令嬢13歳・星祭りへ行きましょう・前
王家別邸のリビングルームで皆で紅茶を飲みつつまったりしていると、勢いよく玄関の扉が開く音がした。
今日はパラディスコへ来て3日目……つまり外交から解放されたフィリップ王子がこちらへ合流する日だ。
そしてこの場所へ来れて玄関を素通しで通れる人なんて王子しかいない……うん、フィリップ王子が来られたのね。
「ビアンカ!!ようやく帰ったぞ!!」
案の定というか……新婚家庭の旦那様のような台詞を口にしながらフィリップ王子がリビングルームに勢いよく飛び込んで来た。
急いで来られたのだろうか、彼の額からは一筋の汗が伝いぽたりと形のいい顎を伝う。
それは形の良い首筋をそのまま伝って落ちて行く……うう、色気がすごい。
「「くっ……!」」
マリア様とゾフィー様が胸を押さえて崩れ落ちる。
き……気持ちは分かるけど気をしっかり持って!!
今日も誰かと会ってからこちらに来たのだろう、王子は白い略式の礼服に身を包んでいた。
そういう服装をしていると……凛々しさが際立って絵本の中の素敵な王子様みたい。
……実際素敵な王子様ではあるんだけど。
「ご公務お疲れ様です、フィリップ様」
ソファーから立ち上がって彼を迎えると、王子は薄く頬を染めながらわたくしの手を取った。
「……ビアンカが妻になったら、こうやって毎日迎えて貰えるのかな」
「フィリップ様……!?」
突然の言葉に顔が真っ赤になってしまう。
王子は首を傾げて微笑むとわたくしの手の甲にそっとキスをして唇を離した。
パラディスコへ行く船旅中もそうだったけれど……なんだかこの旅の王子は積極的だ。
……気を付けないと、うっかり既成事実を作られてしまいそう……。
マリア様とゾフィー様が床に転がっているのをジョアンナとハウンドが介抱しているのが見えた……。
マクシミリアンはわたくしの背後に控えていて睨みをきかせている……あああ、いつもの事ながら王太子に……。
それから王子が居なかった間の2日間の話をしたり、王子のご公務の話を聞いたりしていたのだけど……。
「ずるい。皆でビアンカと楽しんで」
王子が、むくれて、拗ねた。
くっ……イケメンは拗ねた顔も可愛いですね……!
王子の美貌は年を経るごとに磨きがかかり、今では輝かんばかりである……なんて目の毒なの。
昔から見慣れていて耐性があるわたくしでも、ふらりとしそうになるんだから他の女性だと尚大変なんだろう……。
「公務だったのはどうしようもないでしょ?」
ノエル様がハウンドが持って来た茶菓子をもしゃもしゃとハムスターのように詰め込みながら言う。
……ああ、これはすぐにおかわりが必要ね……。
ジョアンナに目線をやるともうすでにアフタヌーンティーのセットを用意してノエル様の前にそっと置いていた。
ジョアンナ、やるわね。
「ノエル、ビアンカの水着……見たのか?」
「見た」
「ずるい!!」
フィリップ王子の問いにノエル様がとてもいい笑顔で答え、王子が間髪入れずに叫ぶ。
……なんで引き合いがわたくしの水着姿なんですか、止めて下さい2人共。
わたくしがとても恥ずかしいです……。
「マックスなんて水着のビアンカと抱き合ってたしねぇ」
もぐもぐとノエル様のアフタヌーンティーセットのスコーンをつまみ食いしながらミルカ王女が言う。
ちょっと……なんでチクるんですか!!
ミルカ王女は引き攣った顔のわたくしに『だって面白そうなんだもん』みたいな視線を送る。
「マクシミリアン!それは本当なのか!?」
「……不可抗力な事態がございまして!」
フィリップ王子の迫真の睨みにマクシミリアンは爽やかな満面の笑みで答えた。
あああ……あれってどう考えても煽ってるわよね……!?
「ビアンカ!!」
「はひ!?」
フィリップ王子はわたくしの方に近付いて来ると……。
「一人で公務を頑張ったんだ。俺も……ご褒美が欲しい」
そう言ってわたくしの手を両手で握って、潤んだ子犬のような目で見つめてきた。
ご……ご褒美と言われましても……。
「えーと……ご褒美で……ございますの?」
突然言われても何も思いつかない……。
でも確かに王子一人がご公務されている間皆で楽しく遊んでいた訳で……。
「じゃあわたくしがお料理でも……」
「「お止めくださいお嬢様!」」
軽い冗談のつもりだったのにマクシミリアンとジョアンナに、本気で止められた。
フィリップ王子も、わたくしから軽く目を逸らしている。
……くっ、どうせ料理は下手の横好きよ……!!
攻略キャラにご飯を作る……は乙女ゲームの定番イベントだからちょっと言ってみたかったのよ!
「じゃあさー皆で星祭りに行かない?」
ミルカ王女が、ぽんと胸の前で手を叩いて言った。