飼い猫シャルの1日
人生初投稿!よろしくお願いします!
シャルの朝は早い。ベランダのはきだし窓から照らされる朝日と共に起きる。
窓には厚手の花柄カーテンがかけてあり、朝日は入りづらい。しかし、シャルにはその日差しが自然に起きられて目覚めには丁度良かった。寝床の軟か過ぎないクッションから身を乗り出すと背伸びをしながらあくびをする。
白い壁のリビングには、4人掛けのヴィンテージの脚の高い木製机があり、ベランダ付近にある観葉植物と部屋の雰囲気が合っていた。キッチンや机に人が居ないことから誰も起きていないようだ。
「にゃーぉ」
シャルは朝起きて一番に毛づくろいをする。ご主人様に毛並みが乱れているところなど見せられないのだ。シャルは飼い主が空き地の広場で、シャルが生まれたての小さい子猫の時に拾ってきた雑種猫であるが、大切に育てられてきたため、とても賢い。シャルは茶トラ猫でオレンジの縞模様とピンと立った耳、透き通った目がとても愛くるしい。茶トラ猫には珍しいメスの猫で、猫集会ではオスから一番人気で、巷を騒がせている。そんなオスから人気のシャルだが、一番好きなのはもちろんご主人様だ。ご主人様に可愛がってもらうために身だしなみの努力は欠かせない。
毛づくろいが終わると寝床の横に置かれている水を飲む。そして用を足したら散歩だ。シャルが住む場所は約300人が住む集落で山が目と鼻の先にある。この村には猫が多く、猫村と言っても過言ではない。猫が多いため、シャルが散歩を始めてすぐに知り合いの猫と出会う。
「にゃっ」
「にゃ~」
シャルが挨拶をする。相手もそれに返事をしていた。そんなやり取りを3、4回繰り返しているとお気に入りの公園に着く。そこはもう使われていない遊具が4つ程あり、全て錆びてしまっている。村には子どもがいないため誰も使わないのだ。遊具は錆びているが雑草などは程よく刈られていた。この公園は村人全員が知る猫が集まる場所であるため、毎週日曜日に掃除されているのだ。もちろん、ボランティアであるが猫好きが多いこの村ではよくある光景だ。猫が集まる公園は一つではないのだから。
今日もシャルは見晴らしの良いプリン型の大きいすべり台に登り、頂上で伸びをする。
そこは大人が二人ほど横になれるスペースがあり、石でできたすべり台であるため朝は冷たいが日が昇ってくると程よく暖かいのだ。まだ朝早いがシャルはここでいつもひと眠りする。そして次に目が覚めた時程よく温まっている身体で起きるのが気持ちよくて好きなのだ。今日も変わらず温かい目覚めを味わうためシャルはその綺麗な目瞳をゆっくり閉じる。
次に目が覚めたのはいつもより充分に身体が温まっていない時だった。知り合いのサバトラ猫が身を寄せてきて丸まってきていた。他にも2匹程近くで寝ているようだ。途中で起こされてしまったがすぐにまた眠れるだろうとシャルはまた、うつらうつらと目を閉じていく。
シャルは暖かい日差しで目を覚ました。気持ちの良い目覚めだ。横のサバトラ猫はまだ眠っていた。寝起きの毛づくろいをし終えると家に向かって歩き出す。そろそろご主人様が起きている頃だ。お腹も空いてきたし、今日の朝ご飯を求めて足早に家に帰る。帰る途中でも何匹かに挨拶をされたので一声鳴いておく。猫が多いこの村では挨拶は大事だ。気性の荒猫もいるので面倒なことに巻き込まれてご主人様を心配させるのも良くない。シャルが住むこの周辺は喧嘩は少ないが村外れではよく喧嘩の鳴き声がするらしい。シャルはめったに喧嘩はしないので毎日まったりした日々を送っている。
玄関にある猫用のすだれを通りシャルは家に帰ってきた。リビングに向かうと美味しそうな魚のにおいがする。これはニボシのにおいだ。ご主人様がシャル用に朝ご飯を作ってくれているのだ。いつもは猫フードだが今日はいつもより豪華らしい。タッタッタッタと聞こえてきそうな軽い足取りでシャルはリビングへと向かう。
「にゃーーーぉ」
ご主人様を見つけたシャルは物欲しそうに鳴く。
「おはようシャルいつも早起きだね。また、朝から散歩かな?今日は煮干しを焼いているんだ。この前スーパーへ遠出した時に買ったやつだよ。味付けはしない方が好きだからね、温めておいたよ。さ、どうぞ。」
