令嬢13歳・わたくしは好感度を確認される
マクシミリアンに海での一件でこってりと絞られた後、わたくしは王家別邸の部屋のベッドでぐったりとしていた。
彼に叱られた件でぐったりしている訳ではなくて、ビアンカの体は当然ながら……前世の体よりも体力が無かったのだ。
鍛えないと。出来るようなら毎日ランニングをしないと。
そう思うものの学園でランニングなんかしたら『シュラット侯爵家のご令嬢の気がふれた』なんて噂が立ちかねない。
寮の部屋で踏み台昇降……も、マクシミリアンに絶対変な目で見られる。ジョアンナには多分爆笑される。
……これはどうしたらいいのかなぁ。今後の課題が発覚してしまった。
「うう……しんどい……」
「大丈夫~?ビアンカ嬢」
ベッドには何故かミルカ王女も一緒に転がっていて、わたくしの頭を撫でてくれていた。
丸く目がぱちくりと瞬きながらこちらを見つめ、柔らかそうなほっぺがベッドに押し付けられてむにゅりと形を変えている。
うう……可愛い女友達尊い……。
「大丈夫ですわ……少し疲れただけなので……」
えへへ、と笑ってミルカ王女の顔を見るとミルカ王女もにっこり笑ってわたくしの手を握ってくれた。
マリア様とゾフィー様はノエル様と一緒にお茶をしている。
緊張でカチコチになってる二人は可愛かったけれどそのままにしておくのも気の毒なので、体調が戻ったらわたくしも加わろう。
ゾフィー様なんて『尊み……尊みが溢れすぎて心臓が止まる……。今日は私の命日……』って真っ青になってうわ言みたいにずっと言っていたのでノエル様が本当に心配していた。
心配したノエル様におでこで熱を測られて今度は真っ赤になって固まっていたし……ノエル様、オーバーキルですよそれ!!
……あの二人、何か生まれたりしないのかしら?恋とか、恋とか。
ゾフィー様は可愛らしいお方だし、お胸も大きいし……羨ましいわ。
「ねぇ。ビアンカ嬢」
「なんですの?ミルカ王女」
「……いい加減、ミルカって呼んで!私もビアンカって呼ぶからぁ!」
じたじたと足をばたつかせながらミルカ王女に言われ、わたくしは嬉しさ半分どうしようかな半分で口籠ってしまう。
だって王女様なのよ?呼び捨てなんて難しいわ……。
「ミルカ……様」
「ビアンカ!惜しい。惜しいけど今はそれで勘弁してあげる」
ぎゅっと首に抱きつかれぐりぐりと頭を胸に押し付けられ、可愛いなぁ……なんてしみじみ思ってしまった。
ゆ……百合の気はないのよ!多分……多分!
そして胸は止めて!!平面がもっと削れそうな気がするの!!!
「ねぇ、ビアンカ」
「なんです、ミルカ様?」
悪戯っぽい表情でミルカ王女がこちらを見る。
ふわり、と赤い髪が揺れて彼女の頬にかかるのを手で梳いて耳にかけてあげるとミルカ王女はくすぐったそうな猫のような顔をした。
……何をお聞きになりたいのかな……??
「マックスの事、どう思ってるの~?今彼とどんな状況なのか……良ければ聞かせて?」
「ミルカ様ぁああ!!!?」
衝撃で思わず、すごい声が出てしまった。恥ずかしい。
そして訊かれた内容も恥ずかしい。
どんな状況って……告白されて南国に攫いますって言われました、わたくしも彼との将来を前向きに検討する程度には好意を持ってると思うんだけど恋愛感情なのか自信が無くて、更に恋愛の経験が無さ過ぎて先の事が想像出来なくてどうしていいのか分からないんですよ。
――――というのを、言わなきゃいけないって事ですよね……?
なんて拷問なの。
「ふぁ~~……」
柔らかいお布団に顔を埋めてわたくしが呻くと、ミルカ王女が楽しそうに笑い声を立てた。
「す……好きか嫌いかと言われたら、好きだと、思いますわ。でも恋愛感情かと言われると良く分からなくて……」
口にすると、とても恥ずかしい。
推しだし、いつも側に居て優しくしてくれるし、かっこいいし、こんな覚悟がなかなか決まらないわたくしを好きでいてくれるし、将来を真剣に考えてくれてるし。
……改めて考えるまでもなく、マクシミリアンは素敵なのだ。
「じゃあマックスが~他の女に取られたら~って想像するとどう思う?」
ミルカ王女の言葉に、呼吸が止まった。
……思い浮かんだのは、シュミナ・パピヨンとマクシミリアンが寄り添うゲームのスチル。
いつもは表情を崩さない彼がヒロインを見つめながら微笑み、甘い言葉を紡ぐ。
『私は、君だけを愛している。どうか私のものに……なってくれないか?』
そして嬉しそうに頷いた彼女に……優しくキスをするのだ。
前世では狂喜乱舞しながら眺めていたそのスチルは……。
今はわたくしの心にもやもやしか生まなかった。
「い……いや、ですわ」
頭の中がかき混ぜられたみたいになりぐらぐらとして……何故か涙目になってしまった。
この黒い感情は、なんだろう。不安になって思わずぎゅっと胸の前で拳を握りしめてしまう。
そんなわたくしをミルカ王女は『そっかそっか。まぁ、ゆっくりね、ゆっくり』と言いながら優しく頭を撫でて微笑んでくれた。