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ハガネ4


 ククク、ちょろい。

 実にちょろいと言えよう。


 オレ、アーカードは笑いを噛み殺していた。


 連続殺人事件が続く帝都の治安を回復して欲しい。

 そう夜の金鹿の杯亭で依頼を請けた時はどうしようかと思ったが、オレは実に運がいい。


 まさか、店から一歩出た瞬間に殺人鬼と遭遇するとは思わなかった。

 都合が良いにも程がある。


 あまりにも気分がいいので、近くに居たゼゲルから金を巻き上げてやったくらいだ。

 

 しかも、それだけではない。

 その殺人鬼が白昼堂々、オレの店に奴隷を買いに来たのだ。


 それも殺傷癖のあるハガネがご所望と来た。

 ハガネが夜な夜な街へ出て、小動物や魔物を殺して回っているのは知っている。


 ゼゲルの教育によって歪んだのだろうが、まったくとんでもないクズに育ったものだ。


 狂った病気持ちの奴隷など、誰が買いたがるだろうと思っていたが、まさか買い手がつくとはな。


 それも殺人鬼とは。

 歪んだ性癖同士、惹かれ合うものでもあったのかもしれん。

 

 この殺人鬼やたら実家が太いのか、500万セレスもの金でハガネを買っていった。

 

 オレはかつて皇帝に献上した奴隷部隊を利用して街に網を張り、ハガネを心配するフリをして殺人鬼の実家を尋ねた。


 まさか殺人鬼が馬鹿正直に実家に住んでいるとは思わなかった。

 隠すつもりがまったくない。


 殺しの味に取り憑かれたハガネの笑顔を見るに、あいつらは今も殺人を繰り返しているのだろう。


 こんな状態で今まで捕まらなかったのか不思議でならない。

 オレの手を離れてもう9年以上になるが、奴隷部隊の質も落ちたものだ。


 楽をすることばかり覚えてしまっている。

 どうやら、オレ以上に奴隷を扱えるものはこの世にいないらしい。


 しかし、ここまでずさんであれば、一息に実家を制圧してしまってもいいような気もする。


 あのルキウスとかいう男は正真正銘の殺人鬼であるし、俺自身が目撃者でもある。


 実家を制圧するとルキウスの家族に文句を言われるかも知れないから、ひとまず全員殺した方がいいだろう。


 殺人鬼の実家は殺人一家だったというオチでも捏造すれば、皆納得してくれる。


 かわいそうに、犯罪者の家族が理不尽な不幸にあうのはどの世界でも変わらないらしい。


 当然ルキウスは処刑されるし、殺人の片棒を担いだハガネも死ぬ。いい気味だ。


 考えてみれば、強姦殺人鬼であるイリスの方がまだマシだ。

 まだ共存できる可能性がある。


 あいつは強姦が目的であって。

 その結果、相手が死ぬだけだが、ハガネは違う。


 あのクズは殺す為に殺している。


 殺傷癖など、煮ても焼いても食えぬ悪癖だ。

 奴隷の値に傷をつけかねん者など、この世に必要ない。


 徹底的に使い潰し、金に換えてから、殺してやる。


 フフ、処分に困っていた不良債権がようやく片付くと思うと、清々しい。

 実に清々しい気分だ。


「アーカードぉー。」


 ふと、イリスの間の抜けた声がする。


 なんだ、寝坊したか?

 フフ構わん、今日くらい許してやろう。

 今のオレは機嫌がいいからな。


「ハガネが来とるぞ。」


 は? な、なぜハガネが来る?

 あれだけ実家の周囲に奴隷部隊を放ったのに、なぜ。


 ハガネ、お前はオレに追われていたんだぞ?

 なぜ、追われているはずのお前がオレの元へやってくる。


「なんじゃ? アーカードが呼んだんじゃなかったんか?」


「やたら強力な魔法剣と生首を持って来とるから、てっきりアーカードがハガネを使って嘱託しょくたく殺人でもしたのかと思うとったが」


 は!!?!

 な、何だ。何が起こっている。


「それにしても、いい生首じゃったな。金持ちそうな顔立ちでのう。つい×××したくなったわい。」


 そうだ、生首は死んでいるから陵辱しても構わないじゃろう? などと、のたまうイリスを放置してオレは走る。全力でクローゼットに籠もった。


 まずい。非常にまずい。

 ハガネはルキウスを、主人を殺したのだ。


 主人殺しは大罪だ。

 路上で大量殺人を起こすより、遙かに罪が重い。

 

 奴隷が労働力のほとんどを担う帝都では、誰もが心の底では奴隷に怯えている。


 復讐されるのではないか、いつかこの力関係が崩れるのでは無いかと恐れている。


 奴隷の反逆が始まれば、その数は一人では済まない。

 帝都にいる住民の半数は奴隷なのだ。


 そこらじゅうにいる奴隷たちが一斉に蜂起すれば、帝国は内側から食い破られる。


 反乱のトリガーとなりかねない主人殺しは国家反逆罪に該当する大罪なのだ。


 主人殺しの奴隷など、もはや罪そのものだ。


 そんな奴隷を売ったやつから誰が奴隷を買いたいと思うだろうか。

 

 駆け出しの商人ならいい。

 死ぬ気で努力すれば、また0から再起できるかもしれない。


 だが、オレは名が売れすぎている。


 闇市を支配する、奴隷商会の長。

 皇帝に奴隷兵を献上した。影の王。


 20年前の奴隷たちの反逆、第二ルナックス戦争を平定した。黒き勇者。


 オレが奴隷を主軸とした大規模事業を手がけることができているのは、その名声があるからだ。


 名声が地に落ち、信用を失えば、誰もオレの奴隷を買いはしなくなる。


 奴隷商会からも追放されるだろうし、奴隷は売れなくなっても飯を食うから、たちまちオレの財産を食い潰すだろう。


 最後には暴れ出して、オレの財宝を盗んで逃げていくに違いない。


 早急に全員自害させるか?


 第二奴隷魔法を使えばすぐ殺せるが、そんなことをすれば帝都中の奴隷に恨まれる。奴隷達が大量虐殺者となったオレを生かして帝都から出すわけがない。


 第二魔法で殺せるのはオレに所有権がある奴隷だけだ。

 契約外の奴隷は殺せない。


 というか、生首を持ってこられたせいで嘱託しょくたく殺人の容疑すらかかっている。

 

 しかも、生首と凶器と犯人がフルセットだ。

 放っておけば、自供すらするだろう。


 裁判の証拠として、これ以上のものはあるまい。


 ああ、ああああああああ!!


 こ、これだから。

 これだから殺傷癖のある奴隷はあぁぁ!!


 殺傷趣味同士、あのクズと仲良くやると思ったのに、やはり病気だ。病気の奴隷は度し難い。まったく理解できない。そんなことをして、何になるというのだ。何人殺したって1セレスにもならない。それどころか、自分の身が危うくなるだけだというのに!! なぜ、殺す!? そこまでして殺したいのか!!?


 あいつの頭の中は一体何がどうなっているのだ!!


「うぐっ」


 は、吐き気がしてきた。

 こここれは、終わるかもしれんん。


 殺される。

 ハガネに、殺される。


 終わってたまるか、ここまで悪行を重ね積み上げた富と実績。

 信頼と恐怖を失ってたまるものか。


 地に這いつくばり、死に目を見るのはオレではない。

 他の誰かだ。


 絶対にオレであってはならない。


 そ、そうだ。思いついた。

 やれる、オレはオレはやれるぞ!


 必ずや、この極限を超えてみせる!!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 なんだろうこのアーカード=サンが屑だとめっちゃ安心するぅ。
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