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令嬢13歳・学園生活の始まり

学園編が始まりました。

学園編からは更新ペースが少し落ちるかもしれませんがご愛顧頂けますと嬉しいです!

何卒宜しくお願い致します。

春。


花々が咲き乱れ、日差しが優しくわたくし達を照らす優しい季節。

わたくしは、門の前に立ち、その瀟洒な建物を見上げた。

ここは『ルミナティ魔法学園』。

魔力を持つ貴族の子女達が通う、選ばれし者達の学園。

『胡蝶の恋~優しき蝶は愛される~』のゲーム開始の舞台…そしてわたくしの戦いの場。

ビアンカ・シュラット13歳。

いよいよ、魔法学園に入学です。


前世の学校と同じでこの学園にも制服がある。

上は前ボタンが沢山付いたきっちり閉まる黒の上着に赤いリボンタイ、プリーツのロングスカート。

スカートの下はタイツ…と流石淑女用と言う感じの露出の隙が無い制服だ。

ちなみに男子は濃紺のブレザーに、黒のベストという服装だ。

と言うか乙女ゲーム本編の恰好だよ!すごい!

わたくしの後ろにはマクシミリアンとジョアンナが控えている。

学園の寮には3人まで使用人を連れて行っていい事になっているのだ。

流石貴族の学園。まぁ一人で身の回りの事が出来る令嬢令息なんて基本的には居ないもんね。

勿論わたくしは、この2人を連れて行く事にした。

ジョアンナに関しては…かなり悩んだのだけど。

実はジョアンナは邸のコックのラヨシュと、1年前に結婚したのだ。

わたくしに2人で料理を教えた事がきっかけでいつの間にやら仲が深まっていたらしい。

そんな新婚さんを3年間も引き離してしまうのは、抵抗があったのだけど…。


『わたしが居ないとお嬢様は朝も起きれませんから~』


と笑いながら言ってくれた。

…ちゃんと毎週末には帰って貰おう。


マクシミリアンはここ数年で更に素敵になった。と言うか当たり前だが見た目はゲームの彼そのものだ。

ゲームの立ち絵を現実にするとこうなるのね…。

射干玉のように美しい色の黒髪。少し長い前髪から覗く怜悧な黒い瞳。引き締まった体躯に、綺麗な色の褐色の肌。

顔の彫りは深く、彫像のよう。

そして晴れて執事見習いから執事になった彼は、黒の執事服に身を包んでいる。

う…美しすぎる…!!ああ!好き!

これでわたくしに甘々なんだから、もうどうしていいか分からない。

推しのサービスが過剰すぎる件について。


前世の記憶に目覚めて早7年近く。

一生を捧げたく思うような鮮烈な恋に目覚める訳でも無く、別の分野に興味が湧く訳でも無く。

わたくしの心は…………南国スローライフに囚われたままだ。


国外追放された時、もしくは駆け落ちした時に行きたい国の候補もちゃんと決まった。

パラディスコ王国。

『天国』、と言う意味の名のついたその王国は言うなれば島国である。

温暖な気候、豊かな自然、小麦色の肌の人々が暮らす小さな国だ。

ハワイ…グァム…。そんな言葉が頭を過った。


国外追放されても、こちらの世界でもわたくしの農業のスキルは通用すると分かったので自給自足はなんとかなるだろう。

魔法もマクシミリアン曰く、なかなかの使い手らしい。主に農業にしか使ってないけど。

いっぱい勉強して火魔法を注いだ魔石を使ってビニールハウスを作る事も覚えたのよ。

作った野菜は基本は邸で消費したのだけど、収穫量が多くなってしまった時はジョアンナのご実家が買い取ってくれた。

野菜の種も各種かなりの量を購入して邸に保管しているし、現金も野菜を売ったお金やお小遣いを全て貯蓄していたから結構な額になっている。

庶民だったら20年くらいは暮らせる金額なんじゃないかしら。貴族のお小遣い怖い。

泳ぎと剣を学びたい、と言う目標は父様とお兄様の反対に遭って結局果たせなかったけど。

剣からちょっとずつ武器を槍に移行して、こっそり泳ぎの訓練の時に持ち込んで…スピアフィッシングの練習したかったんだけどなぁ…。

釣りの腕前は衰えていなかったからそっちでなんとかしよう。

料理はね…うん。食べられればいいのよ。うん。


平民と駆け落ちルートを目指す場合、上記の準備に加え平民(もしくは下位貴族で家督を継がないしがらみがない人)の彼氏の存在が必要な訳だけど…。

正確に言うと、平民の想い人を作り既成事実を作った上で…それを父様に報告し、激高した父様が家から追い出してくれればよし、父様が追い出そうとしなくとも身分違いの男との恋に殉ずると言うことで駆け落ちしてしまえばいい、ルートだ。

