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多分脱・我儘令嬢をしたわたくしは王子様と出会う・後

とうとう、出会ってしまった。

攻略対象、フィリップ王子に――……。


「初めまして、ビアンカ嬢」


豪奢な金の髪と金の瞳を揺らして彼は近づいて来る。

彼はその母と同じ――いや、それ以上の凄絶な美貌の持ち主で、その美しさだけで周囲を沈黙させる事が出来るのだと、わたくしは戦慄した。

お兄様もマクシミリアンも人並み外れた美貌である。美しさだけなら決して見劣りはしない。だけど。

与える印象の差は本質の差だ。


――ああ、獅子がいる。


先ほどまでは自分の為だけに咲き誇っていた庭園の薔薇達が、今は彼の背景を賑やかす為だけに咲いている…そう感じた。

彼の美しさは支配的で、容赦が無い。

彼の手が動く。白で構成された衣服の、袖口に付けられた金色の飾りボタンが光るのを思わず目で追ってしまう。

フィリップ王子はスマートにすいっとわたくしの手を取ると、手の甲に軽くキスをした。

唇を離す時彼の口から、ふっと軽く息が漏れその感触のくすぐったさに思わず身を竦める。

そんなわたくしを見て、彼は大輪の花が咲き誇るように笑った。


――ななさい。ななさいなのよね?このイケショタ。


全ての動作が洗練されており、しかもこの人絶対自分の容姿の効果を分かってやっている!

7歳で自分の武器を把握してるとか怖すぎる、怖すぎるよ…。

これを、ゲームのビアンカもやられたのかもしれない。


軽く息を吐く。

わたくしにはまだ余裕がありますのよ?貴方のペースには乗らないんだから。

そんな意図を込めてわたくしも、にっこりと微笑んだ。


「今日はすごい日ですのね。王妃様にお目にかかれて、更に殿下にまでお会い出来るなんて。わたくし、この日を一生の思い出にしますわ」


つまりは、一生に1回で十分です。

早急に、美しく。この場を畳んで早く逃げ出したい。


「一生の思い出なんて、この日が最後のような言い方は寂しいな、ビアンカ嬢。今少しだけ、君の時間を頂けないかな?」


そう言って手を引かれる。疑問符にしつつも断ると言う選択肢は与えない。正に横暴な獅子だ。

ど…どこに連れて行くつもりだー!

慌てて父様の方を見ると真っ青な顔でこちらをチラチラ伺っているのだけれど、王妃様にガンガン喋りかけられ身動きが取れないみたい。

王妃様の方を見ると、『頑張って♡』と言う口パクと共にウインクされた。

……誰か助けて。

するとマクシミリアンが顔色を変えず一定距離を保ってついて来ていてほっとした。やっぱり推しは頼りになる…。


手を引かれ連れて行かれたのは、薔薇園から少し離れたところにある東屋だった。

あっ…これ知ってる。ヒロインとのイベントがある場所だ。

聖地巡礼のような厳かな気持ちになり王子に分からないようにこっそり拝んだ。


「さぁ、どうぞ」


手を引いて鳥籠のような形の東屋に王子がわたくしを導き、椅子を勧める。

向かい合わせの長椅子が二つ。王子が座るであろう上座は避けて下座にちょこんと座った。

しかし。フィリップ王子が座ったのは何故かわたくしの真横だった。

解せぬ。


「殿下…何故隣に…。初対面の男女が座るにしては距離が近すぎると思うのですが…」


苦笑いしながらそう告げる。なんだかんだで子供同士だ、少しくらいの無礼は大丈夫だろう。

不敬とか言われたら父様に泣きつこう。


「ビアンカ嬢は、美しい髪をしているな」


わたくしの髪を一房取って、口づけながらフィリップ王子がそう言った。


「淑女の髪には濫りに触れるものではありませんわ」


なんか変な雰囲気になってきたな…と内心冷や汗だくだくである。

もうやだこのショタ怖い。

いくらイケショタでも全てが許される訳では無いんだぞ!

わたくしに触っていい男性は父様とお兄様と……。

マクシミリアンも、そう、触れられてイヤじゃない。むしろ触られてホッとするし気持ちがいい…ぎゅーってされるといい匂いするし。

推しに対してはガードが甘いのかな、わたくし。


「……他の女だったら、これですぐ赤くなるのに」


ちょっとむくれてフィリップ王子が言う。あれ、普通のショタみたい。

まぁそりゃそうか。彼がまだ7歳。ゲーム開始時の笑顔の仮面が完全に形成された彼では無いのだ。


「ふふっ…女性を恥じらわせて遊ぶなんて、殿下は人の悪い遊びをしてらっしゃるのね」


そんな年相応の彼の姿に思わず笑みが零れてしまった。

笑ったわたくしを呆気に取られたようにフィリップ王子は見て、少し赤くなった。

悪戯を咎められて、ばつが悪いのね。


「笑うな」


赤くなって横目で睨みながら拗ねた口調で言う彼を見て更に笑みが零れそうになったけど、頑張って表情筋フル活動で押さえつけた。

うん、メインヒーローの純真ショタ時代可愛いです。ありがとうございます!はーご飯3杯いけるー。


「ごめんなさい殿下。でも、あまり女心を弄んでは駄目ですわ。そんな殿下に本気になってしまう令嬢は沢山いらっしゃるのよ?」


そう。ゲームの、ビアンカみたいに。

わたくしがそう言って真っ直ぐにフィリップ王子を見ると、彼はもっと赤くなった。

そりゃそうよね。同い年(精神年齢は上だけど)の女に説教なんてされたくないわよね。


「……フィリップと呼べ。俺もビアンカと呼ぶ」

「ビアンカとわたくしを呼ぶ分には構いませんけれど…。殿下をお名前で呼ぶ不敬は致しかねますわ」


何故だかそんな事を言い出した王子の提案を間髪入れずに跳ねのけた。

『俺の事はフィリップと呼び捨てにしろ』イベントは、ヒロインが王子の好感度をMAXにした時に起きるもの。

こんな所で濫りに安売りするものでは断じてない。


「失礼致します、殿下。そろそろ娘は帰る時間ですので…」


いつの間にかこちらに来ていた父様が、わたくし達に声をかけた。

退出時間なんて決まっていたかしら…と思ったが、困っているわたくしを見かねてマクシミリアンが、父様を呼んできてくれたんだろうと気付いた。

正直助かった、と心より安堵しホッと息を吐く。


「父様!」


緊張感が解けたのもあってにぱーっと笑って父様に抱き着いてスリスリしてしまった。

えへへ、うふふ。父様いい匂い。

そんなわたくしを見て王子が呆然としているけど知った事か!


「では、殿下。失礼致します」


何故だか勝ち誇った顔の父様がドヤ顔でフィリップ王子に言った。

不敬ね、父様。


「ビアンカ、また来い!」


わたくしの背にフィリップ王子が声をかけるのを聞こえないフリをしたかったがそうもいかず。

曖昧に頷いてその場から立ち去った。


「お嬢様の髪にあの野郎なんて事を……」


馬車の中でマクシミリアンが、王子に口付けられたわたくしの髪をごしごし拭っていたけれど。

そんなにごしごしされると痛みますわ、とは必死の彼の形相を見て言えなかった。


あの野郎って…もしかしなくても王子の事よね…?

王子様の猛追。

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