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多分脱・我儘令嬢をしたわたくしと3人目の攻略対象・後

「じゃあ、もう少しお祭りを見て回る?」

「うん!」


飲み終わったジュースのコップを屋台のおじさんに返して、次は何を買おうかと話しながらノエル様と歩く。

チラリと、広場の時計に目をやるとお昼を少し回ったくらい…あと2時間くらいなら大丈夫かな。

マクシミリアンと父様が早めにお仕事を切り上げない事、ジョアンナがわたくしが居ない事に気付かない事を願おう。

抜け出したのを知られたら多分…すごく怒られる。

怒られるだけならまだいいのだけど、多分父様には1日中泣いて縋られて抱きしめられる。


「わたくし、あの飴細工が見たいですわ」


ノエル様の手を引っ張って飴細工の屋台に向かう。

今日はずっとノエル様と手を繋いでいる。

マクシミリアン以外の異性とこんなに接触しているのは、初めてだな、とふと思って少し顔が赤くなった。

迷子にならないためだもの、不可抗力よね!


飴細工の屋台には、きらきらと沢山の種類の飴が並んでいた。

鳥、魚、これは鹿?狼までいる、かっこいい!

日本の雅な飴細工よりも少し荒々しいが、こちらにもダイナミックな迫力があってとても素敵だ。


「どれが欲しい?」

「狼、この緑色の狼が欲しいですわ!」


緑の狼は毛の1本1本まで丁寧に細工してあり、お顔は少し可愛めだけれど十分凛々しい。

ああ…食べるのが勿体ないわ。


「この狼、少しノエル様に似てますわ」


屋台のお姉さんから飴を受け取ってそう言うと、ノエル様が少し驚いた顔をする。


「うちの家紋も、狼なんだ。似てると言われるなんて光栄だな」


そう言って少し誇らしげに笑った。


「騎士の家系に相応しい、素敵な家紋ですのね。素敵な狼に守って貰えるフィリップ様が羨ましいですわ」


ふふふ、と笑って狼にちゅっとキスをする。

本当にこの子可愛いわ。食べないでマクシミリアンに見せたいけど、ちゃんと持って帰れるかしら。

あっ、でも見せると邸から出た事がバレちゃうわね…。

そんな風に狼の飴を眺めているわたくしを、ノエル様が何故か少し赤い顔で見ていた。


その時、誰かが歩いていたわたくしの肩にぶつかった。


「きゃっ!」


危うく倒れかけ尻もちをつきかけた所をノエル様が腕を引き、引き止めてくれた。

狼の飴も落とさず無事でホッとする。折角ノエル様がくれたものなのだ。


「嬢ちゃんどこ見てんだぁ」

 

年の頃は二十歳前後か。ガラの悪い若い男がこちらを、睨めつけた。

その呼気からは酒の匂いがする。


「ごめんなさい。不注意でしたわ」


わたくしは急いでぺこり、と頭を下げる。


「それじゃ謝罪になんねーでしょ」


うわーこれは…わざとぶつかってきたな、コイツ。

男を見ながらわたくしは半眼になる。

わたくしは今は平民のような服を着ているとは言え、平民に見えるかと言うと微妙な所である。

商家のお嬢様、もしくは下位貴族のお忍び娘(流石に侯爵家の令嬢とは思われていないはずだ)、そんな風に見えているだろう。

ちょっと脅せば世間知らずの娘は金を出すだろう。こいつはそんな腹積もりなのだ。


「お前こそ、謝れ」


ノエル様がわたくしと男の間に立ち、眼光鋭く男を睨みながら言う。

将来的には騎士になる身とは言え、今はただの7つの子供だ。

大人にケンカを売るには分が悪すぎる。


「なんだオラ、坊主殴られてぇのか」


男がノエル様に近づいて行く。このままじゃ危ない…!


「水よ、球となれ」


急ぎで魔力を練り、呪文を唱える。


「ウォータボール!」


男の上に水の球が発生し、そのまま男の頭を包み込んだ。

本当は勢いを付けてぶつけても良かったのだが、そうするときっとアバラの数本は折れてしまう。

男は水の球の中で呼吸困難になり、訳も分からずふがふがと呻いている。


「ノエル様、今のうちに!」


魔法はあと10秒もしないうちに解けてしまうだろう。

わたくしはノエル様の手を引いて、駆け足でその場を立ち去った。


「もう…大丈夫かしら…」


はぁはぁと息を切らせながら、建物の隙間にある路地に入り込みわたくし達は立ち止った。

祭りの会場からはだいぶ離れてしまって少し残念に思うけれど、仕方ないわよね…。


「ごめんね、ビアンカ嬢」


ノエル様が何故か謝罪をしてくる。

わたくしはきょとん、とした顔でノエル様を見てしまった。


「なにがですの?」

「俺が無理に連れ出さなきゃ危ない目に遭わなかった。それに…俺は将来は騎士になるのに…。ビアンカ嬢に助けて貰って…情けない」


ギリリ、と歯を食いしばりながら、心底悔しいと言う表情でノエル様が言う。


「なにを言ってるんですの。負ける戦はするべきではありませんわ。あんな男のせいでケガでもして、騎士になれなかったらどうしますの」

「でも…!」


余程悔しかったのか、ノエル様が食い下がってくる。

わたくしは小さく息を吐き、納得行かないと言う表情のノエル様の頬をぺちん、と軽く叩いた。


「ビ…ビアンカ嬢何を…!!」

「もっと強くなって。次は守って下さいませ」


ノエル様と視線を合わせ悪戯っぽく言ってみせる。

するとノエル様は息を飲んでわたくしの顔をじっと見つめた後に、真剣な顔をして頷いた。


「…もっと強くなって…ビアンカ嬢を必ず守るよ」

「嬉しいですわ、騎士様。絶対絶対。守って下さいませね」


わたくしはそう言って、笑ってみせた。

守られるのは本当はヒロインの役目なんだけれど…(そしてわたくしは切られ役)。

そう分かっていても面と面を向かって『守る』って言われると、お姫様のような気分になって少し心が浮き立つものね。


「では、帰りましょう!」


片手にはノエル様の手、片手には緑の狼の飴。

意気揚々と邸に帰ったわたくし達を待っていたのは。


――――鬼のような形相のマクシミリアンだった。


彼からは3時間程怒られ、ノエル様は一か月我が家へ出禁になった。

父様にバレなかったのが、せめての救いね…。

説教に疲れてぐらんぐらんと頭が揺れ始めた頃に、


「私だって!お嬢様とお祭りデートしたかったんですよ!」


なんてマクリミリアンの声が聞こえた気がしたのだけど。

きっと幻聴に違いない。

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