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荒校生と風渦の眼  作者: 九鱗 集
2/12

青春補整計画

ある日の昼休み、戦は昼食のために購買部へと足を進めていた。行った先では聞き慣れた声がしていた。

「昇!お昼一緒にどう?」

「おや、私がちょうど誘おうとしていたんだがね」

「あなたは昨日も一緒だったじゃない」

「今日だって一緒でも構わないではないか」

「まあまあ、みんなで食べませんか?」

戦にとってはうんざりな光景だ。大勢の友達を手助けしてきた昇は人気者だ。学校のアイドルというほどではないにしろ、彼へ恩や好意を持った生徒は少なくない。だが、戦にとってはたくさんのお誘いを受けている兄の姿は“見飽きた”を通り越して“しつこい”ものだった。くだらないフラストレーションを回避するために早く買って教室に戻ろうとした戦だったが、何者かに肩を軽く叩かれた。

「戦、探したぞ。話したいことがあるから昼休みに私のところに来いと言っただろう。今日という今日こそは来てもらうからな」

そこにいたのは担任の安東実優先生だった。入学当初から悪目立ちしていた戦を気にかけていた先生で、何度も話し合いの場を設けようとしてくれていたのだ。しかし戦は若干眉を顰める。

「今日は、教室で昼食をとる約束をしているので......」

「嘘をつくもんじゃあない。毎日のように乾や山崎の誘いを断ってボッチ飯だそうじゃないか。あの二人から聞いたぞ?もう予定なんて未来永劫埋まっていないことを」

戦のその場しのぎボキャブラリーは連戦のせいでとうに底が尽きていた。そして彼は観念して正直に拒絶する。

「嫌ですよ。どうせあの時みたいに俺の反抗的で内向的な態度を正してやろうとか、なんで俺はそんなに嫌味なやつらしく振る舞うんだと問い詰めたりするつもりですよね?」

「まあ、根幹はそうだな」

「けっこうです。俺は兄と違って不器用だし面倒くさがりなんで。あとこういう自分も大好きなんで」

「減らず口だけは一丁前だな。しかし、今日はもうわがままは聞いてやれない。大人しくきなさい」

戦は強い抵抗感と悪い予兆を感じていたが、いつもに増して真剣そうな担任に大人しく従うことにした。

「到着だな、第三資料室へようこそ」

場面が変わって、やってきたのは第三資料室。戦の通う光天高校では資料室が三つ存在し、それぞれ離れた棟に異なる目的で設置されている。第一はこの学校の過去問題や記録等が保管されていて、第二には学校の歴史や写真などが保管されている。では第三はというと。

「なにガラクタ置き場で二者面談始めようとしてるんすか。嫌がらせですか?それとも先生がここしか貸してもらえないくらいいじめられてるんですか?」

第三資料室の実態は戦が文句を垂れたように、乱雑に基準も特になく、処分するかどうかはっきりしないものや忘れ物などを一旦置いておくという教室の無駄遣いなのだ。

「失敬だな。確かにここの鍵の管理は私に一任されているけど、いじめではない。ここは私が管理する代わりに好きに使って構わないと明け渡された場所なんだ。だからむしろ好待遇じゃないか?」

「ゴミ置き場もらってうれしいんです?」

「さっきよりひどい言い草になっているぞ」

安東はいわゆるジト目で戦を見つめ、軽く咳払いをして話を戻した。

「今日はお前の嫌いな二者面談でもカウンセリングでもない。これからここへ通いながらこなす課題を与えるだけだ」

「シンプルに嫌なんですが」

心底嫌そうな低く力のない声で拒否する戦だったが、安東は無視して続けた。

「ここは私が赴任して以来の壮大な計画を実行するための重要な役割を担っているんだよ」

「どういう釣りなんですか?こんな平々凡々な学校のプロジェクトなんて惹かれたりしないっすよ」

「その計画の名は“青春補整計画”、そしてここは私が選んだ“荒校生たち”の部室みたいなものだ」

「はい?青春補整?問題児?」

戦は言われたことがさっぱり理解できなかった。でかでかとホワイトボードに書かれていたのは“青春補整”と“荒校生”の二つの単語。どちらも戦の効いたことないものだった、というよりそんな言葉はない。

「初期構想段階だから、実験用の候補生はお前だけだがな」

「え!?」

予想の遥外側から穏やかではない告白を受けた戦は、最悪だ完全に騙された、と自分の選択を後悔していた。

「まったく意味がわからないです。何されちゃうんですか、俺」

安東の方は心なしか楽し気ににやにやしていて、戦はややいらついた。

「それはもう一人の参加者に来てもらってから話そうじゃないか」

「え、さっき俺だけって......」

戦が安東に問い詰めようとしたそのとき。

「失礼します」

そのもう一人と思わしき女子生徒がやってきた。


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