令嬢13歳・薬草研究会の研究発表と騎士祭の始まり
ささやかなお茶会を終えたわたくし達は、まずはマリア様の『薬草研究会』の研究発表が行われる教室へと向かった。ジョアンナは眠そうな顔をしながら使用人サロンへ戻って行った。学園祭の準備で疲れていたのにお茶会の準備をしてくれたのだ。申し訳ない気持ちになるわ。
教室の前には受付のための机があって分厚い眼鏡の男子生徒がいかにも暇ですという雰囲気丸出しで、ぼんやりと座っていた。
……催しとしては少し渋めだから来場者の数が思わしくないのかもしれない。
「あの……」
わたくしが声をかけると男子生徒はこちらを見て、首を傾げ、次に赤くなり、しばらくぼんやりとこちらを見つめていた。
えーっと……どうなさったのかな……。
「あの、薬草研究会の研究発表を見たいのですけど……。こちらに名前を記入すればいいのかしら?」
「あっ、は……はい! お願いします!!」
もう一度声をかけると彼はハッと我に返ったようで、なんだか慌てた様子で記帳用のノートとペンをこちらに差し出した。
「……ビアンカ様……? 幻か? 幻じゃないよな? えっ、どうしてこんな地味な研究発表に!?……フィリップ王子とミルカ王女まで!!?」
彼は混乱した様子でわたくし達が記帳する様子を眺めている。
廊下にいた生徒達も色めき立ち、わたくし達の後ろにはいつの間にか令嬢7割、そして3割くらいは令息の長蛇の列ができていた。
その様子に眼鏡の男子生徒は呆然としている。多分全員は入らないわね……。
……主にフィリップ王子効果なのだろうけど、マクシミリアンとハウンドも見目が飛び抜けてよいものね。
ミルカ王女もロリ巨乳可愛いし、ゾフィー様も巨乳可愛いし……くっ、この件に関して掘り下げると自分が傷つきそうね!!
二人と並ぶと自分の絶壁具合に正直落ち込むもの。マクシミリアンは小さくてもいいって言ってくれるけど。
わたくし達は教室に入ると4人掛けの長机2つに分かれて席を確保し、研究発表が始まるのを待った。
左隣はマクシミリアン、右隣はフィリップ王子に挟まれ険悪な二人の視線が飛び交う真ん中にいるのがとても落ち着かない。
マクシミリアンの隣にはゾフィー様が腰を掛けていて親友の晴れ舞台をニコニコとして楽しみにしてらっしゃる様子が見て取れる。
見ているこちらが微笑ましい気持ちになってしまうわ。
この後の騎士祭は彼氏のノエル様の晴れ舞台だし、ゾフィー様の学園祭は楽しいイベントがいっぱいね。
席に着いて10分くらい経ったところで薬草研究会の研究発表が始まった。
トップバッターの生徒は盛況の教室に気後れしたようだけれど、深呼吸を数度し気を取り直して黒板に紙のレポートを貼ると研究発表を行った。
……彼の話はとても面白いのだけれど、周囲の生徒の視線はほとんどフィリップ王子に突き刺さっている。
皆様、研究発表をちゃんと見て!!
そうやって数人が発表を行ったところで、マリア様の番になった。
マリア様は女性らしく『美容によい薬草』という研究内容で、それには令嬢達も目の色を変えて食いついた。
流石マリア様。あの薬草をそんな風に使うなんてやるわね……!
色々な着眼点からの発想に感心している間に全員の研究発表が終わり、わたくしは満足感に包まれながら教室を後にした。
去り際になんだか疲弊して受付の机に突っ伏している、受付をしてくださった男子生徒に『とても楽しかったわ、すごい研究会ですのね』と声を掛けると彼は目を輝かせて『そう言ってもらえると光栄です!』と本当に嬉しそうに笑ってくれた。
自分の好きなものを心からの気持ちで褒められるのは、とても嬉しいものね!
わたくしも前世でフィリップ担の友人にマクシミリアンのイベントを褒められると思わずドヤ顔だったもの!
わたくし達はマリア様と合流すると騎士祭が行われる演習場へと向かった。
剣術の授業を女生徒は取れないので普段全くご縁がない演習場に、わたくしは興味津々だった。
騎士見習いの彼氏、なんかがいると応援でちょこちょこ行くのかもれないけど……なんて思いながらゾフィー様に目を向け思わずニヤニヤとしてしまう。
「ゾフィー様、ノエル様の活躍楽しみですわね!」
わたくしがそう声をかけると、ゾフィー様はふんわりと頬を染めて微笑んだ。
「ノエル様のかっこいいところを沢山見られるなんて。私ときめきで死んでしまうかもしれませんわ……!」
そう言いながら赤くなった頬に両手を添えるゾフィー様は恋する乙女そのものでとても可愛らしい。
騎士祭はゲームでもとても素敵なイベントだったので、その気持ちはよくわかるわ。
勝利を好きな方に捧げて頂けるなんて乙女の夢だもの……!
「一生懸命応援しましょうね!」
マリア様も胸の前で拳を握りしめガッツポーズをしている。
それを見ながらミルカ王女も楽しそうにポーズを真似ていた。可愛い。
だけどその後ろでミルカ王女の真似をしているハウンドは、可愛くない。
「ノエルは俺の自慢の騎士だ。必ず勝利する」
フィリップ王子も爽やかに微笑みながら、そう断言した。
その言葉にわたくしもコクコクと頷いてみせる。
幼馴染なのだ、彼がどれだけ訓練を頑張っていたかはよく知っている。
脳裏に以前絡まれたエイデン様の部下……騎士見習いのリュオンの姿が思い浮かぶ。
見てなさい、リュオン! ノエル様がきっと、貴方に勝利するんだから!
本日もご閲覧ありがとうございました。
王家派とカーウェル公爵家派のぷち代理戦争の騎士祭の始まりです。