多分脱・我儘令嬢をしたわたくしと婚約の件
王宮から帰宅し3日後。
わたくしは、父様から邸の執務室に呼び出された。
軽い要件の場合父様がわたくしの部屋を訪ねる事が多く、執務室に呼ばれるようなシチュエーションは実は結構稀である。
それだけ改まった話と言う事だろう。
――このタイミングだと、フィリップ王子との婚約話の可能性が高いわね。
はぁ、と溜め息をを吐きながら、執務室の扉を叩いた。
「ビアンカとフィリップ王子との婚約を、王妃様に打診されたんだが」
父様は不機嫌にわたくしに告げる。
ああやっぱり……予想はしていたので思ったよりも動揺せずに済んだ。
しかし王妃様とは当たり障りなくお茶を飲み、王子には説教をかまして帰ってきたのに…どこに気に入られる要素があったのだろう。
これがゲームの強制力と言うやつか。
暗澹とした気持ちになってしまう。
「ビアンカは、どう思う?」
王家からの打診にはある程度の強制力が伴っているはずだ。それなのにわたくしの意見を聞いてくれる父様は、やはりわたくしに甘いのだと思う。
「――お断りするのは、やはり難しいですわよね」
ふーっと溜め息をを吐いて、父様を見る。
強引に強請れば父様はお断りしてくれるかも…とも思うけれど。
父様の王宮での立場を考えるとそこまで強引な事はさせたくない。
ここは、以前マクシミリアンに提案されたアイディアを述べてみよう。
「わたくしも王子もまだ7つです。これから先、何があるか分かりませんし…わたくし今婚約を決めてしまうのは不安なのです。魔法学園の卒業まで何事も無ければ婚約のお話を正式にお受けする…そのような形で、せめて15の年までは婚約者候補に留めておいて頂く事は出来ないでしょうか?」
婚約者になってしまうとわたくしからの破棄は不可能に近いが、婚約者候補ならば融通が利く。
それに彼がヒロインに惹かれたとしても、わたくしは所詮婚約者候補、と言う事で気兼ねなくヒロインを選んで頂ける。婚約破棄なんて外聞の悪い事にはならない。
父様はわたくしの話を聞いて、ふむ…と吟味をするように唸った。
「そうだな、俺から王妃様にそのように話を通しておこう。可愛い娘の将来の事だ。無理に急いてビアンカに負担を掛けたくないからね」
にっこりと父は請け負ってくれた。
ゲームの中では王子を欲しがるビアンカと王子との婚約を取り付け、現実の状況では王子との婚約を渋るわたくしの我儘を通してくれる。
父様はブレず娘に甘いのだ。
「……王子はあまり、お前の好みでは無かったのか?」
もじもじしながら父様が訊いて来る。あー娘の好み、気になっちゃいますよね。
「素敵な方だとは思いましたけど。父様の方がもっともっと好みですわ!」
わたくしは、にぱっ!と自ら最高と自負する笑顔で言った。それにこれは掛け値無しの本音である。
だって父様は素敵な男性なのだもの!
父様の顔が、だらしなく笑み崩れたのは言うまでもない。
「――と言う訳で!婚約者候補、で済ませる事が出来たの!マクシミリアンのお陰ね!」
部屋に戻って開口1番マクシミリアンに報告する。
嬉しすぎたのでぴょんぴょんしているとつんのめってしまい、マクシミリアンにさっと支えられた。
「王家との婚約を回避出来てお喜びになる令嬢はお嬢様くらいかもしれませんね」
クスクスと笑いながらそう言われる。でもこれで1つ肩の荷が降りたのだもの。喜んでしまうのは仕方ない。
婚約者候補に留まる事で、王子の婚約者と言う立ち位置から始まるゲームとの違いがきっと大きくなる。
婚約者になってしまうと王子への気持ちがある無いに関わらず王子と関わる機会が増えてしまうだろう。
――そして同時にヒロインとの接触が増える。
わたくしはヒロインと敵対する気は毛頭無いが婚約者である場合、望む望まぬに関わらず周囲から『ヒロインへの敵対勢力筆頭』として担ぎ上げられてしまう可能性は非常に高い。
そして攻略対象達からのヘイトに繋がる…そんな展開はご免被りたいのだ。
「マクシミリアンに何かお礼をしなくちゃね」
とわたくしが言うと彼は、
「お嬢様のお側にずっと居られる事が私の幸せです」
と微笑んでくれた。そんなのわたくしにもご褒美でしかないわよ?
数日後。
「何故婚約者じゃなく、婚約者候補なのだ!」
マクシミリアンとジョアンナと庭園でお茶を楽しんでいたら、王子が乱入して来て頭を抱える事になった。