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ヤクザVS死霊ノ館【ヤクザVS怪異シリーズ】  作者: 西塔鼎
ヤクザVS怨霊ノ廃ラブホテル
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■2//妖刀「戻丸」

「なあ婆さんよォ、妖刀ってェと、あの妖刀か? ムラマサとか、そういう系」


「そうだよ下っ端。顔の割には分かりがいいじゃないかい」


「んだとォ」


 また喧嘩腰になるコイカワの隣で、ヤスが呑気な顔で続ける。


「お婆ちゃんが妖刀を打ったッスか? すごくないッスか、それ? 妖刀ってどうやって打つッス?」


「お前らうるせえぞ」


 リュウジが二人をたしなめたところで、東郷が続いて切り出した。


「詳しいことを聞かせてくれるか。いきなり刀探せって言われても、なんの手がかりもねえんじゃさすがにお手上げだ」


「安心しなよ。ある程度の心当たりはあって言ってる。……その妖刀ってのはね、盗まれたものなのさ」


「盗まれた……? あんたの手元からか?」


 東郷の問いにしかし、彼女は首を横に振る。


「ちょいとばかし長い話だが、我慢しとくれ。その妖刀……銘を『戻丸(もどりまる)』って言うんだけれどね、そいつはとある神主からの頼みで打ったものだったのさ」


「神主が、刀を? ……なんだか妙な話だな」


「あたしもそう思ったさ。もう二十年は前になるかね、その神主とは知らない仲じゃなかったんだが……ある日にいきなり、その神主が妙な金属のカタマリを持ってきたのさ」


「なんだァ、そりゃ」


 怪訝そうに後ろでコイカワが声を上げる。彼のように正直な反応こそしなかったが、東郷も似たような心境ではあった。


「神主が言うにはね、それにはなんだか悪いモノが封印されてるとかで――その封印を完全なものにするために、刀のカタチにして縛り付ける必要があるんだと。あたしもそんな気味の悪いものに関わりたくはなかったけどね、とはいえその神主が本物(・・)だってことも知ってたから、それが冗談や酔狂じゃないってことも分かった」


「本物……霊能者ってことか」


「ああ。表の魔除けも、その神主が仕込んでくれたものさ」


 頷きながらそう返すと、浅葱はさらに続ける。


「だから結局、あたしはその頼みを引き受けて――『戻丸』を打った。打っている間中、炉の間近だってのに妙な寒気がしてね。ああ、こいつはヤバい代物だ、ってあたしでも分かったね」


「……大丈夫だったのか?」


「見ての通りさ。打ってる最中も、その神主がずっと近くで見張ってたからね。そうでなきゃ、どうなっていたか分からないけど――ともあれ無事にあたしは刀を打ち終えて、神主に渡した。神主はそいつを自分とこの神社で封印して――話はそれで、終わりのはずだった」


 そこで小さく嘆息した後、浅葱は作務衣の袖下から煙草を取り出す。

 火を点けてゆっくりとくゆらせた後、彼女はじっと東郷を見た。


「1週間くらい前に起こった殺人事件のこと、あんた知ってるかい」


「……いや。悪いが、知らねえな」


 テレビのニュースも最近は連続行方不明事件の方でもちきりで、それ以外の事件の扱いは小さい。

 そんな東郷の答えに「そうかい」と呟くと、紫煙を吐きながら浅葱は続ける。


「1週間前、その神主が殺されたんだ。自分の神社で、全身をバラバラに切り刻まれてね。しかも凶器は恐らく日本刀……その上、神主が保管していたはずの戻丸は神社から消えていたって話だ」


「……押し込み強盗か?」


「なら、まだ単純な話だったんだがね」


 面倒くさそうに首を振りながら、彼女は肩をすくめてみせる。


「神主には息子がいたんだが、そいつがその日から行方不明なのさ。んで、戻丸も消えてるとくりゃ……どうあっても結びつけたくなっちまうだろう」


「……確かにな。だが、気持ちのいい話じゃねえが――息子もバラされてるって可能性もあるだろう。息子がやったと見せかけて、全く縁もゆかりもない真犯人が逃げ回ってるかもしれん」


