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令嬢13歳・ノエル様とリュオン・後

 医務室の扉を開けると、ノエル様を囲んでゾフィー様とフィリップ王子が立っていた。

 ゾフィー様は顔中で泣くという感じでノエル様の手を握りながら号泣しており、ノエル様は少し困った顔でその頭を撫でている。

 フィリップ王子は落ち着いたご様子で、そんな二人を優しい眼差しで見守っていた。

 ……そういえば、ミルカ王女たちを置いてきてしまったわね。あとで謝っておこう。

 そんなことを思いながらわたくしもノエル様に駆け寄った。ノエル様は椅子に座っており、右足には白い包帯が巻かれている。

 全ての魔法は防げなかったのね。咄嗟だったから仕方ないのかもしれないけど……。


「ビアンカ嬢!」


 ノエル様はわたくしの姿を認めるとにっこりと大輪の笑顔を見せる。あんなことがあったのに、気丈な方ね。


「ノエル様……お加減は大丈夫ですの?」

「俺は大丈夫。これ……ビアンカ嬢が身に着けていたものでしょう」


 そう言いながらノエル様が取り出したのは、わたくしが投げたペンダントだった。


「フィリップ様がこれには強力な守護の力がかけられてるって教えてくれたよ。ビアンカ嬢が、これを投げてくれたお陰で俺は助かったんだよね?」


 彼はそう言いながらその大きな手でわたくしの手を取りペンダントを乗せた。

 ペンダントを観察するとミーニャ王子から頂いた時の美しく煌めく姿のままで、どれくらい耐久度が減ったのか見た目だけではよくわからない。後でマクシミリアンに調べてもらおう。

 わたくしは受け取ったペンダントを首にかけなおすと、ノエル様を守ったその小さな赤い石をそっと指で撫でた。

 ミーニャ王子にも、後でお礼を言わなくちゃ。


「ふふ。お役に立ててよかったですわ」


 ノエル様に笑って見せると、彼は少し苦い微笑みを返した。


「君に助けられるのは、夏祭りの日も含めてこれで二度目だね。俺はなかなか君を守る側には回れないな」

「そんな……どれも、予期せぬアクシデントですもの」

「予期せぬアクシデントから人々を守るのが騎士だからね。もっと修行しないとな」


 彼はそう言って、可愛くウインクをする。その流れ弾に当たったゾフィー様が涙をどぼどぼ零しながらも真っ赤な顔になった。

 確かに攻略キャラのウインク可愛いです、はい。マクシミリアンがするといかがわしくなるんだろうけど、ノエル様がすると実に爽やかですね。


「俺からも、礼を言わせてくれ。俺の騎士を守ってくれてありがとう、ビアンカ」


 フィリップ王子はそう言うとわたくしの手を恭しく取り、静かに口づけた。

 それはいつもの恋慕を含んだキスではなく純粋な感謝のキスで。

 普段なら厳しい視線を向けるマクシミリアンも、珍しくフィリップ王子がするに任せていた。


「友人の命は、わたくしにとっても大事なものです。当然のことをしただけで……」

「ビアンカしゃまぁああ!!!」


 フィリップ王子に言葉を返す前に腰に衝撃が走り、わたくしは吹き飛ばされた。


「ぶぁえ!!」

「お嬢様っ!!」


 慌ててマクシミリアンが受け止めてくれたけれど、抱きついてきた方と彼に挟まれわたくしは蛙が潰れたような声を上げてしまう。れ……令嬢なのに! 一応!


「ビアンカ様、ビアンカ様……!! のえるしゃまったすけて……ありがとうごじゃいますっ」


 泣きじゃくりながらわたくしの腰にしがみついているのは、ゾフィー様だった。

 貴女すごい勢いで抱きついてきたわね!? 腰が、折れそうだったわ……!


「ゾフィー様。落ち着いて、落ち着いて……!!」


 その紫がかった銀髪を撫でると、ゾフィー様はしゃくりを上げながら数度頷いた。

 ああ……そんなに目を腫らして。わたくしはハンカチを取り出すとゾフィー様の涙を拭って、今にも垂れそうだった鼻水も拭いてあげる。

 するとゾフィー様は照れたように、はにかんだ笑みを浮かべた。

 マクシミリアンがそっとハンカチを回収し新しいものを手渡してくる。準備がいいわね、貴方。


「……ノエル様を助けてくれて、ありがとうございます」


 落ち着きを少し取り戻したゾフィー様は、改めて礼を口にしてからぺこりと頭を下げた。


「無事で、何よりですわよ」


 うんうん、とわたくしは頷く。

 ――そう。無事、なのよね。約一名を除いて。


「リュオンは……無事ですの?」


 わたくしがそう口にすると、ノエル様が苦しげな表情をした。

 まさか――。


「命に、別状はないみたい。だけど……かなり大きな傷を負っていたから。騎士になるのは難しいかもしれないね」


 わたくしは、リュオンの命に別状がなかったことにホッとすると同時に。

 彼が……死ぬよりも辛い道をこれから歩むのかもしれないと、そんなことを思った。

 リュオンは騎士になる未来の自分の姿しか考えていなかったはずだ。それを失った彼はどうなってしまうのだろう。

 自業自得なのだけれど……悲しいわね。


「今じゃケンカばかりだし、憎まれ口しか叩かない仲だけど。リュオンとは幼馴染なんだよね」


 ノエル様が苦痛を堪えるような表情で言う。幼馴染……そうだったのね。


「子供の頃、ダウストリア家の訓練に彼が来るようになってから知り合って。最初はすごく仲が良かったんだ。年も同じだし、実力も伯仲してたしね。だけど……」


 リュオンはダウストリア家の苛烈な訓練に耐えられず、途中で脱落してしまったそうだ。

 それからは過剰なまでにノエル様を敵視するようになり、リュオンの家……パルフィ子爵家がカーウェル公爵家に与したことによりさらにそれは激しくなった。


「俺が……もっと昔に彼と向き合っていたら。こんなことにはならなかったのかもね」


 そう言ってノエル様は寂しそうに笑った。

 自分を害しようとした人にそんなことを思えるなんて、ノエル様はとても優しい人だ。

 彼がダウストリア家の訓練から脱落したのはノエル様のせいじゃないのだし……力が足りない自分を恨まず、ノエル様を恨むリュオンの方が間違っている。


「ノエル様のせいじゃ、ありませんわ」


 わたくしがそう言うと、ノエル様の深い茶色の瞳が悲しげに伏せられた。

そんなノエル様とリュオンの関係でした。

リュオンのたどった道はもしかすると自分のたどった道だったかもしれないと、

ノエル様は思っています。


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