〇〇〇〇は依存させたい(隠しキャラ視点)
昔から、完璧なものに惹かれず少し壊れたり欠けたりしたものが好きだった。
満月よりも三日月が好きだし、オルゴールも壊れて鳴らないものが好きだ、完成していない絵も好きだ。
だって完璧なものは楽しくないじゃない。
――――そして僕は学園で、最高に壊れている彼女に出会った。
シュミナ・パピヨン男爵令嬢。彼女は、僕の理想の女性だ。
自信があるようで実は臆病で。可憐に見せかけてとても卑怯で。か弱く捕食される動物かのように涙目になったかと思うと裏で肉食獣のように残忍に笑って。男を侍らせ淫乱なのかと思えば、少し直接的な好意を見せられただけで驚愕して突き放す。上昇志向はあるのに努力を嫌がり思い通りにならないと癇癪を起す。
彼女の歪みを挙げていくとキリなくて思わず笑みが浮かんでしまう。
シュミナは歪んだ欠片をあやういバランスで繋ぎ合わせたかのような、僕の理想の少女だった。
そして……いつも歪な夢を見ている。
『私の事を好きになるはずだった人達が……なかなか振り向いてくれないの』
彼女はたまに虚ろな目になって、そんなうわ言のような事を言う。
デート中にそんな言葉を聞かされる僕の身にもなってよね?
僕だと思って安心してそんな言葉を吐いているんだろうけど。
最初は彼女の取り巻き達の事かと思ったけれど……彼女、学園で最も目立つ4人にご執心みたいで。
だけどシュミナの歪の美しさを理解出来ない彼らは、僕の忌む完璧であるビアンカ・シュラット侯爵令嬢に惹かれているようだった。
ビアンカ・シュラット、あれはダメ。
人柄に優れ、成績もトップで、容姿も天から降りてきたかのように極上。
口を開けば美しい声音がまろびでて、その美しい声は悪意のある言葉なんて一切吐く事がない。
シュミナ達がちょっかいを出してもまるで聖女のような対応で小首を傾げ困ったような顔で正論を吐く。
シュミナが失敗した授業では非常に高度な魔法さばきでクラスメイトを守ろうとしたらしい。
……正円にも程があるよ。欠けている場所を探すのも面倒な女なんて御免だ。
美しい器に、間違った魂が入り込んでいるかのような……そんな美しい僕のシュミナ。
彼女は、どこもかしこも欠けてひび割れていて。
その縦横無尽に走る隙間を、僕の存在でみっしりと埋めたくなる。
……そうすれば、とても素敵で歪な芸術作品が出来ると思うんだ。
ねぇ、シュミナ。僕に依存して?僕の存在で君の隙間を埋めて?
僕が離れたらバラバラになってしまうくらいに僕に依存をして。
そんな君を僕は……一生愛してあげるから。
ああ……でも壊してしまうのも楽しそうだね?どっちがいいかなぁ。
今日は、シュミナの家……パピヨン男爵家の屋敷を訪れた。
パピヨン男爵家の屋敷はこぢんまりとしているというか……平民と紙一重の経済状況なんだろうな、という事が見てとれる。
娘をかなり無理をして魔法学園に通わせているんだろう。
先日シュミナをデートから送り届けた時に見たパピヨン男爵とその妻の顔はかなり疲労の色が濃くて。
……壊れそうな雰囲気を感じて、観察していてぞくぞくした。
2人を壊しているのは勿論シュミナ。だけど彼女にその自覚はない。
本当に馬鹿な子だね、誰でも分かる事なのに。
2人が自分達で把握出来ている限りの娘が迷惑をかけた人々に頭を下げて回ってる事に対して……シュミナは『頭なんて下げなくていいのに!あっちが悪いのよ!』とむしろ憤っていた。
ああ。あのご両親は娘が学園でシュラット侯爵家の娘に迷惑をかけていると知ったら……本当に壊れてしまうかもしれないね。
彼女の部屋の窓に小石を投げる。
するとしばらくして、冴えない顔色のシュミナが窓辺に立って僕を見るとほっとしたように笑った。
庭へとやって来た彼女をデートに誘うと、彼女は『ふふ、どうしようかしら』なんて気を持たせるような事を言う。
『焦らしてあげようかしら?私はそんなに安くないから』……こんなとこかな彼女が思ってるのは。
その彼女の見え見えな演技に、僕はわざと乗ってあげるのだ。
馬鹿で無知で愚かで歪な僕のシュミナ。
君は気付いていないけれど……とっくに独りぼっちなんだよ。
フィリップ王子もノエルもメイカ王子もマクシミリアンも。
皆あの正円のビアンカ・シュラットに夢中だ……君に振り向く事はない。
ねぇ、シュミナ。僕だけに依存して?
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「もう一人……いた気もするんだよなぁ……」
わたくし……ビアンカ・シュラットは、ふと浮かび上がった記憶の糸を手繰ろうとする。
現在わたくしはパラディスコ王国の王家別邸にあるプールでプカプカと浮いています。
海もいいけどプールもいいですね。
マクシミリアンが用意してくれた浮き輪に乗った状態で、南国らしくフルーツが刺さったジュースなんて飲んでる訳です。
うーん……バカンス!!
それは置いておいて……なんだっけ……。
思い出せそうで思い出せず頭には霞がかかっている。
――――パラメーター平均が極端に低い場合に遭遇する隠しキャラ。
――――ヤンデレ、ヒロインバッドエンドあり。
「ビアンカー!果物食べよう~!」
ミルカ王女の声に振り返った時、思い出せそうだった記憶の糸がふつりと切れた。
まぁいいか。
フルーツ、フルーツ大事ですからね!
隠しキャラは!ヤンデレだった!
ダメな子じゃないと寄って来ないので、
ビアンカとの遭遇機会がなくビアンカは存在に気付いていません。
そしてちょろくてバッドエンドがあります(゜-゜)