令嬢13歳・マクシミリアンと放課後デート・中
こんなに気軽な感じで街へ出かけるのは幼少期にノエル様と夏祭りに行って以来だ。
…つまり深窓のご令嬢が街へ出る、なんて機会は皆無に等しかったのだ。
服はデザイナーさんが採寸とデザインをしに邸まで来てくれて後ほど完成品が届けられる形だったし、宝石は出入りの商人が実物を持って来てくれてそれを選ぶお買い物。街で流行りのお菓子はジョアンナのご実家から送られてきていたし…。
日々の時間は勉強や魔法の訓練や畑の世話やマナーレッスンでぎちぎちだったから、そもそも街へお買い物へ行きたいわ、なんて発想自体がわたくしに欠けていた気がする。
Amazo〇に身を任せて生きる引きこもりみたいね。
お出かけを一切してなかった訳じゃないのよ!
……マクシミリアンと2人での遠乗りや、ピクニックでの外出はたまにしてたのよ…!
あ…あとお茶会とか…夜会とか…王妃様に呼ばれて王宮へとか…これはどれも馬車でドアツードアって感じでお出かけって感じじゃないわね…。
歩いているとわたくし達と同じく、学生街へ向かうのであろう制服姿のままの生徒の姿がチラホラと見える。
中には仲睦まじく歩いているカップルもいて微笑ましい気持ちになる。
「この辺のはずなんだけど…」
ノエル様に書いて頂いた地図と睨めっこしながらカフェを探す。
地図通りに歩いてるはずなのにカフェはなかなか見つからない…。
前世では方向音痴だった記憶は無いのだけど、ビアンカはもしかすると方向音痴なのかもしれない。
「見せて頂いていいですか?」
マクシミリアンが横からそっと地図を覗き込む。
彼の秀麗な美貌が、顔のすぐ横にある…ち、近いんですけど…!
横目で見ながら、思わず見惚れてしまう。
うわぁ…睫毛長い…。唇綺麗。お肌もきめ細かいしずるいなぁ…。
じっと見つめていると、こちらに視線をやったマクシミリアンと至近距離で目が合った。
至近距離の美形の破壊力って…すごい。
目の前にキラキラのエフェクトが散っている気がする。
マクシミリアンの顔が、ふとこちらへ近付いて来て。
頬にふわりと、唇が落とされた。
「ふぇえええええ!!?」
思わず色気が無い叫び声を出して頬を押さえ、少し後ずさってマクシミリアンから離れた。
なんでキスするんですかね!!!
顔に血がどんどん昇って行く。どうしていいのか分からなくてひたすら馬鹿みたいな顔でぽかんとマクシミリアンを見てしまう。
「申し訳ありません……あの。つい……」
マクシミリアンも真っ赤になって自分の口を押さえ、わたくしから目線を外す。
イケメンはつい、でキスするの!?イケメンってすごいなぁ!!
唇柔らかかった…。思わず感触を反芻してしまう。
「……嫌、でした?」
色っぽい流し目で気遣わし気に訊ねられて、思わず首を横に振った。
嫌じゃないの。嫌じゃないから困るの。
わたくし恋愛経験が皆無に等しいのよ?こんな事されたら、勘違いしてしまう。
マクシミリアンは攻略対象で、ヒロインだけじゃなくて絶対モテる。
これをされるのが、わたくしだけって思い込むのが怖いのだ。
その気になった後で『お嬢様何を勘違いを?』なんて言われたら立ち直れない。
「そゆことされると、勘違いしそうになるからぁ……」
思わず前世丸出しの口調で呟いて両手で顔を隠してしまう。
ふっと彼が笑った気配がして顔を隠した両手に、また唇が落ちてきて。
わたくしは、大いに動揺してしまったのだった。
先程からマクシミリアンからは甘い空気がだだ洩れで漂っている気がする。
どうしたの、貴方先程落ち込んでいたんじゃなかったの!?
「……勘違い、沢山して下さい。お嬢様にでしたら、いくらでも勘違いされてもいいんです」
耳元に甘く甘く囁かれ。
わたくしは思わず彼の胸元に倒れ込んでしまった…。
もしかしてわたくし、遊ばれてる……???
「脈が無い、という訳でも無さそうですね」
わたくしを抱き締めながらマクシミリアンが嬉しそうに何かを言った気がした。
それからわたくしが立ち直り、マクシミリアンの腕から身を起こすまで軽く10分はかかったと思う。
つまり往来で10分間抱き合ってた事になるのね…それを考えるとまた倒れ込みそうになるから深く考えないようにしたい。
「マクシミリアンのバカ……!」
わたくしが思わずむくれて言うと、
「そんなにお可愛らしい顔をされていると、今度は唇にキスしたくなります」
なんて彼が言い出すからすごく焦った。
本当に、今日の貴方どうしたの…!!!オーラが、オーラがなんだかピンクよ!!!
「今日の貴方、変なのだけど」
「いえ…お嬢様の反応を見て、たまには攻めの姿勢も大事かと思いました」
なんてにっこり微笑まないで!どうしてわたくしを攻めるの!
好きになってしまったら責任取ってくれるの!?
そんな事になったら貴方が嫌がっても駆け落ちして貰うからね!?
そうこうしながらすっかりご機嫌なマクシミリアンに手を引かれながらカフェに辿り着いたのは、更に20分程後だった。
ノエル様……この地図道を1本間違ってたわよ……!