令嬢13歳・わたくしとチートな人々
ユウ君の第二のチートのことを聞いた後、マクシミリアンも『犬』のことをユウ君に話した。するとユウ君は苦笑いをして、頬に冷や汗を垂らす。
……まぁ、その気持ちはわかるけれど。
「いやぁ、怖いものを持ってるね。その力があれば、マクシミリアンさん一人で一夜で国を落とせるじゃない」
「そう……ですわね」
改めて言われると、心にずしりと重くのしかかるものがある。
護衛をお願いしたり、部屋でもふもふさせてもらったりと、わたくしは平和的な使い方をしているわんちゃんたちだけれど。この魔法が一番活躍する場は当然ながら『戦争』なのだろう。
「万単位の兵を自在に生み出せて、その兵には兵糧がいらない。影同士を繋いで移動するから移動に日数もコストもかからず、さらに神出鬼没。そして膨大な魔力をぶつけないと打ち払えない。死を恐れなくて、訓練やモチベーションの維持なんてものに手間をかけなくてもいい。遠隔操作だから『頭』であるマクシミリアンさんも直接叩きづらいし……ガチのチートもいいところだね。パラディスコ王国が平和主義国家でよかったよ」
ユウ君はそう言ってふっと息を吐いた。
「異界のものとでも等価交換ができるサイトーサン伯爵もいますしね。パラディスコ王国は、しばらく安泰でございますね」
マクシミリアンは口元を手で押さえてくすくすと笑う。ユウ君はその言葉を聞いて、軽く肩を竦めた。
ユウ君の力も使いようによっては恐ろしいものになる。
ユウ君がある程度構造を理解しているものという縛りはあるけれど、逆に言うと理解さえしていれば。銃だって、この世界では未知の細菌だって、ユウ君には生み放題なのだ。そしてユウ君は……前世の最高学府に軽々と入れる程度に頭がいい。
マクシミリアンのわんちゃんたちにユウ君が生み出した細菌を仕込んで飛ばす、なんてことも可能なんだろうな。コストがほぼかからずに生み出せる、この世界版の細菌兵器だ。
――どこかの国が、パラディスコ王国にケンカを売らないように祈っておこう。
「さて。今後のエイデン様への対策はいかがしましょうか」
「エイデン様……ね。シュミナちゃんがどうしたいかも聞かないと、僕らだけじゃ方針の定めようがないよね」
ユウ君は苦々しい表情になると、テーブルに頬杖をついた。そして先ほど等価交換で出した銃を手で弄び、今度はたこ焼き器のプレートに変える。ユウ君、それ後でくれないかな。わたくし、たこ焼きが食べたい!
マクシミリアンはたこ焼き器のプレートを不思議そうに見つめて首を傾げた。うん、これがなにかわからないよね!
「シュミナちゃんからの聞き取りは近々でやるとして。ビーちゃん、乙女ゲーム内のエイデン様のイベント一覧を書き出すことってできる? ゲーム通りに事は進まないだろうけど、この先なにが起きるのかひとまず知っておきたい」
ユウ君はトラウザースのポケットから紙とペンを取り出しながらそう言った。よく見るとペンはボールペンだ。これも等価交換したものなのだろう。完全にオーバーテクノロジーだなぁ。
「うん、エイデン様は『隠しキャラ』でイベント自体は少ないから。できると、思う」
マクシミリアンのルートは何十周もしたけど、エイデン様のルートはそれほどやっていない。わたくしはヤンデレやメンヘラへの関心が薄かったのだ。だから抜けがないかの自信はないけれど。
まずはエイデン様に関する、条件についてのおさらいだ。
エイデン様は『ヒロイン』の成績や社交のパラメーターをどん底に落とさないと現れない。これはシュミナ嬢が軽々とクリアしてしまった。
エイデン様が出現したらハッピーエンドのためにやらなければならないのは、成績と社交関係のパラメーターの回復。シュミナ嬢は現在『成績』の方は頑張っているけれど、『社交』の方は回復どころか底に張り付いたままである。
これはわたくしが手助けするしかないのかな。彼女のやらかしは多岐に渡っているだろうから、カバーするのは大変そうだ。ゾフィー様に謝らせたりもしないとなぁ。
「えーっと。一年生の時に起きるエイデン様関係のゲームイベントはなんだっけなぁ。……あ。秋合宿」
数週間後に控えた、秋合宿。
その場でエイデン様のイベントがあることを、わたくしはふと思い出した。
またもや久しぶりに更新になりました。
パラディスコ王国はその気になれば色々なことができそうです。