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閑話27・マリアは婚約者とデートする(マリア視点)

「マリア、大丈夫だったのか?」


 皆様と一旦お別れして待ち合わせ場所へ向かうと、私の婚約者でクラス担任でもあるアウル・ライモンディ先生が珍しく人を心配するような表情で眉を下げた。

 珍しく、なんて失礼ね。顔にはなかなか出ないだけで優しい人ではあるのだ。

 今日の彼はいつも通りの汚れた白衣にボサボサ頭、そして分厚い眼鏡という格好だ。悪い意味でアウル様に注目が集まっているけれど……別のいいのよ、彼の素敵なところは私だけが知っていれば。


「ノエル様のお怪我は深いようですけど。王宮からフィリップ王子が治癒師を呼んでくださったので、心配ないかと」

「そうか。王宮からの治癒師ならノエル君の怪我もすぐ治るだろうな。ゾフィー君は?」

「ふふ、沢山泣いたみたいで目が真っ赤でしたけど。……あの二人、婚約が決まったそうで。幸せそうでしたよ」

「そうか……よかったな」


 アウル様は微笑んで、研究で汚れたのだろう少し黒ずんだ手で私の頭をガシガシと撫でる。他のご令嬢なら顔を顰めたのかもしれないけれど。私は彼のこの汚れがちな手が好きだ。

 薬草を扱う私の手も、負けず劣らず汚れがちですしね。たまに緑になっていたりするもの。


「そういえばあの伝言の魔法は誰のだ? 上位魔法を使える生徒なんてフィリップ王子くらいだろうが、彼は風は使えないだろう」


 そう。フィリップ王子が使えるのは、光・水・土の三属性だ。闇魔法の適正もあるそうなのだけれど、使えるというほどでもないと本人がおっしゃっていた。

 なににしてもこれだけの属性を操れるのはさすが魔法適正に秀でた王家の人間、という感じだ。


「マクシミリアンさんの魔法です。彼、あれを無詠唱で使ったんですよ」

「……相変わらずアレはやべぇんだなぁ」


 アウル様はマクシミリアンさんを『アレ』と言う。

 魔法学園に在籍していた彼を当時から先生をしていたアウル様はもちろん知っている。

 そしてその頃のマクシミリアンさんの事を訊ねるとアウル様は言うのだ。

 『アレは、人外だ。人の皮を被っているがアレの力は人を超越している』と。

 アウル様も魔法にはかなり精通していて、秀でていると言っても過言ではない。そんな彼が『人外』だと言うマクシミリアンさんの力はどれほどのものなのだろうか。


「マクシミリアンさんは、すごいんですね」

「……マクシミリアンの在学中にな。アレの力を見て教師どもはこぞって無理難題を吹っ掛けたんだ。だけどどれも軽々と跳ね返しやがってな。その腹いせにヤツでもこなせなさそうな物量の課題を教師みんなで押しつけるもんだから、その時はさすがに辟易とした顔をしてたなぁ」


 そう言いながら彼は悪い顔でくっくっと喉を鳴らして笑う。

 大人げない。この学園の教師たちの大人げなさなんて知りたくなかった。


「……それにアレはまだなんか隠してんなぁ。これは俺の、ただの勘だけどな」


 真剣な目をしながらアウル様は言うと、懐に手を伸ばす。


「アウル様。ここは禁煙です」

「……チッ。硬いこと言うなよ」


 私が半眼で言うとアウル様は懐から手を離した。隙があるとすぐ煙草を吸おうとするんだから。体に悪いから止めて欲しいんだけどなぁ……。


「まぁアレの話はいいんだよ。デートすんぞ、デート。したかったんだろ?」


 そう言って彼は悪い顔で笑うと手を差し伸べてくれた。私は嬉しくなってその手を笑顔で取った。

 大きなアウル様の手。その手がぎゅっと私の手を握ってくれる。


 十一歳上の彼と出会ったのは私が五歳の頃だった。父の友人の息子である彼が、屋敷を訪れたのだ。

 その時のアウル様は今みたいなよれよれの格好をしていなくて。清潔な白いシャツと黒のトラウザーズを身に着け、その上から灰色のジャケットを羽織ったとても素敵なお兄様だった。


『よろしく、マリア』


 柔らかな質感の灰色の髪を揺らして優しく微笑む端正なお顔。

 この人が私の、王子様。きっとそう。


『はじめまして、おうじさま』


 恋する気持ちで満たされて。ふわふわとしてそう言ったのを私は今でも覚えている。


「マリア、ぼーっとしてんじゃねぇぞ。どこに行きたい?」

「出店内容を把握しているのは教師のアウル様の方ですよね。エスコートしてくれないんですか?」


 私がそう言うと彼は仕方なさそうに頭をぼりぼりとかく。


「しゃーねぇな。演劇部の演目がもうすぐ始まるはずだから、そこ行くか」

「まぁ! 素敵ですね」

「恋愛ものらしいから、マリアは好きだろ?」


 ……彼は恋愛ものが得意じゃないのに。私のために選んでくれたんだろう。

 そう思うとニヤニヤとついしてしまう。


「……なにニヤニヤしてんだ?」


 少しイラついたような顔の彼にぶにり、と手で頬を掴まれる。うう……止めて、乙女の顔に……!


「止めてください! 乙女の顔に!」


 そう言いながら彼の手を振り払うと、アウル様は楽しそうに笑う。


「乙女か。おねしょしてたあの子がね」

「や……止めてください! 何年前の話をしてるんですか!」

「……最後におねしょしたのは十歳の時だっけ。割と最近だよなぁ」

「止めて!!」


 悲鳴のような声を上げながら勢いよく足を踏みつけると、アウル様は渋い顔をした。

 ……乙女の恥ずかしいことを、ほじくり返すからですよ。

そんなマリア様と婚約者殿の閑話でした。

閑話は本編に関わりが薄い話の頭につけているのですが、

この二人もいずれ本編にもっと絡んでいくといいなと。

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