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ゾフィーは思い返す(ゾフィー視点)

 私、ゾフィー・カロリーネは……。

 自分がノエル様の横に立つのがおこがましく思えて、ノエル様から何度もされる婚約話を断っていたんですの。

 私のぽっちゃりとした見た目のことを差し引いたとしても、彼とは家格がつり合いませんし。

 ノエル様が私のことを好いてくださっているのは普段の愛情深いご様子からわかっているのです。

 優しく微笑みながら綺麗な茶色の瞳を細めて『好きだよ』と言ってくださいますし、その……二人きりだと抱きしめてくださったり、キスしてくださったり。恋人らしいことを私なんかにしてくれるのです。

 彼の唇はとても綺麗で柔らかくて、それが私に触れているなんて……最初は夢かと思いましたわ。

 ノエル様はキスをした後に照れたように笑って首を傾げる癖があって、それがとてもお可愛らしくてキスするたびにこっそりと見てしまいますの。それに気づくとノエル様はまた照れてしまうのですけど。…………可愛い!!

 ……そんな話はいいですわね、うん。

 大好きなノエル様から齎されるこの上なく素敵な『婚約話』に頷けないのは、自信を持てない私の問題なのです。


 だけど……騎士祭の会場の控室で。


「ゾフィー。俺が優勝したら婚約の件、了承してね」


 ノエル様に、そう言われて……私は今まで頷けなかった『婚約話』に自然に頷いていたのです。

 だって、だって、だって!! 夢にまでみていたシチュエーションなのですもの。

 騎士様に勝利を捧げられ、プロポーズをされてしまうなんて。私の大好きなロマンス小説みたいじゃありませんの。

 そんなことを大好きな人にされて、頷かないなんて選択肢はなかったのですわ。

 ああ、どうしましょう。彼はお強いと聞くから、きっと優勝してしまうのだわ。

 そうなったら私は……ノエル様の、婚約者。


「ああ……!!」


 私の家格では不似合いな豪奢に整えられた観客席に腰をかけ、思わず何度目かわからないため息をついてしまいましたの。


「ゾフィーさん、落ち着かないわね」


 マリアさんが茶色の髪を揺らしながら笑います。だって、だって!!


「……だって、ノエル様はきっと優勝してしまいますわ」

「あら、素晴らしいことじゃないの。ゾフィーさん、おめでとう!」

「そ……それはまだ早すぎますわ!!」


 親友に輝く笑顔で言われて、私真っ赤になってしまいましたの。

 もう、マリアさんったら! 貴女だってアウル先生と婚約したての頃はアワアワとしてらっしゃったのに、ご自分は落ち着いたからって揶揄うなんて酷いわ。

 その後、マクシミリアンさんが『セルバンデス侯爵』にいつの間にかなっていたことが判明したり(これはビアンカ様とご結婚確定ですわね! フィリップ王子とのカップリング推しのマリア様には申し訳ないですけれど!)、ベルリナ様とビアンカ様が少し険悪な雰囲気になられたり……色々ございましたけど。

 とうとう、騎士祭が始まったのです。

 先ほどまでは浮ついた気持ちばかりだった私ですが、実際に鎧や剣を身に着けているノエル様を見ると……途端に怖くなりましたの。

 だって、お怪我なんてされたら。そんなノエル様を見たら私、失神してしまうかもしれませんわ。


「ゾフィーさん。貴女が信じなくてどうするのよ」

「そうだ、ゾフィー嬢。俺の騎士は負けはしない」


 私が不安そうにしていたら、マリア様とフィリップ王子が元気づけてくださいました。皆とても、優しい方です。

 私が安堵の息を漏らしたその時……あの方が、現れました。

 エイデン・カーウェル公爵家令息。優しげで美しいお顔の、だけどどこか底知れない雰囲気のお方です。

 横にはシュミナ・パピヨン男爵家令嬢がなんだか暗い顔で寄り添っています。私、あの方を見ると前にされたことを思い出して未だに足が震えてしまうのです。こっそり隠すようにしておりますけど。

 けれど近頃のシュミナ嬢は以前と様子が違うのですよね。だからといって、私から関わることはないのですけど。ええ、もう恐ろしい目はまっぴらですわ。

 エイデン様は政敵であるフィリップ王子と火花を散らし……それだけなら、よかったのですが。


「リュオンは、どこまで意地を見せてくれるかな。足の一本でも、持っていってくれると僕は助かるんだけど」


 ――そんな恐ろしいことばかり言いますの!

 彼は筆頭公爵家のご子息です。私のような子爵家の娘が本来なら逆らっていい存在ではございませんわ。

 だけど……その言葉を聞いていたら、無性に腹が立ちました。

 私がエイデン様に食ってかからんと口を開こうとした時。


「エイデン様。貴方の思惑通りにはいきませんわよ。ノエル様はあのダウストリアですもの」


 怜悧な、ビアンカ様の声が響きましたの。そうよ、その通りですわ、ビアンカ様!!

 私は、彼女の言葉を追い風にして思わず立ち上がってしまいました。


「そ……そうですわよ! ノエル様は、絶対に負けませんわ! 私の、ノエル様は!!」


 内心は冷や汗ダラダラで、足は生まれたての子ヤギのように震えています。だけど私はなるべくそう見えないように、立派な二本の足で大地をしっかりと踏みしめましたの。

 ああ、どさくさに紛れて私のノエル様なんて言ってしまいました。図々しいと思いつつも少しニヤけてしまってダメですわね。


「ダウストリアの可愛い子豚ちゃん。数時間後の君の顔を見るのが楽しみだね」


 エイデン様はそんなことをおっしゃるのです。なんて……なんて嫌な人!! 貴方なんかに子豚と言われる筋合いはありませんし、絶対に、ノエル様は負けないんだから!!


 そう……ノエル様は、負けませんでしたの。

 だけど……だけどまさか、あんなことになるなんて。

ノエル様は皆様に見えないところで、ゾフィーちゃんとイチャイチャしているようです。

次回はノエル視点の予定です。

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