開け、土足のまま中に立ち入っていく。

 あの一件以降、この館は八幡一家から経極組が買い上げた形になっている。それから定期的に最低限の掃除くらいは入っているため、空き家でこそあれ中は荒れ果てもせず、一家が住んでいた頃とそれほど変わりもない。


「野郎、どこにいやがるんだァ?」


「おーい、美月ちゃーん! どこッスかー!?」


「バカ、余計な声出すな。こっちの居場所がまるわかりになるだろうが」


 とコイカワ、ヤス、リュウジが口々にそんなことを言う中、東郷は布でくるんだ「戻丸」で己の肩を軽く叩いて周囲を一瞥する。

 敵意は、感じられない。だが――何者かの視線を、背中に感じたような気がしたのだ。

 電話口から遠くの人間を呪い殺せるようなデタラメな相手である。リュウジはああ言うが、恐らくは東郷たちの動向など完全に筒抜けなのだろう。


「……とりあえず、また例の仏間覗いてみるか」


 井境に聞かせるようにそうわざとらしく呟くと、東郷はずいずいと廊下をまっすぐ奥へと進んでいく。

 意外にも井境が罠を仕掛けている……というようなこともなく、あっさりと一行は屋敷最奥の仏間へとたどり着いた。

 壁には以前東郷たちが暴れまわった時の弾痕などがいまだに残っているし、畳なども荒れ果てたまま。だが――例の一件以降塞いでおいたはずの地下への階段はというと、再び何者かによって蓋を剥がされ口を開けていた。


「けっ、入ってこいとでも言いてェのか」


「向こうとしちゃこの刀が欲しいわけだから、そうなんだろうよ」


 そう呟いた東郷に、ヤスが難しい顔で口を開く。


「しっかし、その刀を手に入れることにどういう意味があるスかね」


「そりゃお前。斬り殺した相手をゾンビにできるなんてトンデモ刀なんだしよォ、使い道はいくらでもあンだろ」


「でもコイカワさん。井境って奴はわざわざそれをあのガキに持たせて……それで殺しとかさせてたわけッスよ。しかもあいつそそのかして俺らや月無組まで巻き込んで抗争起こそうとしたりして」


 月無組と経極組との抗争、半グレたちの拳銃所持。

 この調子だとひょっとしたら、最近の行方不明事件にだって一枚噛んでいる可能性もある。


「……確かに何かしらの目的は、ありそうだな」


 リュウジも同意するように頷くと、ヤスは「ッス!」と声を上げ、


「まあ目的は全然分からないんスけど……」


 一転して肩を落とすヤスに、東郷は階段を覗き込みながらこう返した。


「ま、目的なんて知ったこっちゃねえよ。どのみちこれだけ好き勝手やられてんだ、言われた通りにこいつをくれてやる義理もねえ――ぶん殴って洗いざらい吐き出させてやる」


「……まあ、いつも通りですね」


 苦笑交じりに頷くと、リュウジが東郷の肩を叩いた。


「露払いは俺がします」


「そうか、任せた」


 そう東郷が頷くと、彼は注意深く懐中電灯で中を照らしながら、散弾銃の銃口を前に向けながら階段を降りていく。

 その後を付かず離れずで追って、東郷たちも地下へ。すると先を進んでいたリュウジが、警戒した声で呟いた。


「……明かりが」


 彼の言わんとすることは、後ろを歩いていた東郷たちにもすぐに理解できた。

 以前訪れた時は真っ暗だった地下道に、点々とランタンが置かれてほのかに辺りを照らし出していたのだ。


「ご親切なことで」


 舌打ちしながら進んでいく東郷たち。ここまできたらもう、この先に井境がいるであろうことは疑いようもない。

 歩みを早めて先へ進んでいき……広間まで出たところで、東郷たちは思わず息を呑んだ。


「……なっ……?」


 広間の奥の土壁。金網で補強されたそこで両手を磔にされていたのは、一人の少女。

 だがそれはさらわれた美月ではなく。

宮前燐――ヤスの母、その人だったのだ。

 両手を何か釘のようで打ち抜かれ、壁に固定されている燐。

 だがそれ以外にも、着物のあちこちに切り傷があり、口の端も切れている。痛ましい姿だ。

 いつも泰然としている彼女のそんな姿に驚く東郷。だがそれよりも驚いていたのは――


「……え、かーちゃん……? なんで……」


 呆然としながら、死んだはずの己の母を――それも何年も前に失踪して、その時のままの姿の彼女を見つめて呟くと、ヤスはよろよろと燐に近付いていく。

 だが――その時燐がうっすらと目を開けると、近付いてきたヤスを見て、こう叫んだ。


「……だめですっ、来てはっ――」


「え?」


 ――東郷たちですら、あっという間のことで間に合わなかった。

 それが姿を現したのは、ヤスの頭上……ちょうど暗がりになっていた、地上へ続く梯子から。

 ヤスの背後に音もなく降り立って、肩でも叩くような手付きで彼の腹を背後からナイフで一突きすると、崩れ落ちるヤスを見下ろして「あぁ」とそいつは呟く。


「なんだよ、東郷さんじゃなかったか。残念だなぁ」


 そう言いながらヤスを刺したナイフをくるりと回転させて、東郷たちに振り返った彼は――喪服みたいな真っ黒なスーツに、黒い頭巾と翁の能面を着けた背の高い男。

 間違いない、彼こそが……井境御堂その人に他ならなかった。



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