そう言ってご主人様は猫フードが入ったご飯入れにニボシを入れてくれる。たまにこういうサプライズがあるからご主人様はたまらない。程よく温められたニボシの強い香りが食欲をそそる。ニボシ特有の香りがいつも食べている猫フードより強く、いつもと趣が違って美味しく感じる。その日の朝昼兼用のご飯は、いつも食べている猫フードより早く食べ終えてしまった。幸せな時間は早く過ぎてしまうものだ。おかわりが欲しかったシャルだがこの後の昼寝に支障をきたしてしまうため、なんとか我慢した。
シャルがねだればご主人様から追加でニボシを貰えそうだが甘えてばかりはダメだ。飼い猫のシャルと違って野良猫たちは基本的に自分で狩りをしている。肥えた飼い猫はいつも野良猫たちにバカにされている。シャルはオスに人気があるためバカにはされないが、何があるかわからないのが猫業界だ。この前もオスから人気が出始めていたメスの飼い猫が、走っている時に躓いてこけた所をオスに見られ、一気に人気が急降下したこともあった。あの時の飼い猫はふくよかな体型で、こけた姿がネズミに似ていたと悪い噂が流れたのだったか。そのようなこともあるため、飼い猫のシャルも気は抜けない。今はスリムな普通体型であるが、太ることだけは絶対にダメだ。オスからの人気が無くなると朝の公園で一眠りできなくなってしまう。それだけは避けたい。
ニボシの誘惑に後ろ髪を引かれながらもシャルはリビングを後にした。ニボシのにおいが目立つため、まだ外には行けない。ご主人様に遊んでもらおうとご主人様がいる2階に向かう。階段はシャルが上りやすいようにマットが敷かれてあった。その階段を軽やかに上っていくと正面は突き当りで壁になっており、そこを右に曲がるとご主人様の部屋だ。扉は開いていて椅子に座って本を読んでいるご主人様が見える。シャルはご主人様に近づき足に頬ずりをする。かまってもらうためだ。
「なんだい?ご飯を食べて今日はご機嫌だね。」
本を読むのをやめてシャルを抱きかかえて、膝に乗せて優しく背中撫でる。
「にゃおぉ」
シャルは気持ちよさそうに撫でられていた。別に背中を撫でられて気持ち良いのではない。ご主人様にかまわれるだけで嬉しいのだ。最近は昔のように遊んではくれない。昔は猫じゃらしを使って一緒に遊んでいた。シャルはご主人様が疲れているのが分かっていた。シャルに向けられる優しい目は変わらないが、笑顔が少なくなったように思う。
シャルはご主人様の膝の上で丸まり撫でられていた。もう少しこの時間が続けばいいなと思う。しかし、いつも身体の上に乗せてくれるが、すぐに降ろされる。おそらく身体の上に居続けられることがしんどいのだろう。でも、今日は違った。ご主人様はシャルを撫でながら話しかけてくれる。
「シャル、私はもう長くないそうだ。君を拾って6年は経つかな。拾った時は茶トラ猫には珍しいメス猫だったからね、よく覚えているよ。家内には先立たれてしまって、寂しさを埋めるために飼い始めたけれど、こんなに賢く立派になってくれた。この辺りではシャルは人気者らしいね。僕も誇らしいよ。最後まで面倒を見たかったけど、あと半年もないそうだ。延命治療もあるそうだが、残りの人生はシャルと過ごすと決めていたし、家内も待っているからね、だから今後のことは友達に任せようと思う。僕がいなくなっても落ち込まないで元気にするんだよ。」
シャルは人の言葉を理解できるほど賢くはない。しかし、ご主人様が悲しそうにしているのは雰囲気でわかった。だから撫でてくれているご主人様の手に頬ずりした。ご主人様を元気づけたくて、笑ってほしくて。
「君は本当に賢い猫だ。ずっと一緒に入れなくてごめんね。」
シャルのご主人様はとても悲しそうに笑った。それがシャルには強く印象に残った。今まで見たことないご主人様の表情だった。だからいつもの笑顔が見たくてもっと頬ずりした。でもご主人様は泣いてしまった。
「にゃーーぉ、にゃーぉ」
「ごめん、ごめんね。心配かけてしまって。ほら降りて散歩でも行って友達と遊んでおいで、私は大丈夫だよ。ほら行っておいで。」
