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多分脱・我儘令嬢をしたわたくしは7歳になった・後

美しく飾り付けられた庭園には料理が所狭しと並べられており、すでに集まっている招待客が歓談を始めていた。

父様、お兄様と共にその空間へ足を踏み入れると、一瞬で歓談の声が止み、会場は水を打ったように静かになった。

そして次の瞬間、招待客達から次々と感嘆の声が漏れ始めた。


「あの子がシュラット侯爵の…」

「なんてお美しい。お父様譲りの美貌ですわね…」


わたくしの事を値踏みする視線が突き刺さり、噂をする声が四方から聞こえてくる。

居心地が悪くてムズムズするし、身の置き場が無い気持ちになる。

怖くなってお兄様の手をぎゅっと強く握ると、安心させるように優しく微笑んでくれた。


「僕の天使。怖くないからね」


そっと耳元に囁いて、わたくしの手の甲にキスをするお兄様を見て会場のあちこちから黄色い悲鳴が上がった。12歳…12歳よねお兄様。

よそ行きモードのお兄様素敵です。このお兄様となら結婚したい。


「皆様、我が娘の為にお集まり頂きありがとうございます。娘は本日無事に、7歳の誕生日を迎える事が出来ました」


父様の低い、よく通る声の挨拶が会場に響く。

こちらもよそ行きモードの父様だ!キリッとしたお顔が本当に素敵…!ああ、父様カッコいいです…。

父様の挨拶が終わったら今度はわたくしの番だ。

緊張する…噛んだらどうしよう!カーテシーもちゃんと出来るかしら…!なんてもやもや考えているうちに父様の挨拶は終わっていた。

お兄様に手を引かれ、震える足を気力を振り絞って前に出す。


「皆様お初お目にかかります。ビアンカ・シュラットと申します」


挨拶の言葉を口にしながらお客様に向けてカーテシーをする。

右足を後ろに引いて重心を下げるカーテシーの姿勢はとても疲れる…足が、足が震えちゃう。

優雅に出来たかは置いておいて、7歳児としては合格点だろう。

さっと姿勢を正してなるべく優美に見えるよう微笑みながら会場を会場を見渡し、考えていた挨拶の言葉を口にした。


「本日はお忙しい中、わたくしの誕生日パーティーにお越しくださいまして、本当にありがとうございます。父と兄に見守られ無事に7歳の誕生日を迎える事出来ました。次の1年に向けてまた歩き出したばかりの未熟なわたくしですが皆様に暖かく見守って頂けると嬉しいです」


背筋を伸ばしてそう挨拶をしたわたくしに、会場から沢山の暖かな拍手が送られた。

拍手を送る人々の顔は一様に笑顔だ。どうやら及第点を頂けたらしい。

ほっとした顔にわたくしの頭を、父様が大きな手で撫で撫でしてくれた。


挨拶が終わってからは身分の高い方から順番に皆様が挨拶に来られたので、

わたくしは父様の横でニコニコしながらひたすら頭をカクカクさせる人形のようになった。

襤褸が出てないといいんだけど…。


「いやぁ、シュラット様!とても美しいお嬢さんで…。それに7歳とは思えないくらいのしっかりした挨拶でしたなぁ!」

「お褒め頂き嬉しいですわ」


そんな言葉を掛けられる度、うふふ、と笑いながら冷や汗をかく。


(うう…実は見た目は子供、中身は大人なんですぅ)


「素敵なお嬢様を隠してらっしゃったのね。今度ぜひうちの屋敷に…」


こんな声を掛けて来る方々もとても多かった。


(屋敷に行ったら息子さんと2人きりにされるお見合いパターンですね、分かります。嫁の畑作りを許してくれる旦那様なら大歓迎ですけど…)


お誘いがかかる度に父様とお兄様の周囲の温度が少しづつ下がっている気がする。

娘(妹)はまだやらん、そんな空気をひしひしと感じる。


今まで父様がわたくしをお茶会などの交流の場に連れて行かなかったのは、わたくしがまだ幼かった事、父様が可愛い娘を見せるのを嫌がった事…と言う理由も勿論あるだろうけれど。

最大の原因は身内のひいき目があんなに強い父様の目で見てもあのワガママ娘を世間に出すにはまだ早いと判断したからだろうな…とお客様に応対しながらそんな事を思う。

昔のビアンカが黙ってニコニコ立っている事なんて出来る訳が無い。

下手すればその場で誰かに当たり散らして、邸内に留まっていたシュラット家のワガママ娘の風聞が王都中に広まっただろう…恐ろしい。


ニコニコ、笑顔をキープして、とにかくこの場を凌ぐ。

そればかり考えていたので、パーティーが終わる頃にはもうヘロヘロになっていたのだった。


「素敵なお嬢様の存在が世間に知れてしまいましたし。きっとお茶会のお誘いが増えますね」


疲れてだらしなくベッドに伏せていたわたくしに、ジョアンナがそう言った。


「もうしばらくそう言うのはいいですわ…」


ぐったりと、沈んで行く意識を引き止める事も無く。

わたくしは泥のような眠りについたのだった。






しばらく、家から出るもんか。

心の底からそう思ったのだけど。


一週間後、王宮からの招待状がわたくしに届いた。

多分次こそ王子様。

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