令嬢13歳・わたくしは気持ちに気付く
マクシミリアンは通りかかった公園のベンチに私を抱いたままそっと腰をかけて、あやすように泣きじゃくるわたくしが落ち着くまで背中をさすってくれた。
そして安心させるように時折額にキスを落とす。
彼の唇が触れる度に不安が吸い取られていくようで安心して彼の胸につい頬を摺り寄せてしまう。
……彼が居てよかった、と心から思った。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
優しく囁かれ、背中をさすられ……だいぶ気持ちが落ち着いてくるのを感じた。
と、同時に少しずつ我に返ってしまう……公園でお膝に乗せられてあやされてるなんて、令嬢として恥ずかしいわね。
「……うう……でも……」
「……お嬢様?」
お膝から下りないと……と思ってはいるのだけれど。
彼の温かな体温に安心感を覚えてしまいなかなか離れるのが名残惜しい。
マクシミリアンは、わたくしがもういいと言うまでこのままで居てくれるのだろう……だったらこのまま甘えていてもいいのかしら。
「マクシミリアン……」
「……何です、お嬢様?」
訊ね返してくるマクシミリアンの声はとても優しい。
その声音に思わずうっとりとしてしまい目を細めると、彼が頭を撫でてくれる。
「……貴方に抱きしめられると安心するの……。キスをされるのも、嫌じゃないの。貴方にちょっと恥ずかしい事を言われるのも……嬉しいわ」
マクシミリアンは零れるんじゃないかと思えるくらいに黒い目を大きく見開いてこちらを見つめ、頬を染めて首を傾げる。
さらりと光沢のある黒髪が揺れて、ああ綺麗だなと思ってしまう。
「お嬢様……それは……その、私を……」
「……ま……まだ!それはまだもう少し待って!!」
「駆け落……」
「だから待ってってば!!」
往生際が悪いわたくしが、おろおろしながら顔を真っ赤にして叫ぶと彼は心底愛おしいという表情で優しく笑った。
その笑顔を見ていると……胸の奥が締め付けられて、切ない気持ちになってしまう。
ああ、この気持ちはきっと……そうなのだろう。
「お嬢様の覚悟が決まるまで……ちゃんとお待ちしますから」
「マクシミリアン……」
優しい声音と共にキスがまた頬に降ってくる。
唇にもして欲しい、なんて思ってしまったけど……それを口にするのは恥ずかしくて。
代わりに強請るように目を閉じたら唇の端に、キスが降ってきた。
約束、守ってくれてるのよね……普段強引なくせに変なところちゃんと律儀ね、マクシミリアン。
「えっと……その。『これから』も宜しくね、マクシミリアン」
「はい、お嬢様。『これから』も宜しくお願いします」
『これから』の部分に色々な想いを込めてマクシミリアンに告げると、彼もわたくしの気持ちを汲んでくれたらしく『これから』という部分を感慨深そうに口にしてうっとりと微笑んだ。
「とりあえずは……お嬢様は私の恋人だと、思っても良いのでしょうか?」
マクシミリアンが悪戯っぽく言いながらわたくしの頬に唇を落とす。
こ……恋人!彼氏!前世で手に入れられなかった伝説のモンスター……!!
それが手に入るチャンス……しかも前世の推しだなんてSSRにも程があるでしょう!?
「……ママママクシミリアン!!」
動揺して思わずどもるわたくしを、マクシミリアンは愛おしそうに見つめている……その視線に心臓が大きく鼓動を打ち顔が熱くなった。
「…………やらしい事しそうだから、まだダメ」
「お嬢様は、私を信用してらっしゃらないのですか?」
「信用してない!やらしい事をしそうだと、正直思ってるわ!なんだかいつもやらしいんだもの!」
わたくしが『やらしい』を連呼しながら叫ぶとマクシミリアンは少し傷付いた顔をしたけれど、彼の日頃の行いが悪いので仕方が無いのだ……。
抱きついたりキスしたり……今でも十分してるじゃない!
恋人になって、もっとスキンシップが増えたら何をされるか分かったものじゃない……。
「お嬢様……信用して下さらないなんて寂しいです。いえ、お嬢様に何かしたくなる可能性を否定は出来ないのですが」
「否定して!!健全なお付き合いがしたいの、わたくしは!」
真顔で言うマクシミリアンの頬を抓ると、彼はとても楽しそうに笑って……その笑顔が眩しくてうっとりと眺めてしまった。
ああ……自分の気持ちを、認めるしかない。
「では、健全なお付き合いはいかがですか?」
「…………健全なら、考えるわ」
わたくしが顔を真っ赤にしてそう言うと、マクシミリアンは少し驚いた顔をした後に華やいだ笑顔を見せた。
別邸に戻るとミルカ王女は目をまん丸に見開いて……『あら、やったのねマックス!おめでとう!』と呟いてにやりと笑ってマクシミリアンを別の部屋に連れて行った。
……一体何の話をしてるんだろう……気になるけれど訊くのもなんだか怖い。
ミルカ王女には、見透かされてる気がするんだけど……気のせいかな。
というかあのセリフって……『あら、〇〇との好感度が上がったのね!おめでとう!』というゲーム中のサポキャラ、ミルカ王女とイメージが被るのよね。
マクシミリアン、貴方サポートされてるの?
マクシミリアンにあの黒い狼達の事も訊きたいし……また彼と話をしないと。
……あの子犬、また出してくれないかな。もふもふしたいわ。
ゆるりと進展しました。