シャルは膝から降ろされてしまった。ご主人様が心配で足元にすり寄るが外に行くように促されてしまった。ご主人様は机に向って何か書き始めたみたいだ。背中に向かって鳴くが振り向いてもらえない。シャルは足取りを重くしながら部屋を後にした。
シャルは気分を変えに外に出かけた。今は太陽が真上を過ぎたあたりだろうか。日差しが暖かくて気持ち良い。家の庭では、朝公園で見たサバトラ猫がいた。
「にゃっ」
「んーーっ」
サバトラ猫が挨拶してくるが今は一人にして欲しかった。サバトラ猫を置いて先に歩いていく。そのあとをサバトラ猫がついていく。威嚇しようかと思ったが、そんな気分にもなれなかった。そんな調子で、あてもなく歩いていた。
ふと気づいたら村の外れの空き地に来ていた。ここは普段あまり来ない場所だ。後ろにはまだサバトラ猫がのんびりついて来ていた。暇なやつだなと思いながら周りを見渡す。今日は誰も居ないようだ。雑草もそれほど生えていないし、ここで休もうと積まれていた煉瓦の上でくつろぐ。毛づくろいしながら考える。ご主人様は、今日はとても調子が悪そうだった。泣く所などほとんど見たことない。どうしたものかと考えていた時、サバトラ猫が隣にやってきた。
「にゃっ」
「にゃー」
今度は返事をしてあげた。気分も落ち着いてきたところだ。サバトラ猫が何かくわえていた物をシャルの前に置いた。雀だった。いらない。それにさっきご飯を食べたところだ。お腹も空いていない。前足で蹴ってサバトラ猫に返す。サバトラ猫は雀をくわえて残念そうにしていた。
そうだ私もご主人様に何か持って帰ろう。元気が出るかもしれない。でも。ご主人様は生き物を持って帰っても喜んだことはない。今日膝に乗った時、机の上に花があった。ご主人様は花が好きなのかもしれない。この辺りはあまり来ないし、花を探して持って帰ろうか。そう思いついたらさっそく花を探しに歩いた。歩いてる横にはサバトラ猫がついて来ていた。
花を探して歩き回ったがなかなか綺麗な花が見つからなかった。それに山の麓まで来ているみたいだ。山付近はイノシシが出て危ない。それにそろそろ帰らないとご主人様が心配する時間だ。諦めて帰ろうと思っていたら、水路脇の道にスイセンノウが咲いていた。あの花は家の近くで見たことがなかった。ご主人様が喜ぶかもしれない。
シャルは茎を2、3本口でくわえると引っ張って花を根元から抜いた。それを見ていたサバトラ猫もマネをして花をくわえて口にしていた。シャルはご主人様に届けるために家に帰っていく。
それは丁度、山の麓から村外れの空き地前を歩いていた時だった。道のど真ん中でシャルと同じ茶トラ模様のオス猫が灰色猫と喧嘩していた。
「シャーー!」
「フーーッ!」
どちらも貫禄がある大きい猫だった。縄張り争いっだろうか。どちらもすでに争った跡があり、灰色猫は首元に血がにじんでいた。どちらも引く様子はなさそうだ。
シャルは大事な花を持っている時に巻き込まれても嫌なため、直ぐに通り過ぎようとした。しかし、2匹の横を通った時、2回戦でも始まったのか争った勢いで灰色猫がぶつかってきた。幸い花は無事だった。
「んーーーっ!」
「シャーー!」
シャルが怒りを表すと同時にサバトラ猫が2匹に威嚇していた。シャルは驚いていた。待て、お前では勝てないぞ、と。しかし、意外と立派な威嚇が出来るのだなとシャルは思っていた。サバトラ猫が先に行けと合図を出すので、花が潰される前に先に行かせてもらった。シャルが空き地前の路地を曲がり、しばらく歩いているとサバトラ猫が何食わぬ顔で戻ってきた。シャルは目線で大丈夫かと、サバトラ猫を見た。
「にゃっ」
サバトラ猫は元気に返事をしていた。特に怪我もしていなさそうだ。サバトラ猫がくわえていた花は無くなっていた。シャルは男らしい姿に少し惹かれた。貫禄がある大きい猫に立ち向かう姿は忘れそうにない。大事な花も守れたし、サバトラ猫にはあとでしておこうとそう思うシャルだった。
空が茜色に染まり月も見えだした時間にシャルは家に着いた。サバトラ猫に別れを告げ、家に入る。玄関を上がり、リビングに行くがご主人様は見あたらない。まだ2階にいるのかと思い、2階へ向かう。2階のご主人様の部屋に着いた時、ご主人様は椅子に座って電話していた。
