令嬢13歳・パラディスコで海水浴・後
青い空、輝く海。そして水着の女子達!
夏休み!って感じね!テンションが上がり続けるわ!!
結局わたくしは最初に選んだ赤の水着を着て、腰には南国らしい花柄の布を巻いている。
水着に着替えた時、最近揶揄われっぱなしな事の意趣返しの意味も込めて布を巻かずにマクシミリアンの前に出てみたのだけど……。
「お嬢様は私を殺す気ですか……!ああもう、そんな美しい足を惜しげもなく晒して……!」
と言いながら真っ赤になって強く抱き締められてしまった。
……薄い水着越しにマクシミリアンの体温を感じて、わたくし自身もダメージを受けて反省した。
人を揶揄おうなんて思うものではない。
「お……溺れたりしたらどうしましょう……?」
「ビアンカ様!わたくし海になんて入る初めてですわ!怖いお魚とか出ませんの??」
「ふふ、大丈夫ですわよ。マリア様、ゾフィー様。浅瀬で遊ぶのでしたら溺れませんし、怖いお魚も出ませんわ」
恐る恐るという感じでマリア様とゾフィー様が海に足を浸しているのを微笑ましい気持ちで見てしまう。
マリア様はスレンダーなスタイルに似合う黒い水着で腰に白の布を巻いている。
ゾフィー様はピンク色の胸の下に切り返しがある少し短めの丈のワンピース状になっている水着を選んでいた。
「溺れても俺が助けるから、安心して?騎士訓練で泳ぎも項目にあるんだよ。波に流されるのが心配なら、海に入っている間手を繋いでてあげようか?」
にっこり笑ってノエル様が言うと、お二人は真っ赤になってもじもじとしてしまった。
相変わらず天然でたらしにかかるわねノエル様……!
わたくしが背中を押すと結局お二人は照れながらも、ノエル様に手を繋いで貰って海に入って行った。
「あはは!楽しい!!」
水平線まで泳ごうかという勢いでもう姿が遠くなのはミルカ王女だ。
その後ろをハウンドが必死の形相で追って泳いでいる。
ミルカ王女はハウンドが選んだオレンジ色の水着を着ていて、それは赤の髪に映えとてもよく似合っていた。
『俺が選んだんスよ』とばかりにドヤ顔するハウンドは鬱陶しかったけど。
「それじゃあそろそろわたくしもっと……」
準備運動をしていざ海へ!と足を踏み出したら……。
マクシミリアンに背後から肩を掴まれた。
「お嬢様……本当に泳ぐのですか?」
マクシミリアンは心配そうな顔だ……大丈夫よ、そんなに心配しなくても。前世では最速の海女って呼ばれるくらい泳ぎは上手かったんだから。
……多分死因は溺死だけど……。
「ダメかしら?」
こてん、と首を傾げるとマクシミリアンは心配そうに眉を下げる。
ちなみに男性陣も水着をミルカ王女から用意して貰っていた。
オーソドックスなトランクス水着というやつだ。
鍛え上げられたノエル様と均整の取れたマクシミリアンの裸の上半身は正直……素敵すぎて目の毒だ。
「心配なら、一緒に来て?」
わたくしがおずおずと手を差し出すとマクシミリアンは一瞬困惑した顔をして、自分の手を繋いでくれた。
これでマクシミリアンも安心してくれるだろうか……。
取り合えずは海に入れて貰えないと何も始まらないのだ!
「お嬢様……本当にその。こういう事は他の誰かにはなさらないで下さいね?」
「?マクシミリアンにしかこんな甘えた事お願い出来ないわ」
「……クソッ、可愛いな」
マクシミリアンが小さく呟いた言葉は波の音に邪魔されて聞こえなかった。
足を波に浸すと、ひやり、とした感触が伝わってきて気持ちいい。
ずんずんと海に向かって進んで行くとマクシミリアンが焦ったように手を後ろに引いてくる。
うう……犬のリードを付けられている気分。
それでも進んで深さはそろそろ胸までくるくらいになった。ああ、気持ちいい。
「お嬢様、もうこれ以上先へは行ってはいけませんよ。足が付かなくなって溺れる可能性も……」
「大丈夫よ。マクシミリアン」
「お嬢様のその海に関する過信はなんなのですか!」
「……マクシミリアン」
わたくしはそっとマクシミリアンの手を外してにっこりと笑い……。
とぽん、と頭から潜水した。
視界が、一気に青に染まった。
体も前世の記憶を覚えているのか、久しぶりの感覚に打ち震えるように全身が喜んでいる。
パラディスコの海は青くとても澄んでいて、小魚の群れが白銀の煌めきを放ちながら泳いでいた。
魚達は人間を怖がっていないらしく、わたくしに近付いてきては離れて行きを繰り返している。
(前世の『みこと』の体と違って『ビアンカ』の体は体力が無さそうだし……。20秒……いや10秒で海面に上がろう)
前世では3分は潜っていられたけれどビアンカにそんな肺活量は確実に無い。
それに海の中は体力をかなり消耗する……ビアンカの体でも泳げそうだからといって、過信は禁物。
わたくし今世も海で死ぬなんて御免なのです。
そう思いながら足で水を掻き、滑るように海底を泳ぐ。
そしてそろそろかな……というタイミングで海面に浮上したら。
……正に激怒という顔のマクシミリアンと目が合った。
「え……えへ……」
「お嬢様っ!!!」
「だ……だって……!泳ぎたかったの!」
うう……本当に怒ってる。彼の本気の恫喝に思わず涙目になってしまう。
マクシミリアンはどんどん近付いてきてわたくしの頬を両手で挟み黒い瞳で射抜くように見つめてくる。
そしてコツン、と額をぶつけて長い大きな溜め息を吐いてから、わたくしの体を抱きしめた。
ちょっ……!!生身のマクシミリアンの体が密着してるんですけど……!!
逞しい腕と、厚い胸の感触がいつもよりダイレクトに伝わってくる。
「……お嬢様、無茶はなさらないで下さい。……肝が冷えました」
「……ふぁい……」
心臓が、胸を突き破りそうな勢いで鼓動を打っている。
早く、早く離れて欲しい。このままではときめきすぎて死んでしまうから。
あとね、生身で抱きしめられるとわたくしの胸が平面である事が如実に分かってしまうから……悲しい。
「楽しそうな事してるぅ~。マックスやらしいなぁ」
いつの間にか近くに来ていたミルカ王女に声をかけられ、マクシミリアンの胸をぐいっと押して急いで離れた。
「お嬢様が無茶をなさったので、諫めていただけです」
「そうなの、足を取られて沈んでしまって……!!」
冷静に答えるマクシミリアンと、あわあわしながら言い訳するわたくしをミルカ王女は見比べ……。
わたくしの耳元に口を寄せて、
「後でちゃんとお話し聞かせてね?恋バナ、楽しみ!」
と楽しそうに言った。
ミルカ王女の口調はゲーム内のサポートキャラの時そのもので、少し懐かしい気持ちになってしまった。
……うう……しかし恋バナかぁ。