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ヤクザVS死霊ノ館【ヤクザVS怪異シリーズ】  作者: 西塔鼎
<自作品コラボ短編>ヤクザVS完璧清楚委員長
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■1//学校の怪談、再び

5月10日に電撃文庫さまより発売の拙作「ひとつ屋根の下で暮らす完璧清楚委員長の秘密を知っているのは俺だけでいい。」とのセルフ非公式コラボ短編です。

そっちを知らなくとも読める内容になってはいるはずなので、次章までのつなぎとしてささやかですがお楽しみ頂ければ。

7・8・9日投稿で完結予定です。

「……学校の、幽霊調査ぁ?」


 繁華街の一角にある雑居ビル。その一フロアを占める指定暴力団「経極組」の事務所に響いたのは、そんな素っ頓狂な声だった。

 声を発したのは大柄な、いかにも強面……というかどう考えてもそのスジの人間にしか見えない白いスーツの男、東郷兵市。「経極の白虎」の異名を取る経極組の若頭である。

 対して、そんな彼をしてそんな声を上げさせた相手はというと――これまた長身の、しかし見るからに温和な紳士とでも言うべき初老の男性。

 灰色がかった髪をきっちりと撫でつけ、銀縁の眼鏡をかけたその姿はいかにも知性的である一方で、しかしどこか纏う空気は東郷と似て。

 それもそのはず、彼もまた同じくヤクザ――経極組と系列を同じくする「綾次組」の組長、東郷にとっては叔父貴と呼ぶべき相手、綾次錬三郎その人であった。

 好物のイカ寿司を桶から口に運びながら、彼はしかし紳士的な所作を崩さぬままに東郷に頷く。


「ああ。実はこの前お前に世話んなった孫娘――水守(みなもり)ちゃんの中学ン時の友達がな、妙なことに巻き込まれたっつって連絡入れてきたみたいでな。うちの孫娘はなにせ困ってる相手は見過ごせねえ大天使だからよ、相談に乗っちまったみたいなんだ」


 孫娘への溺愛は相変わらず。「この前」というのも、元はと言えば彼が孫娘を心配して東郷に依頼してきたことが発端だった。

 今さらそこにどうこう言う気力もないためスルーしつつ「はぁ」と相づちを打つ東郷。すると錬三郎はさらに話を先に進めた。


「その内容ってのが、また前と似たようなことでな。なんでもその友達――水守ちゃんとは別の高校に通ってるんだが、そこの旧校舎で妙な現象が起きるんだと」


「旧校舎ってずいぶん色んなところにあるンだなァ……」


「うちの学校にはなかったッス」


 後ろの方でひそひそ言い合っているのは東郷の舎弟、コイカワとヤスである。そんな二人の雑談に背中で殺気を送って牽制しつつ、東郷は「なるほど」と頷いた。


「で、それで俺にお鉢が回ってきたと」


「ああ。とはいえ、友達の方の話し振りはそこまで深刻って感じでもなかったみたいで、水守ちゃんも相談に乗っただけだったみたいなんだが――その学校ってのが、ちょいと訳ありでな」


「訳あり、ですか?」


 東郷の言葉に、頷く錬三郎。


「おう。俺の組の関連会社で教材とか納入してる学校でな、学園長とも知らない仲じゃねえのよ。……だもんでそっちのツテで訊いてみたらやっぱり、時々妙な幽霊騒ぎがあるらしくてな。そのせいで生徒が肝試しに入って怪我したりしてるんだと」


 そこまでの話で、東郷はだいたいの展開を把握して言葉を継ぐ。


「つまり、その旧校舎の噂を調べて、なんもないってことを確認してほしい……ってところですか」


「さすがは東郷、その通りだぜ」


 満足気に言いながら茶を飲み干す錬三郎。すると側に控えていたリュウジがすかさず茶を注いだ。


「立入禁止にしても生徒や近くの悪ガキが遊び場にしちまうみたいだからよ、いっそ『何もない』ってことをはっきりさせちまいたいんだとさ」


 それならば別に東郷を呼びつけなくても、と思いはしたが、とはいえ叔父貴である錬三郎にそんな余計なことを言うわけにもいかないし――信頼して任せてくれているのだ、ここで引き受けなければ仁義がすたるというもの。

 深く頭を下げて、東郷は錬三郎に返す。


「謹んで、その依頼受けさせて頂きます」


「恩に着るぜ、東郷」


 そう笑う錬三郎に、そこで東郷は頭を上げると「それで」と続けた。


「調査に行くのはいいんですが……そこで起きてる幽霊騒ぎってのは、どんな内容なんで?」


「ん、ああ。それなんだが……学園長の方はあんまり詳しい話を知らねえみたいで、教えてくれなかったんだわ」


「孫娘さんの方は、お友達から何か聞いてはいないんで?」


 そう問うと、錬三郎は珍しく歯切れの悪い様子で頭をかいた。


「あー……それなんだがな。水守ちゃんはあんまり俺にしゃしゃり出てほしくないみたいで……『おじいちゃんには関係ないから』って言われちまってさ……」


「反抗期ってやつッスかね?」


「高校生だもんなァ」


「お前ら黙ってろ」


 舎弟どもの歯に衣着せぬ発言のせいで一気に肩を落とす錬三郎。そんな彼を十分ほど激励していると、ようやく活気が戻ってきた様子で閑話休題となった。


「……ともあれ、そんなわけでよ。そこの高校の生徒さんが案内してくれるらしいから、細かいことはその生徒さんに訊いてくれってことだそうだ」


「なるほど、分かりました」


 頷く東郷に気をよくした様子で、錬三郎は最後にこう付け加えた。


「もし噂が本当でも、お前らならどうとでもなるから安心だ。頼んだぜ、『経極の白虎』」


 ……信頼されるのは結構だが、その前フリはわりとシャレにならないのでやめてほしかった。


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