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ゼゲル6

 古の奴隷商人曰く。

 炭坑で働く奴隷は生きて帰れない。


 なぜなら、炭坑には死がいっぱいだからだ。


 落盤によって崩れた土砂に巻き込まれ、潰れ死ぬ者。

 地中より湧き出るガスを吸い、中毒死する者。

 水脈を掘り当て、冷水に押し流され、凍え死ぬ者。


 故に、使われる奴隷は使い捨ての罪人ばかりだ。

 アーカードによって引き上げられた価値もここでは何の役にも立たない。


 幸運にも事故を回避できても、ロクな休憩も無く働かされ続ければ、誰であろうと過労で死ぬ。


 命を使い潰す前提で運営される炭坑は、死罪になった者を最後まで活用する為に存在している。


「くそ、ゾゾが倒れた!」

「ガスだ! 近づくな! これ以上進むと死ぬぞ!!」


 奴隷のオーク達が、穴の中で叫ぶ。

 彼らは第一ルナックス戦争時に反乱を起こし、死刑となったものの。


 当時、皇帝の座についていた男の恩赦によって処刑を免れ、奴隷としてこの炭坑で働いている。


 だが、皇帝はオークがかわいそうだから恩赦を出したわけではない。


 今回のオーク達の場合、迂闊に処刑すると魔族……特にオーク族との関係が悪化する懸念があった為、炭坑に放りこんだに過ぎない。


 こうすれば、表向きは慈悲を与えたようにみせかけつつ、労働力として消費し、最後には殺せる。


 一石三鳥の策だ。


 別段、今に始まったことではない。

 皇帝はこれまで幾度となく、自分に刃向かう政敵を炭坑送りにしてきた。


 ヒューム、エルフ、グラスフット、ドワーフ。


 いかなる種族であっても1年と保たずに死亡した。

 その為、皇帝は「オークも死ぬだろう」と考えていたがオーク達は生き残った。


 日々の犠牲はある。

 それでも劣悪な環境に耐え、オーク達は全滅を免れていた。



「おい、オークども! 今日はこんだけしか進んでねえってどういうことだ!? サボってんのか!?」


 酒焼けで顔を赤くした白髭の主人だ。

 かつては帝都の要職に就いた身だったが、政争によって左遷され、今では炭坑の管理へ回されている。


 若いオーク。

 ゼルが頭を下げた。


「す、すみません。しかし、第7行路はダメです。ガスが吹き出して、ゾゾが死にました。」


「はぁ? 勝手に死ぬんじゃねえよ! クズが! 」


 八つ当たりに、投げられたバケツがゼルに当る。

 ゼルは頭を下げたまま動かない。


「数を減らしやがって、交配だ! お前と、そこのお前! 今晩交配しとけ!」

「……はい。」「は、はい。」


 第一ルナックス戦争は100年以上昔のことだ。

 いくらオークが頑丈であっても、60年も経過すれば寿命で死ぬ。


 オークが生きている理由はただ一つ。

 次代のオークが生まれたからだ。


 戦争に負け、捕虜となったオークの中には女もいた。

 過酷な環境でもオークが死なないことがわかると、皇帝はオークたちを交配させ、子供を産ませた。


 当人達の心情など、当然考慮されない。


 まるで豚や牛のように繁殖を強要し、オークの数をコントロールしたのである。

 この炭坑はさながらオークの養殖場だった。


「俺達はおもちゃじゃねえぞ……。」

「やめろ、殺されるぞ。」


 それがどれほどの屈辱か、想像できるだろうか。

 既に戦争に加担していたオークたちは死に絶え、現在炭坑で働くのは後の世代だ。


 何も知らずに生まれてきたオークの子が先祖の罪を着せられている。


 その上、終わりなどないのだ。

 子々孫々に至るまで、彼らの尊厳は踏みにじられる。


 それでも、死にたくなければ受け入れる他ない。


「おい、お前。文句があるのか?」


 先ほど苦言を零したオークが青ざめる。


「ああ、いいな。お前らが交配するところ、しっかり見ておいてやる!」


「確か、親友がいたな? お前が豚のようにつながっているところを、そいつにも見てもらおうじゃないか。いい酒の肴になる。」


 赤ら顔の主人が笑う。

 邪悪な支配者の笑みだった。


「何の為に俺がオーク語を学んだかわかるか? お前らをいたぶるためだ!」


「いいか、お前らは罪人! 生まれながらの奴隷だ!! 未来永劫、お前らに尊厳なんざねえん……。」


 銀剣一閃。

 正義の刃が、主人の首を跳ね飛ばす。

 

「【神性魔術発動(マギリア・ファイア)!】」


 ――ズガンッ


 爆裂した主人の頭部が、坑道に転がり、メラメラと燃えている。

 唱えたのはローブで顔を隠した聖堂騎士だ。


 脳を虫に食われてもなお、リズの剣筋に狂いはない。


 呆気にとられるオーク達の前に、腹のでっぱった中年と老いた男が現れた。


「えっと、これ。聞えてる?」

『疎通魔法は機能しています。』


「坊ちゃん、ここは少し威厳がある感じで。」

「まかせろ。第二ルナックス戦争じゃ、奴隷解放軍を率いていたんだぞ。」


 中年の男、ゼゲルは気を取り直してオーク達に言った。


「お前ら! 怖かったろう! 助けにきたぞ!!」

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