閑話8・ノエル様とデートがしたい(ゾフィー視点)
私はカロリーネ子爵家のゾフィーでございます。
紫がかった銀の髪に紫の瞳の、少し……、少し……少しだけぽっちゃりした体型の普通の令嬢ですの。
……往生際が悪いですわね、ぽっちゃりしておりますの、ええ。
パラディスコの旅も残すところ数日となりまして……。
楽しい思い出を沢山作れて、とても満足なのですわ。
お誘いして下さったミルカ王女とビアンカ様には本当に感謝しておりますの。
こんなに楽しい夏休暇、二度と無いかもしれませんわ。
ところで今朝、ビアンカ様とマクシミリアンさんが市場にデートに……ええ、あれはデートですわよね、行かれたのですけど。
帰宅したお二人はなんだか親しさが増しているようなご様子でした。
昼食の後『疲れたの、マクシミリアン』なんて甘えた声でビアンカ様が囁いてマクシミリアンさんに支えて貰いながらお部屋に入って行かれたのを見た日には……!!
色々と妄想が捗りますわよね。
私淑女なので部屋に聞き耳なんかは立てませんでしたのよ、ほんとですわよ。
……そんなお二人を見て私、とても羨ましくなりましたの。
だから勇気を出してノエル様を……デートにお誘いしようと。
そう決めたのです。
「ノ……ノエル様!!」
「どうしたの、ゾフィー嬢?」
王家別邸の廊下でノエル様を呼び止めると、ノエル様はいつも通りの爽やかな笑顔でこちらに振り向いてくれました。
ああ……いつもは上げてらっしゃる緑色の髪が今日はふわりと下りていて、柔らかい雰囲気が増して素敵です。
「ノエル様、今日は……お暇でしょうか?あの、あの、あの」
「どうしたの?」
どもる私に怪訝そうな顔もせずに、ノエル様は先を促してくれるのです。
なんてお優しいのでしょう。大好きです。
「ノエル様と、デートがしたいですわ!!」
…………ああ、間違えた。
口にした瞬間そう思いましたわ。
本当は『ノエル様とお買い物に行きたいですわ』と言うつもりでしたの。
ノエル様は目を丸くしてらっしゃいます……ああ、こんなに明け透けな好意をぽっちゃりに寄せられてお困りですわよね!?泣いてしまいそうです。
「すごい。ご令嬢にデートに誘われたのなんて初めてだよ」
意外です、ノエル様がデートに誘われた事が無いなんて。
後で聞いてみたら『騎士訓練ばかりしてるからじゃないかなぁ。俺、モテないんだよ』と笑って答えて下さいました。
……ノエル様がモテないなんて、絶対に嘘だと思いますわ。
きっと高嶺の花すぎて声がかけられないんですの。
ノエル様は軽やかな動作で、私の目の前に手を差し出しました。
差し出された手をぽかんと見ていると……。
「お手をどうぞ、ゾフィー嬢。どこに行きたいの?」
と優しく微笑んでくれたのです。ああ……大好きです!!!
手に手を添えると、ノエル様は優しく握ってくれたのです!
「あっ、あの……。ゾフィー嬢じゃなくて、ゾフィーと呼んで下さいまし!」
「……じゃあゾフィーって呼ぶね?」
……もう少し大丈夫かしら、と私は少し欲張ってしまいましたの。
するとノエル様は笑顔で優しく承諾して下さって……。
欲張って、良かったみたいですわ。
「ゾフィーはどこに行きたいの?」
「ミルカ王女に、美味しいフルーツサンドのお店があるとお聞きしましたの。是非そちらに行ければいいなと思いまして……」
「わぁ!そうなの?是非行きたいね!じゃあ行こうか」
「それと、美味しい南国の果物のジュース専門店もあるそうで……」
「いいね!そこも行こう!」
ノエル様は『なんだかゾフィーとは趣味が合うね?』なんて言ってくれましたの。
食いしん坊で良かった……と心底思いましたわ。
ノエル様の大きな手に手を引かれて、私は別邸を後にしました。
まるで夢のような出来事で足元がふわふわとしています。
ノエル様と一緒にデートが出来るなんて……ああ、本当に夢だったらどうしましょう!?
それにしても玄関で鉢合わせたミルカ王女が少し目を見開いた後に……『おっ、上がってる』って呟いたのはなんだったのかしら……?