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令嬢13歳・シュミナ嬢とミルカ王女・前

マクシミリアンから気持ちを伝えられて、2か月が経った。



あれから……マクシミリアンのスキンシップは日増しに増えている。

彼は弁えているので、衆目がある場では執事とお嬢様、をちゃんとやってくれるのだけれど。

寮などの人目が無い場所だと……大変な事になる。

気が付けば抱き締めてくるし、油断するとすぐ頬や額にキスをしてくる。

唇はダメだと確かに言ったけど、それ以外ならいつでも良いと言った覚えも無いんですけど……!!

わたくしの人生、前世も含めて彼氏が居た経験が無いんですよ!刺激が強いんですよ!

彼はわたくしの執事だから寮の部屋への出入りの許可が当然出ているのだけど……。

マクシミリアンの気持ちを知ってしまった今となっては『自分に好意を持つ男性』が部屋に出入りしている、という状況に妙な緊張感を覚えて意識してしまい挙動がおかしくなってしまう。

そしてそうやって意識をしていると、マクシミリアンが妙に嬉しそうな顔をするのよね……。

『男性として、見て下さってるんですね』なんて言って笑わないで欲しい。

これが卒業まで続くの?わたくしの心臓大丈夫??


そういえば。乙女心的に気になったので『いつから好きだったの?』って彼に訊いたら『出会った頃からです』と即答された。

……想像以上に年季が入っていた。重いよマクシミリアン!

それってわたくしがまだ……ゲーム通りの我儘令嬢だった頃から……って事よね?

……ゲームであのバッドエンドになってしまったのは……可愛さ余って憎さなんとやらだったんだろうか……。



今日のわたくしはそんなマクシミリアンを使用人サロンに置いて、ミルカ王女の寮のお部屋でパラディスコ王国のお話を聞いている。

ミルカ王女のお部屋にマクシミリアンは流石に連れて行けないもの。

心配していたミルカ王女との関係は実に良好だ。

今も彼女の部屋のソファーにわたくしが腰を掛け、ミルカ王女は何故かわたくしの膝枕で過ごしている。

彼女もマクシミリアンと同じくスキンシップが多いタイプだという事は、友人付き合いを始めてすぐに分かった。

髪を手で梳くと喜んでくれるので、今もそうしていると嬉しそうに、にへり、と笑う。可愛い。


「パラディスコ王国では、パンではなくお米が主食なのですわね」

「そうなの。パラディスコはお肉の生産量がこっちよりも低いから、挽肉にして食べる事が多いんだけど。挽肉だとくず肉でも美味しく食べられるでしょ?そんでね、それを甘く煮てご飯に乗せたりするんだよ」


それってなんてガパオライス!!!!

思わず目がキラキラとしてしまう。

お話を聞く限りパラディスコ王国の食生活はわたくしの食の好みと合っていそうで胸が躍ってしまう。

筑前煮に似た野菜のごった煮や、トロナイモを細長くかつら剥きの要領で剥いて干して作った野菜麺をお汁に入れてふわふわの卵を上から乗せて食べるもの……ああ、懐かしのおうどんみたい。

南国なのに料理は和の心を感じる。なんて素敵な国なの。


「食べてみたいですわ……」


心の底からの羨望を含んだ声が漏れてしまう。


「じゃあ夏休暇、パラディスコにおいでよ~。メイカとは別で帰ってあっちでもあいつと会わないようにちゃんとするから!」


うう……なんて魅力的なご提案……。

マクシミリアンが嫌な顔をするのは分かってるんだけど……。

今回はメイカ王子じゃなくてミルカ王女からのお誘いだし……!


「泳いだりとか、も。出来るのかしら……」

「えへへ~乗り気?勿論出来るよ!水着もこっちで可愛いの用意するしさぁ」


わたくしの膝にぐりぐりと頭を押し付けながらミルカ王女が言う。

ああ……いいなぁ。久しぶりに夏の太陽の下で、青い海に身を浸したい。

視界一杯を青に染めて、魚と一緒に泳ぎ、深く潜って貝や雲丹を拾って……。

想像しただけで懐かしさで涙が出そうだ。


「マクシミリアンがいいと言ったら、行きたいですわ……」


この案件は持ち帰って検討いたします、というヤツだ。

いつ切り出そう……タイミングが悩ましい。


「じゃ!マックスの説得頑張ってね!」


向日葵のように天真爛漫な笑みを浮かべてミルカ王女が言った。

いつの間にかミルカ王女はマクシミリアンの事を愛称で呼んでいた。

ジョアンナといい、ちょっと羨ましいなぁ……。

とは思うけれど、わたくしが愛称で呼び始めたらマクシミリアンのデレが加速するかもしれない……いや、確実にする。

だからおいそれと愛称なんかでは呼べないのだ。


「ねぇ、お話してたら喉渇いちゃった。カフェテリア行こ?あそこのケーキも食べたい!」


ミルカ王女がわたくしの腰に腕を巻き付けてぐりぐり頭を押し付けた。

ちょ……ちょっと止めて!お腹周りが気になってるんだから!

