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令嬢13歳・わたくしはユウ君とお話する・前

「ビアンカ! ピンク頭を問いつめよう!」


 ミルカ王女に両の拳をぎゅっと握るポーズで言われ、わたくしはこてりと首を傾げた。ピンク頭を問いつめる? シュミナ嬢がまたなにかしたのかしら……でも最近は本当に大人しいと思うのだけど。


 ――かなり、心配になるくらいに。


 学園祭でエイデン様といた時の彼女の様子を思い出す。ヴィゴの姿で時々会いには行っているけれど、ちゃんとフォローができているかと言われると微妙なところだ。

 先日会った時は学園祭で見た時よりもやつれていたし……。原因が取り除かれない限りは心労は積もるばかりだものね。

 わたくしとミルカ王女の空になったカップにマクシミリアンが紅茶を注ぐ。目を合わせて微笑むと、彼も優しい微笑みを返してくれた。そしてついでとばかりに、額に口づけを何回か落とされる。


 ……マクシミリアンは、いつでもかっこいい。


「イチャイチャしてる場合じゃないんだよぉ~!」


 そんなわたくしたちを見て、ミルカ王女はジタバタとした。ほ、本当にどうしたのかしら! ちなみに今はわたくしの寮の部屋にいる。だから誰かに不信がられる心配はないのだけれど……


「ミルカ様、落ち着いて。問いつめると言われても、わたくしシュミナ嬢がなにかをしたという、心当たりがないのだけれど……」

「そっか、ビアンカは後夜祭でのアレ、知らないんだ」


 ミルカ王女はそう呟くと顎に手を当てて少し考え込んだ。

 後夜祭での、アレ? そんな言い方をされると気になってしまう。


「なにか、あったんですの?」

「正確に言うと私も『その場でなにが起きたか』の全部は知らないんだ。だからあのピンク頭を呼び出して話を聞きたくて」


 ミルカ王女は一呼吸置くと、後夜祭で彼女とハウンドが見た出来事を教えてくれた。


 その内容に……わたくしは愕然としてしまう。


 わたくしがマクシミリアンと呑気に踊っている間に、ユウ君がエイデン様に暗殺されそうになっていたなんて。頭の中が激しい混乱で満たされ、体が小刻みに震え出した。


 ――目と鼻の先で、親しい友人が危険な目に遭っていたなんて。一歩間違えば、失っていたかもしれないなんて。


 その事実はわたくしの頭の芯をひやりとした感覚で満たす。

 学園祭からはもう一週間が過ぎている。ユウ君がそんな大事なことを教えてくれなかったことにも、わたくしは内心ショックを受けていた。


「サイトーサンを問いつめても詳しいことを話してくれなくて。心配をかけたくないとか、彼なりに色々考えてるんだろうけど。……少しくらい、頼りにして欲しいよね」


 ミルカ王女は不貞腐れた顔をして大きくため息をつく。ミルカ王女にとっても、ユウ君は大事な人なのだろう。大事な人に頼りにされないのはとても悲しい。それがいつでも頼りにしていいと笑ってくれるユウ君だから、なおさらだ。


 ――わたくしだって、大切なユウ君の力になりたいのに。


 わたくしはきゅっと唇を噛みしめる。するとマクシミリアンが慰めるように、優しく頭を撫でてくれた。


「わたくし、ユウ君のところに行ってみますわ。シュミナ嬢を問いつめるかは、彼と話してからでもいいですか?」

「ん、そうだね。ビアンカにならサイトーサンも話してくれるかもしれないし。……本当はビアンカがそう言ってくれないかなーって、ちょっと思ってたんだ」


 そう言ってミルカ王女は小さく舌を出して笑う。そんなアニメのような仕草が似合うなんて、さすが美少女……なんてことをわたくしは思ってしまった。


「今日は休日で食堂は休みですし……。明日のお昼にでも、ユウ君のところへ行きますわ。その結果次第で、ピンク頭のお嬢様を問いつめるかは考えましょう?」


 わたくしがそう言うと、ミルカ王女は明るく笑ってうなずいた。


 そして、翌日のお昼時。

 わたくしはユウ君がいる食堂へと向かっていた。

 食堂への道のりの間、ミルカ王女から聞いた情報が頭の中をぐるぐる回る。

 ユウ君を失うところだったなんて。そんな恐ろしいことが起きていたなんて。そればかりをつい考えてしまう。

 そんなわたくしをマクシミリアンが心配そうな表情で見つめ、そっと手を繋いでくれた。

 マクシミリアンがパラディスコ王国の『侯爵様』になったのは校内ではもう有名な話だ。騎士祭でそれを見ていた方々が大いに広めてくださったのだから。だからこうしていても『従僕とはしたないことを』という目を向けられることはない。

 ……『王子と侯爵を両天秤にかけているはしたない女』という目は、向けられるかもしれないけれど。

 うう、ベルリナ様頑張って、切実に!


「サイトーサン伯爵がご無事で、良かったですね」


 マクシミリアンが気遣うような声音で言う。

 本当に、マクシミリアンの言う通りだ。


「……本当に、無事でよかったわ」


 握られた手を、ぎゅっと握り返す。

 するとマクシミリアンはなにも言わずに、優しく微笑んでくれた。

前世からの大事なあの人とのお話。

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