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アーカード1


 オレが生まれたのは帝都のしがない商家だった。

 

 売り物は雑貨や食料で。

 馬車でいくつかの街から商品を買い付けて、帝都で売る。


 それだけだ。

 

 帝都の物価の高さを利用した商売は、それだけで一家を養う程度の稼ぎになった。


 当時幼児だったオレは自分が何者かもわからぬまま、両親と共に馬車に揺られ、石畳に布を敷いて露天を手伝っていたものだ。


 今、思えば善良な両親だったのだろう。

 大きく稼ごうともしなければ、人を騙そうともしなかった。


 オレが5歳になった頃、ある転機があり自分でも商売を初めてみた。


 それがすべての始まりだ。


 オレが売ったのは奴隷魔法。

 まだこの世界に存在しない魔法だった。


 まず、言う事を聞かない奴隷にオレが奴隷刻印を施す。

 その上で、客に一部の権限を譲渡し、第一奴隷魔法を教える。

 

 すると、客は呪文を唱えるだけで奴隷に拷問できるようになるわけだ。



 主人というのはよく奴隷に舐められる、そして一度規律が乱れると、他の奴隷も主人をバカにするようになる。


 そうなれば反乱の始まりだ。

 何もかもめちゃくちゃになってしまう。


 奴隷を使役するという構図は一見すると、主人の方が上に思える。

 だが、突発的な暴力においては常に奴隷の方が上なのだ。


 主人にとって奴隷とは、高い金を出して買った資産であって、いたずらに傷つけて死なせては大損だ。


 しかし、奴隷にとっての主人はいけすかないクソ野郎でしかない。


 隙を見て力に任せて主人を殺し、逃げ出すことだってできる。


 聖堂騎士団に追われることになるが、それで殺された主人が生き返るわけではない。


 奴隷は便利な道具だが、同時に危険な爆弾でもあるのだ。

 

 殺されたくなければ、うまく管理するしかない。

 奴隷管理法は幾つかあるが、恐怖と痛みほど即効性のあるものはない。

 

 棒で叩き、刃物で刺すことで立場を分からせる訳だが、逆上した奴隷に殺される可能性もある。


 そこで奴隷魔法だ。

 これなら唱えるだけで激痛を与えられるし、奴隷魔法を持っていること自体が奴隷に対する抑止力になる。


 いきなり奴隷が襲いかかってきても安心だ。

 呪文を唱えることさえできれば、無力化できる。


 そして、最悪の場合。

 奴隷を殺し処分することにも使える。

 

 

 回数制限をつけてな、拷問呪文が切れると、やつらこぞってオレに頼るんだ。

 大の大人が、5歳のガキに金を渡して頼むんだ。


 また拷問呪文を分けてくれ。

 あれがないと夜も眠れないんだ。


 とな。

 

 オレは帝都の人々の不安を取り除き、金を得た。

 うん、実に華々しい。


 おや? なぜだろう。

 聖堂騎士がオレを睨んでいる。


「凄まじいクズだな。お前は」

 

 辛辣な言葉が飛んできた。

 自己嫌悪に陥り、酒に溺れてもリズは正義を捨てられないらしい。


「その結果、どれだけの奴隷が激痛の中で死んだと思っている。」


 そうだ。

 それが一つ目の罪だ。


 だが、すべてがオレのせいという訳ではない。


 拷問呪文に回数制限をかけたのは、金にする為でもあるが拷問で奴隷が死なないようにする為だ。


 だが、ある日。

 誰かが奴隷魔法の構造に気づき、制限を外した。


 そればかりか、無制限に使用可能になった拷問呪文は一気に帝都に広がることになる。商売あがったりだ。途方に暮れたよ。


「待て、その時お前の親は何をしていた? そのような非道な行い、みすみす許していたわけもあるまい。」


 ああ、親なら奴隷化した。

 奴隷刻印と拷問呪文があれば、どんな人間でも言う事を聞くようになる。


 人の商売に口出しするからいけないのだ。


「アーカード、お前は最低最悪のクズだ。」


 リズがブチギレている。

 奴隷化しただけでなく、拷問呪文をかけすぎてうっかり殺してしまったことは伏せておいた方がよさそうだ。


「今すぐ私が殺してやる。」

 

 酔った身体をよろめかせ、リズが剣を抜こうとするが、オレに抱き留められる。

 絶対に殺されない自信がなければ、こんな話をするものか。


「リズ様、あなたは何人殺したのです?」


 耳元で囁き、心をえぐる。


「もう、覚えてもいないのでは? オレのことを言える立場ですか?」


「うっ、ぐっ。」


 リズの身体に込められた力が萎えた。

 拷問呪文などなくとも、痛みは与えられる。


 良い塩梅だ。

 そろそろいいだろう。


 オレがなぜそんなことをしたか、教えましょう。

 それは、それが必要だったからです。


 でなければ、そんなことしませんよ。


 オレの優しい声色にリズが動揺する。


「ひつ、よう?」


 ああ、そうとも。

 あなただってそうだった。


 奴隷兵は巡回を止め、教会は淫蕩に耽り、帝都は退廃の一途を辿っていた。


 悪徳の広がる世界に勇敢にも飛び込んだのは誰だ?

 他ならぬ、あなたでしょう。


 

 事実、事態は急務だった。

 リズが聖堂騎士団を制圧し、私刑を繰り返したことで帝都の治安は崩壊せずに済んだ。


 理不尽な暴力が帝都の秩序を保ったのだ。


 そして、オレは暴走を始めた奴隷魔法に歯止めをかけなければならなかった。


 第一魔法は痛みを与え。

 

 第二魔法は奴隷を従え。


 第三魔法はあらゆるものを奴隷に落とす。


 ここまでならいい。

 ここまでなら、まだよかった。


 第四奴隷魔法【絆よ。今、ここに集えヴィンクラ・オ・ライラ。】は複数の奴隷の同時使役を可能とし。


 第五奴隷魔法【浄化の時は来たれり(ミルド・ミナス)。】は心を塗り替え。


 第六奴隷魔法【その血を捧げよ(ブラド・プルス)。】は生命力と引き換えに奴隷を強化する。


 奴隷魔法とは奴隷を使役する為の魔法ではない。

 ()()()使()()()()()()()()()()()()()()


 言ってしまえば。

 奴隷魔法を第六まで極めれば……。


 いや、第四まででも十分に戦争を起こせる。


 これを止めるには、第四以上の奴隷魔法を持つ者を皆殺しにするしかなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 [一言] 便利魔法だ。
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