『ふかふか……』とか呟かないで!聞こえてるのよ!!


「わ……分かりましたわ!では参りましょう!」


尚も腰回りを攻撃してくるミルカ王女を引き剥がして、女子寮から足を踏み出した時。


……あの子と目が合ってしまった。


「あ……」


声を出してしまったと思う。存在を無視して通り過ぎれば良かったのだ。

シュミナ・パピヨン男爵令嬢……とその取り巻き達。

今日も攻略対象には及ばないものの、見目麗しい男子達を連れてらっしゃる。

なんかまた人数増えてない……??やだなぁ。


「あれっ?サポキャラ??なんて悪役令嬢と一緒にいんの??」


わたくしと居るミルカ王女の顔を見て、シュミナ嬢が開口一番周囲に聞こえる声で言った。

ああああ……他国の王女にまで不敬な態度なのね、貴女って子は……!!

ミルカ王女に探りを入れた所、シュミナ嬢はメイカ王子には近付くもののミルカ王女には接触して来ないとの事。

狙いが分かりやすいというかなんというか。でも落としたい方の身内を無碍にするのってどうなのかしら。

将を射んとする者はまず馬を射よとも言うのに……非モテのわたくしでもやり方が拙い、と思ってしまう。

彼女達の横を通り過ぎようとミルカ王女の手を引いて歩みを進めると、


「ビアンカ様、こちらは挨拶をしたのに通り過ぎるなんて酷いんじゃないですかぁ?」


なんて言いながら、うるり、と小動物のように目を潤ませてシュミナ嬢が引き止めて来た。

挨拶なんて貴女してないでしょう?不敬に声をかけてきただけよね?


「これだからお高く止まっている女性は……」

「失礼ですよ!シュミナ嬢に謝って下さい!」

「身分を笠に着ていつも居丈高な嫌な人ですね」


口々に取り巻きから発せられる非常に頭が悪い言葉には未だ慣れない。

騎士伯・男爵・子爵……1番高い身分で伯爵家か。それも権威はあまり無い家ね。

よくこのメンツでこちらを責め立てようと思ったわね?

マクシミリアンはミルカ王女の執事が呼びに行っているのだけど……使用人サロンからカフェテリアに直接向かうだろうし……どういなしたものかなぁ。


「ちょっと。失礼じゃない貴方達。下位貴族の分際で身の程を知らないのかしら?」


わたくしが対処を考えている間に、ミルカ王女が不快感を露にした。

ああ……ノーモア国際問題……!!!!

ミルカ王女は普段はこんな身分を笠に着る言い方なんてしないのだけれど……相当お怒りのようだ。


「ミルカ王女。このような下賤の輩に関わると御身が穢れますわ」


扇子を広げて顔の半分を隠しながらわたくしがそう言うと、取り巻き達が不快だと言わんばかりにざわめいた。

シュミナ嬢が睨め付けるようにわたくしを見てくる。うう…蛇みたいな嫌な視線ね。


「……ねぇ、ビアンカ様。2人っきりでお話したいのだけど」

「貴女とお話する口はございませんの。さ、ミルカ王女、行きましょう?」


シュミナ嬢が2人っきりで話したい事なんて限られている。

わたくしが転生者か探りを入れるか、攻略対象と上手くいかないのをわたくしのせいにするか、マクシミリアンを解放してください!なんて事実無根の難癖を付けられるか。

付き合ってあげる義理なんて全く無い。

そのまま彼女達の側を通り過ぎようとした時。


「シュミナ嬢が話しかけているだろうがっ!!」


取り巻きの一人の激高した声がその場に響き、わたくしの髪は後ろに強く引っ張られた。

あらら、手まで出して来ちゃうの?取り巻きの教育はどうなっているの??なんて思いながらシュミナ嬢の方を見ると、彼女はにこにこと楽しそうな顔で笑っていた。

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