「ふん、ヤクザのくせに少しは小知恵が回る。……けどあいにく、そんなこじれた話じゃないよ。なにせ本人から(・・・・)そう聞かされたんだからね」


「……本人、だと?」


 怪訝そうに眉をひそめる東郷に、浅葱もまたなんともいえない表情で語る。


「その神主が、2,3日前に夢枕に立ったのさ。息子が、自分を殺して刀を奪って逃げたってね。……おい、そこのチンピラども。ボケ老人だと思ったろ」


「いや、ちょっとしか思ってないッス!」


「ああ、別にこいつ頭大丈夫かァ? とか思ってねェって」


 口々に言う正直者二人の顔面に裏拳を叩き込んだ後、東郷は頭をかきながら浅葱を見る。

 ……突飛な話ではあるが、とはいえ今までも信じられないようなことはいくらだってあったのだ。ここで疑っても話が進まない以上、呑み込むしかあるまい。


「だが、なんだってあんたに知らせたんだ? 話を聞いた限りじゃ、何もあんたじゃなくても良かったんじゃないのか」


「まあ、あたしはあの刀を打った当事者で――あの刀がどういうものかを知っているから、ってことかもねぇ。所詮は憶測に過ぎないけどさ。……ま、ともあれ御託はここまで。要はあんたたちに探して欲しいってのは、その刀を持ち逃げした神主の息子さ」


「名前は」


「宮代栄斗。今年で大学生だったかね、なんならここに写真もある」


 そう言って彼女が指さしたのは、鍛冶場の片隅に置かれた作業台――その上に乗っていた写真立て。

 そこには彼女と、おそらくは殺された神主であろう壮年の狩衣姿の男性、そして気弱そうな少年が写っていた。


「……少し前の写真でね。今じゃ小憎たらしいガキに育ったよ。それでも……人を、ましてや自分の親を斬り殺すような屑じゃあなかったはずだけどね」


「妖刀の仕業、ってか」


「ああ」


 やや軽口じみた東郷の言葉に、しかし真剣な様子で頷く浅葱。ただならぬその様子に、東郷も表情を鋭くする。


「……あんたたちはこの手の妙な事件に詳しいって、サブから聞いてる。このまま放っておいたら、何かまずいことが起こる――夢枕に経ったあいつは、そういう顔をしてた。だから……どうか引き受けちゃくれんかね」


 そう言って頭を下げてみせた浅葱に、


「……ま、顔も名前も分かってる人探しってんなら、舎弟を動かせばすぐ見つかるだろ。それでそいつを打ち直してくれるってんなら、お安い御用だ」


 そう告げて、東郷は頷いてみせた。


「そうと決まりゃ、こっちは早速動くぜ。あんたの方でもう少し手がかりがあればありがたいが」


「そうさね、件の刀……戻丸は、あたしが打った時と変わらなければ柄も鍔もない、剥き身の刀だ。まあ神主のせがれも、そのままで持ち歩いてるとは思えんがね。それと――もうひとつ」


 そこで言葉を区切ると、彼女はいささか神妙な顔つきでこう続ける。


「もし奴を見つけたら、絶対に一人で捕まえようと思うんじゃないよ。きっと返り討ちに遭う」


 その言葉に、小馬鹿にするように鼻を鳴らしたのはコイカワ。


「……おいおい、舐めてもらっちゃ困るなァ。俺たちゃヤクザだぜ。ドス持ってるってだけの大学生のガキ程度――」


「あんたみたいな奴が真っ先に餌食になるから言ってるのさ。打ったあたしだから分かる、アレは人を、人じゃないものにする刀……ナマス切りにされたくなけりゃ、大人しく束になって捕まえるこったね」


「……分かった。忠告は受け取っとくぜ」


 コイカワの代わりにそう返すと、東郷は席を立つ。


「こっちもすぐに作業には取り掛かるよ。まああたしにかかれば、4,5日もありゃあ直せるだろうね」


「助かる。出来上がったら、ここの番号に連絡をくれ」


 そう言って名刺を渡すと再び一礼し、舎弟たちとともに鍛冶場を出ていく東郷。

 車まで戻ったところで、沈黙していたリュウジが口を開いた。


「毎度のことながら……よくよくこの手の事件と縁がありますね、俺たちも」


「言うなよ。気にしてんだから。……リュウジ、悪いが戻ったら早速、草壁の奴にも連絡入れといてくれるか。こういうちまちました作業は、あいつの十八番だろ」


「了解しました。……見つかると思いますか?」


「さあな。だが――まあ、引き受けた以上はやるしかねえだろ。約束を反故にしたとあっちゃ、任侠(おとこ)がすたるってもんだ」


 ――それから事務所に戻って早速、リュウジたちの働きかけで舎弟を動かして件の神主の息子捜索が始まった。

 とはいえ当然、事件として警察も動いてはいるはず。間違いなく警察としても重要参考人として探しているだろうに見つかっていないのだ、地域の中堅程度のヤクザが動いたところでそう見つかるはずもなく……あっという間に2日、3日と時が過ぎて。

 目立った報告も上がらぬ中――東郷たちの元に舞い込んできたのは、舎弟からのとある相談事だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 剥き身の刃物をばれないように持ち歩く…ひとつ思い浮かぶけど、それだとするなら人間やめちゃってるなー
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