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ゼゲル、不幸になる


 街道の裏でローブの男が、金を手渡してくる。

 俺は金を受け取り、入念に数えた。確かに500万セレスある。


「恩に着るよ、ケテルネル。」

「いやあ、ゼゲルさん。あんたはお得意さんだからさ。」


 このケテルネルという薄汚い男はいわゆる金貸しだ。

 それも一般的な金貸しではなく、法外な金利をとる闇の金貸しである。


「俺が言うのもなんだが、担保もなく貸していいのか?」


「いいんすよ。ゼゲルさんには信用があるから。また幼女買ってヤらせるんでしょ? 売春は世界最古の職業で、必ず回る。あんたなら回収できるでしょ。」


 ま、利息はちょっと高めにしときますがね。

 そうケテルネルが下卑た笑いを浮かべる、気持ちの悪いやつだ。


「そんなに儲かるなら、お前もやればいい。面倒だが稼げるぞ。」


「いやあ、あっしには無理ですよお。成人奴隷ならともかく、児童売春は人道的にヤバイ商売だ。いつ聖堂騎士団がやってくるかわかりませんから。」


 聖堂騎士団。

 いきなりやってきて俺を拉致した騎士バーサーカーどものことを思い出す。


 とんでもないやつらだった、俺は何の法も犯していないというのに人道に反するとかわけのわからん理由で拷問にかけようとするなど。狂っている。


「しかし、ゼゲルさん。あんたよく教会から戻って来れましたね。騎士団に拉致られたんでしょ?」


「ま、まあな。ふふふ。」


 俺にもプライドがある。

 まさか、アーカードに命乞いをして助けて貰ったとは言えない。


 また児童売春を繰り返し、聖堂騎士団に捕縛されたら今度こそアーカードは助けてくれないかもしれないが、大丈夫だろう。


 そもそも、捕まらなければいいのだから。


「じゃ、奴隷でも買いに行ってくるかな」

「お気を付けてー!」


 あ、と。

 ケテルネルが付け加える。


「ないとは思いますけど。その金、必ず返してくださいね? でないとやべえことになりますよ。」


 何を言い出すかと思えば。


「馬鹿にするな、死にたいのか?」


「いえいえ、これはほんの冗談。気にしないでください。では!」


 ふん、薄汚い金貸しの分際で気安くしやがって。

 俺は肩のホコリを叩いて落とし、苛立ちながら闇市へ向かう。


 適当に見回ると、よさそうな奴隷がいた。

 ガリガリに痩せ細っていて、見るからに汚れた幼女だ。


 これなら安く買い叩けるだろう。


「おい、そこの奴隷商人。その奴隷はいくらだ?」

「あ、ああ。コイツなら150万ですが、いいんですかい? こいつ脱走癖ありますよ。」


 何の問題もない、逃げられないよう地下室まで用意してあるのだ。

 それに拷問呪文で痛めつければすぐに従順になるだろう。


「構わない。そら150万だ。」

「はい、毎度。」


 奴隷商人が金を、受け取らなかった。

 なぜか俺の顔をじっと見ている。


「あー、やっぱダメだ。あんたとは取引できないよ。」


 は? どういうことだ。


「いや、どういうことも何も、あんたゼゲルでしょ? 児童に売春させてる。」


 顔が熱を持って、赤くなる。


 なぜだ。

 なぜ広まっている。


「アーカードさんからお達しが来てるんですよ。あのクズに奴隷を売るなって。」


 クズ、クズだと!?

 この俺が!?


 俺のどこらへんがクズだというのだ!!


「とにかくあんたに奴隷は売れないから、他を当ってくれ。」


 まるでハエでもあしらうかのように、しっしとされてしまう。

 なんという屈辱だ。


 アーカードがなんだというのだ!!


 俺は手当たり次第に闇市の店に顔を出す。

 どこでもいい、どんな病気の奴隷でもかまわない。種銭はあるんだ。


「ゼゲルさん、あなたには売れませんよ」

「いやー、うちもね。売りたいんですが、アーカードさんがね?」

「このクズが! うちで買った奴隷を虐待しやがって、死ね!」

「我々も犯罪の片棒を担ぐわけにはいきませんからね。え、犯罪じゃない? でも、人道的にねえ?」


 うるさい、うるさい、うるさい!!

 俺は客だぞ!! なぜ奴隷を売らない!!


「いやー、アーカードさんが」


 またか、またアーカードか!!

 知ったことか! 俺に、奴隷を、売れ!!


 店先でキセルをふかす奴隷商人の女が呆れた様子で俺に言う。


「あんた、アーカードさんのこと何も知らないんだな。」


「ウチは親切だから教えてやるけどさ、アーカードさんは奴隷商会を取り仕切ってる会長なわけ。逆らうとここで商売できなくなるんだよね。」


 奴隷商会? 会長?

 あいつ、そんなにスゴイやつだったのか?


 そういえば、アーカードの書斎にはやたら高価そうなものばかり置かれていたが、まさか。


「ウチもさ、この前ガキが生まれたんだよね。うるっせーの。でもかわいいもんだよ。ガキはさ。」


「ガキに売春させるようなクズに売るもんなんて、ねえよ! 帰れ!」


 ぐ、ぐぬぅ。

 おのれ、おのれアーカード!!


 教会で俺に慈悲をかけたつもりか!!

 なんだ、なんだこの仕打ちは!!


 許さん、許さんぞ!!


 今すぐアーカードを殺しに行きたかったが、単身乗り込んで勝てるわけもないだろう。


 というか、それ以前にまずい。

 奴隷を買えないのはまずい。

 

 これまで労働はすべて奴隷にやらせていた。

 客を見つけて奴隷に売春させるだけで、すぐに金が転がり込んできていた。


 だが、もう同じ方法は使えない。


 俺が働く? 奴隷のようにか?

 そんなバカな。労働は奴隷の仕事だろう?


 握りしめた札束、500万セレスには既に利子がついている。

 今すぐ全額返したところで、返済しきれない。


 どうにかして増やして返さなければならないのに、何も思いつかない。


 どうしたら、どうしたらいい。

 なぜ、誰も助けてくれないんだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アーカードが実は偉かった! [一言] なんだろうこのざまぁと言えないこの気持ち ああいうのは身に覚えがあるからか。
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