「ありがとう、その時はシャルを頼むよ。ではまた。」
丁度話が終わったようだ。シャルは部屋の入口に花を置きご主人様に帰ってきたことを知らせる。
「にゃっ!」
「あぁ。お帰りシャル。その花はおみやげ?ありがとう。スイセンノウだね。家内が好きだった花だ。とてもうれしいな。ははは!ありがとうシャル。」
ご主人様は花を持ちながらシャルを撫で、笑っていた。久しぶりに見る笑顔だ。シャルはとてもうれしかった。それだけでも今日1日頑張った甲斐があったものだ。シャルは、にゃおと鳴くと1階に降りて行った。そろそろ晩御飯の時間だ。でも、その目にリビングのソファで一眠りしたかった。今日はいつもより歩いて疲れていたし、ご飯の時間になればご主人様が起こしてくれるだろう。シャルはソファに座って毛づくろいをした後、丸まってサバトラ猫のお礼は何にしようか考えながら眠った。
シャルがご主人様に起こされた時、外はすでに日が落ちていて夜の静けさが漂っていた。
「シャルそろそろ起きてご飯食べようか。今日は花を持ってきてくれたから晩御飯も豪華にしたよ。に何度も味があるようなエサは良くないけど今日は特別だよ。おかわりもあるからね。」
「にゃーぉ」
シャルの晩御飯は、いつもの猫フードに猫用缶詰のシーチキンを混ぜたご飯だ。シャルは美味しそうに味わって食べた。今日のご主人様はとても優しい。朝はニボシだったし、夜はシーチキンだ!今日みたいな濃厚な1日をすごることは滅多にない。食事は美味しくて、ご主人様の笑顔も見られて、今日の1日は忘れられそうにない。シャルはとても気分よく晩御飯を食べ終えた。
食べ終えた皿をご主人様が洗い終えて、リビングのソファに座りテレビを見ている。シャルはこの時間、ソファに乗り、ご主人様の横でくつろぐのが好きだ。毛づくろいをしていると時折ご主人様が頭や背中を撫でてくれる。そんな一時がとてもリラックスできて安心する。
それから月の明かりが雲で4、5回隠れただろうか、いつもより長くご主人様はリビングにいた。シャルはご主人様と長くいられるだけで嬉しいので今日はいつもより長いなと喜んでいた。
「シャル、私はもう寝るよ。シャルも良い時に寝なさい。」
そういってご主人様はシャルの頭を撫で、2階へと上がっていった。明かりが消されたリビングには豆電球でオレンジに照らされたシャルが残った。シャルはとぼとぼと聞こえそうな足で寝床へと向かう。
今日は楽しかった。朝のひなたぼっこも気持ちよかったし、ご主人様を元気にする花も見つけることが出来た。また元気がなくなった時に持ってこようと思う。それにサバトラ猫が気に入った。あいつは度胸がある猫だ。今度毛づくろいしてあげてもいいなとシャルは思っていた。そんな1日を振り返りながらシャルは幸せな眠りにつく。
今日はシャルにとって、とても印象に残る1日だ。ご主人様のお気に入りの花を見つけることが出来、た。今後何かある度にその花を探しては喜ばすだろう。そして何より生涯共にするオス猫と出会ったのだ。今後何かあってもそのオス猫が守ってくれるだろう。飼い主が亡くなった後どうなるかはシャル次第だ。飼い主はシャルの好きなように出来るように準備していた。
部屋から見える庭には何日も前からサバトラ猫が朝からシャルを待っているのが見え、その猫と共になるならそれも良し。野生で過ごせないなら、友人に頼んでシャルの面倒を見てもらえるようにしてある。公園の手入れを趣味にしている猫好きだ。シャルに手荒なことはしないだろう。最後まで私が面倒みられないのは残念だが良い子に育ってくれてよかったと思う。
さて、あの子は明日何をするのかな?明日もあの子が出かける姿を見よう。サバトラ猫は明日も来るのだろう。シャルは毎朝そっけない態度だけど仲良くなってほしい。そう考えながらシャルのご主人様の意識はゆっくり沈んでいった。
外では今日も月に照らされた野良猫たちが互いを温めあって寝ていた。夜は更けていくばかりだ。
アドバイスなどあれば感想にてお待ちしております。