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ゼゲル5


 帝都から離れたカピリスの丘の先に、局所的に自生している森林がある。


 そのうちの一つにゼゲルを案内すると、予定通り待ち人が現れた。


「ゼゲル坊ちゃん。お久しぶりです。」

「バルメロイ!!」


 今は無きゼゲルの生家、ムンミウス家の奴隷にして、反逆者ルナと共に立ち上がった老兵だ。


 突然の再会に喜んだもの束の間、ゼゲルは怒りだした。


「いや、生きていたのなら助けに来い! 何やってたんだ!」

「ほうぼう探したんですが、見つからなかったんですよ。ゼゲル坊ちゃんは隠れるのがお上手ですねぇ。」


 褒めそやされたゼゲルが「え、そうか? 才能かなぁ。」と頬を緩める。


 単純だ。

 こうして見ると、無害な馬鹿に見える。

 

『バルメロイはいち早く私の声に気づいてくださったんですよ。』


「人権を世に広め、人々の尊厳を守る。これこそルナが求めていた新世界です。それを神が後押ししてくださっている。これほど心強いこともありません。」

 

「内々に準備しておりました。計画をお話しましょう。ところで、その御仁は?」


 バルメロイの視線の先にいるのは、虫に脳を食い散らかされ操られている女騎士だ。


「聖堂騎士団のリズ……。なんだったっけ。リズなんたらだ。」

「虫の奴隷魔法で奴隷化してある。襲ってくることはない。」


 想定外だったのだろう。

 これは、と。バルメロイが唸る。


「ただ、脳を食わせたからどれくらい保つかわからないけど。」

「……ゼゲル坊ちゃんは相変わらずですな。」


 バルメロイがリズに憐憫を垂れた。

 脳を犯され、うわごとを呟き続けるリズを元の状態に戻す術はないと理解したのだ。


 ここにリズを遺棄すれば進路が露見する。

 殺して埋めるにしても時間が惜しい。


 このまま行動を共にする他ないだろう。


「これからどこへいくのだ?」


 冒険に胸を膨らませる子供のように、ゼゲルが聞く。

 バルメロイは笑いながら言った。


「まず、これより少し北西へ進み。炭坑の奴隷を解放します。ただ、オークなので会話が通じるかは微妙ですが。」


『そこは私に任せて下さい。疎通魔術で言語を統一します。』


「頼もしいですな。」


 ゼゲルがきょとんとしながら口を挟んだ。


「いや、別に虫の奴隷魔法で脳を支配すれば説得とかいらないのでは?」


 バルメロイと女神が押し黙る。

 この中年は本当に何もわかっていない。


「あのですね、ゼゲル坊ちゃん。我らは奴隷を解放し、自由を齎すために戦うわけですから、あまり非人道的なことは……。」


 ゼゲルは首をかしげている。

 人道に訴えても納得しないと踏んだ女神が別路線での説得を試みた。


『そ、それに。脳を食べてしまっては、オークであってもいずれ死んでしまいます! 戦力として役に立つ前に全滅しては本末転倒ですよ!』


「なるほど。それもそうだな。」


 ゼゲルの瞳に理解の色が浮かんだ。

 不安すぎる。


「うっ、あぅが……! ああ、うぐっ!」

「うるさいぞ、リズ。【痛みを(ペイネス)!】」


 唐突に痛みを訴え始めたリズにゼゲルが拷問呪文をかけると、体内に潜り込んだ虫たちが一斉に暴れ出した。


「あゅがあっ! あうあああああぅう!! ああああああああ!!」

「痛だぁう、あああああああああああーーーーーーーーーー!!」


 頭を掻きむしり、膝を付く女騎士に、もはやかつての面影はない。


 凄惨な光景を見ながら、ゼゲルは「なんだ、使えるじゃん。第一魔法。」と呟いた。

 

 これまで誰も思いつかなかった虫の奴隷魔法の使い方を、ゼゲルはみるみるうちに習得していく。


 まともな精神を持っていれば、虫に脳を食わせて奴隷にしようとは思わないし。身体の中で暴れさせて拷問しようとも思わないだろう。


 仮にできるとわかっていても、良心がそれを許さない。


「お前、散々人を拷問したんだろ? お前の番が来た気分はどうだ? ん?」

「悪事には必ず報いが来るものだ。わかったか?」


 自慢げに高説を垂れるゼゲル。

 児童売春を繰り返し、幼子を拷問の末に殺害し続けた者の口から出る言葉とは思えない。


 ゼゲルにも良心はあるのだ。

 でなければ、妻子を殺されて心を痛めたりもしないだろう。


 だが、どういうわけか。どうしようもなく歪んでいる。


「ゼゲル坊ちゃん。あまり騒がしいと追手に気づかれますよ。」

「やべっ」


 だが、その残虐さこそが今は必要だった。

 でなければオークを使役し、帝都に攻め込むことなどできはしまい。


 女神は考える。


 これから無辜の民が大勢死ぬだろう。

 皆、意味も分からず、わたしを呪うかもしれない。

 

 それでもアーカードを殺し、奴隷魔法の流出を止めることができるなら、帝国が滅ぶくらい安い物だ。


 人間の生命力は強い。

 国が滅んでも生き残った人々は、また子を育み、村を作るだろう。


 一見、残酷に見えるかもしれないが。長い目で見ればこれが最善なのだ。

 奴隷魔法が広まるよりずっといい。


 そうだ。

 うまくいかなかったなら、一度潰してからやり直せば良いのだ。

 その過程で生まれる苦しみなど、1000年も経てば皆忘れる。



 すべてが終わった後は、ゼゲルを殺そう。

 災禍の火種は徹底的に消しておかないと、何が起こるかわからない。


『それでは、皆さん参りましょう。奴隷解放の為に!』

「おーー!!」


 ゼゲルとその一向は、炭坑へと向かう。

 女神が持つ、救いようのない悪性に、気づかぬままに。

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