令嬢13歳・2人でお部屋で
パラディスコ王国に到着して今日で2日が経とうとしている。
この2日間は海で遊んだり、時々別邸にあるプールに入ったり、ミルカ王女の提案でバーベキューをしたり、浜辺を散歩したりと楽しくのんびり過ごしていた。
最初は緊張気味だったマリア様とゾフィー様も、今は緊張が解けたご様子でノエル様とミルカ王女と一緒にボードゲームで遊ぶ姿なんかも度々見られた。
ボードゲームはどちらかというとインドア派なマリア様とゾフィー様を気遣ってノエル様が別邸の倉庫で見つけたものを引っ張り出してきたのだ。
ボードゲームをしながらゾフィー様がチラチラとノエル様を見ているのがとても微笑ましかった。
そしてミルカ王女が2人を見ながらなんだかとてもニヤニヤしていた……。
そして現在わたくしが、何をしているかといいますと。
何故か……自室でマクシミリアンに椅子の上でお膝に抱え上げられて、後ろ抱きで抱きしめられているんですよね。
何故か、じゃないわね。原因はまたわたくしなのだ。
浜辺を散策中に石に足を取られて転倒し、脛に切り傷を作ってしまい……マクシミリアンに姫抱きで自室まで運ばれて手当をしてもらったのである。
……お姫様抱っこに関しては皆様からはいつもの事だしね、みたいな生温かい目で見られていた。
「お嬢様。心配ばかりかけないで下さい」
「ふぁい……」
マクシミリアンがわたくしの肩に顔を置いて言う。
ち……近いです。近いですよ、マクシミリアン!!
そして本当にいいお声ですね……ゲームでも超人気声優が声を担当してらっしゃいましたもんね。
そういえば……昔マクシミリアンから魔法の授業を受けていた時に、こういう体勢でよく授業を受けていたけど。
……今考えると……あれも確信犯だったのね、マクシミリアン・セルバンデス!!
まぁそれはもういいとして……あの頃とは訳が違うといいますかね。
一応わたくし、お年頃ですし……。
そしてこの、抱きしめているご本人のマクシミリアンからは、その……想われておりますし。
つまりは自分に好意を抱いている男性との密着度が凄すぎて、脳の処理がもうパンクしそうなのだ。
だってマクシミリアンのお膝にわたくしのお尻が乗ってる上に、がっちりと両手で腰をホールドされてるんですよ!?
「あのね、マクシミリアン」
「なんですか?お嬢様」
「この体勢恥ずかしい……くっつき過ぎで」
わたくしの言葉を聞いて、マクシミリアンが笑う気配がした。
「私は、お嬢様とくっつきたいですよ?」
「マ……マクシミリアン……」
『いい加減にして!』と怒ったら、マクシミリアンは恐らく……いつもみたいに笑って離れてくれる。
……けれど。
ふと、心の中にミルカ王女との会話で訊かれた事が過った。
『じゃあマックスが~他の女に取られたら~って想像するとどう思う?』
わたくしが前世を思い出さなかったら……こうやってマクシミリアンが甘い言葉を囁いたのはシュミナ・パピヨンだったのかもしれない……いや、きっとそうなんだろう。
……それは嫌だ。絶対に嫌だ。
でも……親愛なのか、恋愛なのか、長く一緒に居る間に芽生えた家族愛なのか。
どの気持ちから……わたくしはマクシミリアンを取られたくないって思っているのだろうか。
それは……まだ分からないけれど。
(わたくしがこうやって……拒絶ばかりしていたら……マクシミリアンはわたくしを諦めて他の人を好きになったりするのかしら。わたくしから……離れてしまうのかしら)
それを想像すると、胸の深い部分がずきりを痛んだ。
……た……たまには、ちゃんと受け入れてみるのも、大事かもしれない。
ほら、わたくしの中での結論が出る前に、離れて行かれちゃったら、こ……困るもの!!
彼が離れて行った後に好きだって気付いたら、困る!!
そうなってしまったら、南国に好きな人と行けなくなっちゃうじゃない!
そう結論したわたくしは……ふにゃり、と体の力を抜いてマクシミリアンに身を任せた。
「……お嬢様?」
いつもと違うわたくしの反応に、マクシミリアンの怪訝そうな声がした。
「……少しだけなら、ぎゅっとしててもいいわ……」
多分、顔は真っ赤で、声も震えている。
「お……お嬢様……!!」
背後から聞こえるマクシミリアンの声も動揺している。
……ちょっと待って、マクシミリアンまで動揺しないで!?
せっかく力を抜いたのにまた緊張しちゃうじゃない!
「……では、失礼します」
「は……はい……」
……なんだがぎこちなく少し身を引き寄せられてすっぽり収まった彼の腕の中は。
暖かくて……とても安心出来る場所だった。