処女でなくなり、平民と駆け落ちし、貴族社会での結婚の市場価値が大暴落したわたくしならば父様も捜索しないであろう…そんな見込みのルート。

だけど深窓の令嬢のわたくしには7年近くの間、当然年の近い平民の男性と知り合う機会が皆無だった。

社交に行っても父様とお兄様とマクシミリアン(そして時々王子)が目を光らせる状況ではしがらみが無さそうな貴族男性と知り合う機会も発生せずで…。

何も、無かったのよね、色恋沙汰。

例え条件が合う方に出会えていたとしても…。

『その方が南国へ駆け落ちしてもいいと思うくらいにわたくしを愛してくれるか』

この問題が次に発生するのだけど…どうやったら人に恋して貰えるかがさっぱり分からない。

どこかにわたくしと逃げてくれるくらい、わたくしを好きな人は居ないの!?


次善の策としての農作業を許してくれるお家への嫁入りを目指す、だけど…。

こちらは条件に合う方と出会ったら、どんどん押せば行けそうな…気はする。

シュラット侯爵家と繋ぎを持ちたい貴族家は多いから。

でもアプローチってどうやるの?胸とか押し付けるの?

……前世も彼氏無しの喪女には、色々荷が重い……。

世の中の恋人同士って、どうやって発生してるの?

真面目に不思議なんだけど!


一人で家出をする、と言う案に関しても再考してみたのだけど。

父様とお兄様が我が家の軍勢全てを挙げわたくしの捜索に乗り出す図しか思いつかず…。

多大な迷惑をかけた上で連れ戻されるだけよね、きっと。

こればかりは、無理だなぁ…と思う。


国外追放されず、駆け落ちも出来ず、農作業を許してくれるお家へ嫁げもしなかった場合…。

わたくしが行きつくのは王妃になるルートだ。

これは、王子には申し訳ないけど丁重に丁重にお断りしたい。

わたくし前世は野生児なのよ。窮屈な王宮生活なんて耐えられない。

友人としては王子は悪い子では無いんだけど。

本当にどうしようもなかった時は、仕方ない…のかなぁ…。


……ああ、スローライフしたい……。


どう言う結果になるにせよ。

かかって来い!学園生活!!!


わたくしがそう決意を固め、拳を握りしめた時。


「きゃあん!」


わざとらしいくらいに可愛く、あざとい声と共に、後ろから来た誰かがすっ転んだ。

地面に伏しているので顔は見えないが…。

このピンクのふわふわの髪……。


ヒロインだ。

ヒロインの男爵令嬢シュミナ・パピヨンだ。


これはマクシミリアンとの出会いイベントか…!!

転んで、マクシミリアンに助け起こされるヒロイン。

思わず秀麗なマクシミリアンの美貌に見惚れる彼女に、わたくしがきつい一言を言うのよね。

『わたくしの従者に色目を使うなんて。どこのご令嬢なのかしら?』って。

うわぁ…本当に始まってしまうんだ。

覚悟はしていたものの実際目にするとキュッと胃を掴まれたような気持ちになる。

3人の攻略対象達との関係性は良好だし、彼女を虐め無ければバッドエンドは回避出来る…はず。

フィリップ王子のルートのバッドエンドに関しては死なないし国外追放されるだけだからむしろ大歓迎なんだけど。

でも虐めてもいないのに無実の罪で追放は嫌よね、気持ちとして。

そう言えば最後の攻略対象とはまだ会っていないわね?

未知数のものが現時点であるのは怖いなぁ…。

とにかく虐めない・関わらない・存在を認識させないの三原則を掲げて学園生活を送ろう。

だからこのイベントもただじっと見守るのだ。


「お嬢様。寮に荷物を置いて入学式に向かいましょう。女子寮はあちらに見える建物ですよ」


あ……あれ??

マクシミリアンはニコニコしながら、わたくしの手を取って寮へ行こうとする。

イベントは???出会いイベントは????


「マクシミリアン。誰か転んでるわ」

「ああそうですね、お嬢様が転ばないように気を付けますね。大丈夫です、いざとなったらちゃんと受け止めますから」

「マックス、お嬢様はそんなそそっかしい事はしないわよ」

「何を言ってるんだジョアンナ。万が一はいつでもあるだろう?いっそ私が抱きかかえてお運びしましょう」


違う。そうじゃない。

と言うかマクシミリアン、ナチュラルにお姫様だっこしないで!

転がったままのヒロイン。どんどん遠ざかるわたくし達。

シュールな光景に思わず困惑してしまう。

あっ、ヒロインったら助け起こそうとした男子の手を払いのけた。



「なんでなのよッ!!!!!」



ヒロイン…シュミナ嬢の叫ぶ声が魔法学園の門前に響いた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] シュミナちゃんとの出会いイベント!(; ・`д・´) マクシミリアンがお姫様抱っこしちゃう対応に吹いちゃいました(笑) 平和ですねぇ~(笑)
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