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令嬢10歳・マクシミリアンの夏休暇

盛夏来りて。



地獄のような暑さのお外を眺めながら、クーラー代わりの水の魔石(冷気が吹き出す魔法がかけてある)が設置されている自室でひんやりと過ごしているわたくしです。

窓から外を見ていると、ああ…すごい、陽炎が…。

外で庭作業をしているジムに後で果実水を持って行ってあげよう。


今日は、夏休暇でマクシミリアンとお兄様が学園から帰ってくる日なので、わたくしのテンションは上がっている。

夏休暇は6週間。マクシミリアンは3週はこの邸で過ごして、残りの3週はセルバンデス家に帰るらしい。

6週間ずっと居て欲しいなぁ…と思わず考え、頭を振る。

家族との時間は大事だ。


「ふふ、マックスはまた大きくなってるんでしょうね。楽しみですねお嬢様」


ジョアンナに言われ、思いきり頷いてしまう。

待ち遠しくて昨日はあまり眠れなかったくらいなのだ。


「わたくし、門の前で待っていようかしら?お昼に着くのよね?」


そわそわしながらジョアンナに聞くとジョアンナに『お嬢様の丸焼きが出来ちゃいますよ』と笑われた。

わたくしの部屋からは門前は見えないし、音も聞こえない。なんてもどかしいの。

ちなみにお兄様は学校での用事を済ませてからの帰省なので、夜に帰ってくるらしい。

お兄様は生徒会の会長をしているから色々と忙しいのだ。

大変そうだから帰ってきたら存分に甘やかしてあげよう。


「別に丸焼きになってもいいから、お外で待ってちゃダメ?」


唇を尖らせながら、わたくしが言うと。


「それはダメですよ、お嬢様」


部屋に低くて、甘い声が響いた。


「マクシミリアン!」

「マックス、ノックくらいしなさいな」


喜びの声を上げるわたくしと、不服の声を上げるジョアンナ。


「驚かせようと思いまして。申し訳ありません」


対照的な反応のわたくし達をくすくすと笑って見ながら、マクシミリアンが部屋に入ってくる。

久々に見る彼は、また背が伸び体の線もしっかりして来て…随分男の人らしくなった気がする。

もう15歳だものね。成長期だもんね。当たり前よね。


「お嬢様」


マクシミリアンが両手を広げてにっこり笑う。


だ…抱き着けって事よね。恥ずかしいけど…マクシミリアンの久々のハグ…!


ハグの誘惑に耐えられず、わたくしは彼の腕の中に急いで勢いよく飛び込んで、その胸に顔を埋めた。

ああ、マクシミリアンの匂いがする。

ミントの香水の香りと、少し汗の匂い。

マクシミリアンの汗の匂いはちっとも不快じゃない。

思わず深く息を吸い込んでスーハーしてしまって、匂いフェチの変態みたいだなと後悔する。

うう…でもいい匂い…。


マクシミリアンが長期休暇で戻って来る度にわたくしは、こんな調子になってしまう。


彼が居なくて寂しかった分を埋めるように、彼に甘えてしまう。

これが8歳、9歳なら子供だしなぁ…で済んだ話なのだろうけど。

わたくしはもう10歳(中身はもっと上)なのだ…そろそろ甘えるのを止めなきゃなのは、分かっているのだけど。

……それよりも彼が居なくて寂しかった、甘えたいと言う気持ちが勝ってしまう。


「おかえり、マクシミリアン」

「ただいま戻りました、お嬢様」


ふわりと抱きしめられ、髪をさらさらと手で梳くように弄ばれる。


「……わたくし、マクシミリアンに甘えすぎかしら?」


ちょっと気恥しくなって彼にそう問うと、彼はわたくしの頭をふわふわと撫でて、


「お嬢様が甘えてくれなかったら、私は寂しいです」


と笑って言ってくれた。

ヒロインに彼が惹かれるその時まで、こうやって甘えてもいいのかしら。

……いや、ずるずる引き延ばすのは……良くない、すごく良くない。

いや、ヒロインが現れるまでこの調子で甘やかし続けられたら…。

わたくしは彼から離れられなくなってしまう…こんなの居心地が良すぎるのよ。


「一生手放せなくなっちゃうから、もう甘やかさないで……」


そんな言葉をぽろりと漏らしてしまったわたくしを、マクシミリアンが嬉しそうにぎゅうぎゅうと抱きしめた。

ちょ…ちょっと苦しい…。


「離れません、絶対に」


マクシミリアンがわたくしの耳にそう囁く。

耳朶を打つその思いの外真剣な声に、わたくしの顔は赤くなってしまう。


「わたしは、何を見せられてるんでしょうねぇ」


ジョアンナが深~~~~い、溜め息を吐く気配がした。

へへへ、と照れた笑いを浮かべ、わたくしはマクシミリアンから体を離す。


「お嬢様ったらすっかりマックスに仕込まれちゃって…」

「し…しこまれ…!?何を!?」


溜め息を吐きながら言うジョアンナの頭頂部に、マクシミリアンがすごい勢いでチョップをした。


「ふぎっ!」


ジョアンナが痛みに蹲る。

わたくしは目の前でいとも簡単に行われる執事見習いのえげつない行為に少し呆気に取られてしまった。


「ジョアンナ。お嬢様に根も葉もない事を吹き込まないでくれないか?」

「マックス…女性には暴力を振るっちゃいけないって習わなかったの?」

「失礼。ジョアンナの事を女性と認識した事が無かったもので」


二人がぎゃんぎゃんとケンカを始め。

そのいつもの光景に、思わず噴き出してしまう。


「2人とも、相変わらず仲良しね!」

「「それはございません」」


わたくしの言葉に2人は同時に返事をする。

ほら、やっぱり仲がいい。


「マクシミリアン!学園のお話が聞きたいわ。ジョアンナも聞きたいでしょう?」


わたくしがそう言うと、


「お望みのままに、お嬢様。では紅茶をお淹れしますね」


彼は優しくにこりと笑ってわたくしの手を引き、椅子に座らせてくれた。

ジョアンナもマクシミリアンを横目で睨みつつも、お茶うけの準備をしてくれる。


大好きな2人と、穏やかな(?)午後を過ごせる。

至福ってこういう事を言うのかしらね?

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