令嬢13歳・星祭りの夜・前
夜になって、ミルカ王女に連れられてわたくし達は星祭りの会場へ馬車で向かった。
馬車数台に分けて分乗し、勿論護衛の方々も付いている。
これだけの数の王族、貴族の子息子女の護衛だ、緊張してらっしゃる面差しの騎士さんもいて『お疲れ様です……!ありがとうございます!』と心の中でお礼を言った。
ノエル様も騎士服で剣を身に付けており、とても凛々しくて素敵だ。
ゾフィー様がその姿を目をハートにしながら褒めちぎっていて、ノエル様は照れ笑いをしている。
マリア様とミルカ王女はそんなお二人の様子を楽しそうに見つめていた。
会場に着くとそこは多くの人々でごった返していた。
沢山の屋台が立ち並び、そこかしこから美味しそうないい香りがする。
中には可愛いアクセサリーの屋台もあって目を楽しませてくれる。
だけどわたくしは……。
「マクシミリアン!あそこにあるイカ焼きが気になるわ!」
「はい、お嬢様。買ってきますので少々お待ち下さいませ」
まずは食い気に、走ってしまった。
だってイカ焼きなんて前世ぶりなのよ!?
マクシミリアンはイカ焼きを首を傾げながら買ってきてくれた。
「お嬢様……これを本当に食べたいのですか?」
「なんだビアンカ……それは悪魔の食べ物なのか?」
フィリップ王子も引いた目でイカ焼きを眺めている。
……王都の方々はイカやタコを、お食べにならないのだ。
確かに見た目が……悪いものね、イカタコ。
とても美味しいのに勿体ないと常々思っていたのよね……。
「美味しそうじゃありませんこと?わたくしは、食べますわ」
「ビアンカ分かってる!イカ焼きは最高よね!」
ミルカ王女もイカ焼きをいつの間にか手にしていた。
気が合うわね、ミルカ王女!
思い切って齧り付くと、口の中に香ばしい香りが広がった。
んっ……この風味は……醤油!?パラディスコにはソイソースがあるんですか!?
移住をしたら幸せになれる……わたくしはイカ焼きを噛みしめながら実感した。
「ゾフィー嬢、これ美味しいよ!」
「ノエル様こちらも美味しいですわ!少しずつ分けっこしません事?」
ノエル様とゾフィー様は大量の食べ物を買い込んで分け合いながら食べているらしい。
お二人とも本当によく食べる……。
マリア様がちまちまと食べているのは……。
「マリア様。それって……!」
「ふふ、ビアンカ様。これ、すごく不思議ですよね。林檎が丸ごと飴に中に入ってるんです!」
マリア様は嬉しそうな顔で大事そうに林檎飴を食べている。
……イカ焼きといい醤油といい……。
パラディスコ王国には、もしかして転生者が居るんだろうか……。
移住したら探し当てたいわ。前世のお話もたまにはしたいもの。
「ビアンカ、あの屋台に行かないか?」
フィリップ王子がある屋台を指差してわたくしを連れて行く。
……先ほどの事があるから、なんだか少し緊張してしまう。
駆け落ち候補に王子が浮上……なんて色々な意味で恐ろしい。
うん、国を揺るがす大事件になってしまうわ。冷静になって、王子!
「こんな髪飾りだけの屋台もあるんだな」
王子に連れられて行った屋台には色とりどりの髪飾りが並んでいた。
パラディスコ王国らしい、明るい原色のものが多く目に楽しい。
「可愛らしいですわね!この、黄色い髪飾りなんて素敵……」
わたくしは小さな黄色い花の髪飾りを指差した。
見事な細工で花びらが広がっており、白いビーズで尾のような飾りが付いている。
「主人、これをくれ」
フィリップ王子はすぐにそう言うと、髪飾りを買ってわたくしの髪に手ずから付けてくれた。
お……王子、わたくし欲しいだなんて言ってないわよ!?
「うん、似合うな。ビアンカは何でも似合うが……」
フィリップ王子は、銀糸の上に咲いた黄色い花を見て満足そうに笑った。
……側に居るマクシミリアンの方を横目で伺うと、冷たい表情でわたくしを見ていた。
うう……マクシミリアン、目が怖いですよ……不可抗力なんですよ……。
「ビアンカ嬢!俺もこれあげるー」
ノエル様がわたくしの手に何かを渡してくる。
こっ……これはたこ焼き……!!
「これ、とっても美味しかったんですの!私タコに対する偏見が払拭されましたわ!」
ゾフィー様もにこにこしながらタコ焼きを頬張っている。
……何船もってらっしゃるの!?腕から零れそうなくらいタコ焼きを持っていらっしゃる……!
「私も、これを……。先程の林檎飴が美味しかったので、是非ビアンカ様にも味わって頂きたくて」
マリア様もきらきらと輝く林檎飴を下さった。
可愛い!嬉しい!
「皆ビアンカに貢物してる!ずるい!私もこれあげるんだから!」
そう言ってミルカ王女が手渡してきたのはとっても大きい、フランクフルト。
とっても美味しそうだけど……わたくしこんなに食べきれるのかしら。
「お嬢様、私にも何か……プレゼントさせて下さいね」
……拗ねたようにこっそりマクシミリアンに耳打ちされて、くすぐったさに少し笑ってしまった。