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閑話18・短編まとめ5

活動報告にちょこちょこ上げている短編のまとめその5です。

今回はゾフィーとノエルのお話と、

お嬢様が海で溺れなかったらあったかもしれないユウ君とみことの話。


『彼女はうんと言ってくれない』(ゾフィとノエルの話。学園祭前)

『もしかするとあったかもしれない話』(ユウ君IF。お嬢様が溺れず転生しなかったら)


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『彼女はうんと言ってくれない』


「ねぇ、ゾフィー。婚約の件なんだけど……」


 教師の体調不良で授業が無くなり、カフェテリアでのんびりと過ごしている午前中。

 俺がそう切り出すとゾフィーはその紫色の瞳を大きく開いた後、俺から目を逸らした。

 そんな態度はさすがに傷つくなぁ。


「ノエル様。今日の日替わりランチはなんでしょうね? 楽しみですわ!」


 ゾフィー、話の逸らしかたがとても雑だよ!?

 ちなみに日替わりランチはホーホー鶏の竜田揚げと野菜のマリネ、根菜類のスープだとサイトーサンにリサーチ済みだ。


「ゾフィーは俺と、婚約するのは嫌?」


 俺がそう訊くと彼女は一瞬躊躇したが、首を横にぶんぶんと振った。

 

 その表情は必死で彼女が俺のことが好きなんだってことが伺えて内心ホッとする。


「じゃあどうして、婚約できないの?」


 俺の言葉にゾフィーは悲痛な顔になる。

 なにか重大な理由があるんだろうか。

 家に借金があるとか……? ダウストリア家で返せる額だといいな。

 じっと見つめていると彼女は観念したかのように口を開いた。


「……ノエル様。私、その……体重がまた増えましたの……」


 最後の方は小声になってしまい、うっかり聞き逃しそうになってしまった。

 ……体重が、増えた?

 思わずゾフィーの立派な胸元に目をやると、キッと可愛い顔で睨まれた。


「ノエル様、胸は見ないでくださいませ!」


 男なんだし仕方がないじゃないか、という言葉を俺は飲み込んだ。

 ……ゾフィーに嫌われたくないものね。


「えっと……体重と婚約、なにが関係あるの?」

「この調子で体重が増え続けたら、ノエル様と結婚する頃には私、トドのようになってしまいますわ。そんな姿で……ノエル様の横には立てませんっ……」


 そう言って俺の可愛いゾフィーは、目に涙を浮かべた。


「……トド……」


 彼女の言葉を復唱しながら、俺は思わずぽかん、とした。


「ノエル様はそうなった私を、嫌いになりますわ」


 そう言ってゾフィーが瞬きすると奇麗なアメジストの瞳から涙がとうとう零れた。

 それを俺が指で拭き取ると、ゾフィーは白い頬を赤くする。

 ――それにしても、腹が立つなぁ。


「ゾフィーはどうして、俺を信用しないの?」


 俺の言葉にゾフィーはびくりと身を震わせた。

 気をつけたのだけど言葉に少し怒気が含まれてしまったかもしれない。


「俺はゾフィーを、見た目だけで好きになったわけじゃないよ。どんなゾフィーも好きだ」

「……ノエル様」


 ゾフィーは再び瞳から涙を零しながら、感動を含んだ表情で俺を見た。

 この子はどうして自己評価が低いのかな。

 もしかすると、スレンダーな女性が社交界でもてはやされている弊害かもしれない。

 絶対にふわふわもちもちしている方が可愛らしいのに。

 そんなことを思いながらゾフィーの胸に思わず目をやってしまう。

 俺の言葉に感激しているらしいゾフィーがその視線に気づいていないうちに、ガン見したい欲望を抑えて俺はそっと立派なものから目を逸らした。


「丸くなっちゃうのが嫌なら、うちの訓練に参加する?」

「……ダウストリア家の訓練はハードとお聞きしますけど」


 俺の提案にゾフィーは及び腰だ。まぁハードはハードだけど……。


「あくまで準備運動だけ。うちの邸の外周を100周して、腹筋を100……」

「じっ……自分で頑張りますわ!! そう! 自分の力でダイエット最高ですの!」


 ゾフィーは死んでしまいそうだと言わんばかりの悲鳴のような声で言った。

 ……まだまだメニューはあるんだけどな。


「自力で頑張るんだね。増えた分が減ったら婚約のこと考えてくれる?」

「わ……分かりましたわ。頑張ります!」


 ゾフィーは胸の前で握りこぶしを作った。


「頑張ると決めたら、お腹が空きましたわね」


 そう言って注文に行き、両手いっぱいにお菓子を買って帰ってきたゾフィーに色々とツッコミたかったけれど。

 ……彼女が幸せそうだから、別にいいや。


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『もしかするとあったかもしれない話』


 僕、斉藤優吾、二十歳は我慢していた。

 高校の同級生、そして僕の片想いの相手の春原みことちゃんはとても鈍い。

 だから、こんなことになるんだ。

 ちらり、と横に視線を向けるとみこちゃんは安らかな寝息を立てている。


 僕の、一人暮らしのマンションのベッドで。


 僕に会いに離島から遊びに来てくれたのは嬉しいよ。

 だけど『ユウ君、ホテル取るの忘れてたから泊めてー』って僕の部屋に転がり込むのはないでしょう!?

 僕って、そんなに……みこちゃんにとって対象外の男なの……?

 みこちゃんの安らかで可愛い寝顔を見ながら、僕はため息をついた。


 ここ数年、僕は可愛いみこちゃんに恥ずかしくない男になろうと頑張った。

 T大生で、副業は大手出版社から刊行されている雑誌のモデル。

 モデルで得た資金を元に最近は起業もしてそちらも順調だ。

 みこちゃん以外の女の子は、光にたかる虫のようにどんどん寄って来る。

 ……だけど君は、僕のことを意識すらしていない。

 告白してもライトノベルの主人公ばりに何度もスルーされてしまったし。


「みこちゃん」


 呟いてみこちゃんの可愛い頬を指で突くと、みこちゃんはむにゃむにゃと何か言った。

 …………安らかな顔しちゃって。

 ちょっとムカッとしてみこちゃんの柔らかな頬をぷにぷにと激しく押した。


「みこちゃん、大好き。僕と付き合って?」

「……ふぇい!?!」


 寝ていると思っていたみこちゃんから、変な声が上がった。

 ……頬を突きすぎたか。


「……ユウ君、なんか今、幻聴が聞こえた」


 みこちゃんは目を開いて真っ赤な顔で僕を見る。


「みこちゃん。結婚して?」

「幻聴が悪化してるよユウ君!!」

本日もご閲覧ありがとうございました。

ノエルとゾフィーはそんなこんなで婚約がまだというお話と、

お嬢様がみことのままだったらというお話でした。

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