令嬢13歳・マクシミリアンとぷち学園祭デート
マクシミリアンから繋がれた手を握りしめると、手袋越しなので体温があまり伝わらなくて少し寂しい。
それが不満でにぎにぎと彼の手を握ったり離したりしても、さらりとした手袋の布地の感触が伝わってくるだけで、わたくしは思わず頬を膨らませた。
ふと視線を感じて見上げるとマクシミリアンになんだか慈愛に満ちた眼差しで見つめられていて、少し気まずい気持ちになってしまう。
……なんですか、その母狼みたいな温かい視線は。
彼と目を合わせると、ふっと少し息を漏らして色気たっぷりに微笑まれ、思わずときめきで胸がぎゅっと締め付けられてしまう。……うう、好き……。
気持ちを自覚してから、マクシミリアンを好きだという気持ちは毎日大きくなるばかりで本当に困る。
こんなの後戻りができないわ。ちゃんと責任を取ってよね、マクシミリアン!
「ところで、お嬢様。10分くらいでしたら、私達が戻らなくても不自然ではないと思いませんか?」
マクシミリアンに悪戯っぽく言われて、わたくしはハッとなった。
そうか。短い時間だけれど、これは学園祭デートチャンスなんだ!
「学園祭デート、する!」
わたくしが勢いよく食いつくとマクシミリアンは微笑んだあとに、長い睫毛を伏せて少し寂しそうな表情をした。
「お嬢様と今日はあまり話せておりませんからね。寂しかったです」
そう言うマクシミリアンに、頬にそっと手を添えられる。
寂しかったとストレートに言われると、とても恥ずかしくなってしまうわね。
というか……!
「寂しかったのはわたくしもだわ。マクシミリアンったらずっと女の子に囲まれてるし!」
「……お嬢様以外の女性になんて、興味はありませんよ? ご存知でしょうに。それにお嬢様もサイトーサン伯爵に手ずから苺を食べさせてもらっていましたよね?」
「……そ……それはっ……」
「そのお仕置きは、学園祭が終わってからすることにしますが」
そう言うとマクシミリアンは少しきつめにはまった手袋の指先を口で咥え引っ張るようにして外すと、それをトラウザーズのポケットにしまいわたくしに素手を差し出した。
「行きましょう、お嬢様」
「うん!」
満面の笑みでマクシミリアンの手を握った後にはたと気づく。
「おしおき……?」
「ええ、お仕置きですお嬢様。私以外の男に見向きをされ、とても悲しいのです。私を悲しませたお仕置きは、しなければなりませんよね?」
マクシミリアンは悲しげな顔をしてみせるけど、薄く口角が上がっている。
……絶対この人、ユウ君とのことをお仕置きの口実にしたいだけだ!
わたくしはマクシミリアンの今度はちゃんと体温を感じる手をぎゅっと握りながら、『帰りたくない……学園祭がずっと終わらなければいいのに……』なんて遠い目をしてしまった。
マクシミリアンと手を繋いだまま……一応周囲の目を気にしてエスコートっぽく見えるようにはしているのだけど……学園祭の出店を流し見する。
文字通り流し見しかできないのが残念だけど、マクシミリアンと一緒に回れるだけでも嬉しいものね。
フィリップ王子のクラスの絵画展も少し覗いてみたけれど。
クオリティが明らかに違う絵が一枚掛けてあって『あ……あれがフィリップ王子のだ』って一目ですぐにわかった。
窓辺で、少女が月を見上げている美しい絵。
天才ってすごいなぁ……どう見てもプロの絵にしか見えない。フィリップ王子は相変わらず超人的になんでもできる。
学園での授業だけじゃなく公務もあって忙しいはずなのに彼はいつ絵を描く暇を捻出したのだろう。
そういうところは素直に偉いなぁと思ってしまう。
言ったら多分すごく食いついてくるから言わないけど……。
「あの絵……お嬢様に似ていますね」
少し不快そうに眉を顰めたマクシミリアンに言われて絵を改めて見ると、確かに絵に描かれた少女はわたくしに似ていた。
……公衆の面前で愛を叫ばれているようで、とっても微妙な気持ちになるわ……。
なんだか恥ずかしい心持ちでその場を退散し、マクシミリアンの懐中時計を確認してもらうとそろそろ戻らなければならない時間になっていた。
「もう少し、マクシミリアンと学園祭を見たかったなぁ……」
「また、後ほど抜け出すタイミングもあるかもしれませんし。それに期待しましょうか」
わたくしが呟くと、マクシミリアンが優しくそう言って頭をなでてくれる。
「マリア様の発表会も、ノエル様の騎士祭も楽しみですね」
「そうね、本当に楽しみだわ!」
そうなのだ。午後にはノエル様が出る騎士祭があるのよね!
マリア様の薬草研究会の発表も、きっと興味深いものに違いない。
マクシミリアンの言葉に気を持ち直して、わたくしは皆様の待つ中庭へ急ぎ足で戻ったのであった。
本日もご閲覧ありがとうございました
どうしても二人にデートをさせたかったので
短い時間ですがねじ込んでみました(*´ω`*)