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我儘令嬢は推しに優しくしたい・後

推しとのあれこれ後編と今後について考えるの回。

「申し訳ありません。お嬢様」


 マクシミリアンのおデコこつん……もとい、ヘッドバッドを受けわたくしが悶絶していると、彼がわたくしの額にそっと手を添えてきた。

 おてて冷たい……そして意外と手が大きくてゴツゴツとしている。

 庭師を手伝っている姿も見るし、今世のわたくしと違ってちゃんと働いている人の手なのだなとしみじみ思う。

 前世のわたくしの手は、マクシミリアンより農作業で荒れてたけどね。

 女子としては自慢にならないけど第一次産業従事者としては誇っていいと思うの。


(……人の手の感触って、安心出来るのね)


 そんな事を思いながらマクシミリアンの手を自分の手で取り、猫のように頬を摺り寄せる。

 するとビクリ、と彼が動揺したのが手から感じる振動から伝わった。

 嫌いな相手からいきなりこんな事をされたら、嫌だろう。

 推しと会えて浮かれていた気持ちが、スッと冷えた。


「……謝って許される事じゃないけれど。わたくし今まで我儘ばかりだったわ。……ごめんなさいね」


 手を握ったまま、気持ちを込めて彼を見つめる。

 驚きすぎて見開いた彼の目が零れそうだ。

 それはそうだろう。昨日まで我儘放題で振り回していたお子様がこんな事を言い出すのだから。


(ゲームの貴方のようにはしたくないから、せめて嫌いにならないで)


 復讐を胸に、苦しむ貴方にはしたくない。


「お嬢様……本当にどうしたのですか?」


 驚いた表情のままの彼の口から、掠れるような声が出る。


「溺れた馬鹿なわたくしを助けてくれた事、少しは恩に感じてるのよ。そして……反省したの」


 前世を思い出したからトラウマを植え付けたくなくて優しくしたいし仲良くしたいです、なんて言えない。

 苦しい言い訳だと思いながらもそんな言葉で誤魔化す。

 ふふっと笑って手を離すと、彼も少し微笑んだので安心した。


(さて……これからどうしよう)


 推しに会えた喜びをもっともっと噛みしめたいけれど、これからの事を考えないと。


 バッドエンド(わたくしにとっての)は、現在思い出せていない二キャラ分は置いておいて、

 ヒロインを虐めさえしなければ発生しないもののはず……だけど念には念を押したい。


 まず、フィリップ王子の婚約者になる事は極力避けたい。

 バッドエンドの可能性を出来るだけ取り払っておきたいのもあるけれど、

 前世の記憶を思い出したわたくしにとって王宮暮らしなんて窮屈にしか思えない。

 ヒロインがフィリップ王子を選ばなかった時、王妃になってしまうのは嫌なのだ。

 以前のビアンカは少なからず王宮暮らしに憧れていたみたいだけど。


 マクシミリアンの場合はこれから仲良くなれば復讐されるいわれも生じないし、ヒロインを虐める気もないから大丈夫……よね? 多分。おそらく。

 彼の事は推しだし大好きだけど、恋愛と推しへの気持ちは別のものってちゃんとわきまえているから。ヒロインとの仲を応援するわ。

 イエス推しノータッチ!

 ゲームの強制力や転生者ヒロインに嵌められる……なんて事態が発生した場合、どれだけ仲良くしていてもゲーム期間に入った瞬間に無駄になる可能性も否めないけれどそればかりは恐れていても仕方がない。

 万が一ボコボコ娼館ルートに入った時は、せめて手加減してね、マクシミリアン。


 自分の周囲の人間との関係も改善したい。

 いざと言う時変な噂を流されないように……もあるけれど、周囲の人間と不仲なのって気持ちがいいものじゃないもの。

 我儘なわたくしが壊して失ってしまった信頼を、まずは取り戻そう。

 家庭教師の先生にも謝って、きちんと勉強を教えて貰って。

 庭師のジムにお花を咲かせてくれていつもありがとうって言って。

 メイドにも、コックにも。父様にも、お兄様にも。

 ちゃんとありがとうって言いながら生きて行こう。

 三歳の時に亡くなった母様にも、ちゃんと毎月お花を供えに行こう。

 悪役令嬢にならずに、出来れば前世で住んでいた島みたいな、あったかい日々が過ごせたらいいな。


(清く正しく過ごしてもゲームの強制力が働いて国外追放される可能性を考えると……。

 国外追放に関しても色々と前向きに検討しないとね)


 地図を見ながら追放される土地の候補を絞りたい。

 前世の島みたいに、豊かで自給自足出来るような土地がいい。出来れば南国。

 魔法を自在に使えるようになれたら尚いい。

 火魔法で火をつけられたら便利だし、土魔法で木を育てたり出来たら更に便利だ。

 ゲーム内のビアンカは不真面目だったから魔法の勉強も碌にせず、指先に火を灯す程度しか使えなかったのよね。

 魚を銛で捕まえられるように、泳ぎと剣術も覚えたい……けど侯爵令嬢の身の上でこれは許可が下りないわよね……こっそり誰かに習えないかしら。

 今から真面目に勉強したらきっと、いっぱい魔法が使えるし、剣の腕も上達する。

 以前のわたくしは勉強が大嫌いだったけど、今は勉強が出来る事にワクワクしている。

 お勉強が嫌いじゃなかった前世の影響ね。


 ……あれ?

 国外追放プラン……なんだか楽しそうじゃありません事?

 これはどうしたものかしら?


 腕組みをして悩み始めたわたくしを、マクシミリアンが不思議そうな目で見ている事にわたくしは気付いていなかった。

次回は兄と父登場かマクシミリアン視点。

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