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令嬢13歳・喫茶店の開店

 学園祭開催の時間となり、教室にはドッと人が溢れた。

 他校、他国からの招待の生徒の入室で店内はカラフルな事になっている。

 我が校と同じようにシックに黒でまとめた制服もあれば、全身赤や青などの派手な色味の制服もあった。

 ミーニャ王子と同じライラック学校なのだろう、獣人の生徒もいらしている。

 もちろんうちの生徒も沢山居て……何にしても、お客が多い。

 ……こんなに繁盛している理由は、分かりきっているのだ。


「注文は何にする? 忙しいので、早めに決めて貰ってもいいかな?」


 ……フィリップ王子、貴方どうして接客してるんですか。

 しかも飲食業にあるまじき横柄さ!!

 そんな横柄な態度をされても誰も不平を言う訳でもなく彼に見惚れている……しかも男女どちらもだ。

 見目がいいって本当にすごいわね……。


「おススメ? そうだね、このイチジクと苺のムースなんてどうかな?」


 柔らかい笑顔でそつなく注文を取っているのはノエル様だ。

 ノエル様が接客している他校の女生徒達は頬を染めてこくこくと何度も頷きノエル様のおススメを4人とも頼んだ。

 その光景をなんだかハラハラとした表情でゾフィー様が見つめている。

 そんなゾフィー様をマリア様は微笑ましいと言わんばかりの表情で見守っている。

 自分の恋人がモテるのって、やっぱり心配よね。

 かく言うわたくしも……。


「この紅茶は3番テーブルに持って行って下さい。こちらは5番に」


 紅茶を淹れながらどのテーブルに運ぶかの指示を出すマクシミリアンに釘付けの令嬢達も、もちろん沢山居るのだ。

 マクシミリアンから紅茶を受け取ろうとして手が触れ合い真っ赤になるご令嬢や、うっとりとマクシミリアンを見つめながらさりげなく肩に触れたりするご令嬢を見て、わたくしは頬を膨らませた。

 ……この機会にお近づきに、を狙ってる子が沢山いるんだよなぁ……。

 あっ、また触られてる……!

 表立って『わたくしのマクシミリアンなの!』って言えないのが、とてももどかしい。


「ビーちゃん、手が止まってる」

「ご……ごめん、ユウ君」


 ユウ君に指で額をつん、と押されてわたくしは我に返った。

 そう、わたくしはユウ君とケーキをお皿に乗せてソースやクリーム、フルーツなどを飾り付ける作業をしているのだ。

 料理が下手なわたくしでもこれだったら出来るし、お絵描きみたいでちょっと楽しい。


「マクシミリアンさんの方、気になる?」


 ユウ君は悪戯っぽく笑いながら、訊ねてくる。

 ……マクシミリアンの方を凝視していたの、気付かれてたのね。


「別に、気にならない。全然っ、気にしてない!!」


 ぷくぷくと頬を膨らませながらクリームを絞り出すわたくしを見て、ユウ君は声を軽く立てて笑った。

 他人事だと思ってそんなに楽しそうに笑わないでよ……!

 ユウ君と二人で話しているとつい前世の口調に戻ってしまう。

 周囲はざわざわと大きな音で溢れかえっているし……人に聞かれる事はないだろうけど。

 マクシミリアンがわたくしの事を想ってくれているのは十分、分かっているのに。どうしてこんなに不安になるんだろうなぁ。


「いいなぁ……彼は、ビーちゃんに焼き餅焼かれて」

「ユウ君……??」


 ユウ君の言葉は、後半は小声になってしまい上手く聞き取れなかった。

 思わず首を傾げるとユウ君は微笑みながらわたくしの口に飾り付けで余った苺を入れた。

 口の中に果実の甘い味が広がる……美味しい!!!


「もう1個食べる?」


 言いながらユウ君が苺を差し出してくるので、思わず反射的に口を開けてしまう。

 苺にかぶりつく時に勢いあまってユウ君の指の先も少し食んでしまうとユウ君はくすぐったそうな顔をした。


「美味しい!! この苺すごく甘いのね! どこの産地のものなのかな」

「確か王都の側のミラーナ村のブランドだね。糖度がとても高い事で有名なんだ。こっちの少し酸っぱめのヤツもどう? これはライネ村のもの」


 そう言いながらユウ君は別の形をした苺を口元に持ってくる。

 それを口に含むと、確かに少し酸味が強い。

 けれどイヤな酸っぱさじゃなくてとても爽やかな風味だ。

 これを作った農家、いい仕事してらっしゃるなぁ……。

 わたくしも寮の部屋でプランターで何か育てようかな。

 部屋に人が来た時の事を考えて今まで実行に移せていなかったのだけど……誰か来る予定の日は隠せばいいのよね。

 前もって連絡なしに突然部屋にいらっしゃるのはミルカ王女くらいだし、彼女にだったら見つかってもいいか。


「本当にこの苺美味しいね。ジョアンナに頼んで種を取り寄せて貰おうかなぁ……」

「もしかして、寮の部屋で育てるの?」

「うん、プランターで育てたいなって。日当たりが心配だけど火の魔石で疑似日光を作れるんじゃないかなーと思うの」


 話しながら注文を取って来た生徒から貰った伝票を見つつ、冷蔵庫からケーキを取り出す。

 パンパンだった冷蔵庫のケーキはみるみるうちに減っていっている……何時まで持つのかしら。


「ビアンカ、オーダーだ」


 ケーキを冷蔵庫から出し飾り付けをしているとフィリップ王子がこちらへ来て、また新しい伝票を置く。


「ありがとうございます。フィリップ様」

「これは何番テーブルだ?」

「えっと、6番です。……というか、ご自分のクラスはいいんですの?」


 フィリップ王子に訊くと彼はその美しい金の双眸を細めて微笑んだ。


「問題無い。あちらは人手は足りているしビアンカと一緒にいられる貴重な時間を大事にしたいからな」


 ――フィリップ王子、いつまでこちらにいらっしゃる気ですか。

 お店的には助かるんだけどね、客を寄せてくれるしとても要領よく捌いてくれてるし……。

 フィリップ王子は機嫌が良さそうに鼻歌を歌いながらお客様が待つテーブルに向かって行った。

 ……王族の給仕って……ありなのかしら。あまり考えないようにしておこう。


「……ビアンカ様。新しい洗い物、ありますか?」


 恐る恐る声をかけてきたのはシュミナ嬢だ。彼女は制服にエプロンを着けて洗い物をしてくれている。

 勇気を出して声をかけて来たのだろう……その顔は戦地に赴くような真剣な表情だ。


「ありがとう、今のところは無いわね。洗ったお皿を風の魔法が使える生徒に頼んで乾かして貰ってもいいかしら?」


 そう言ってシュミナ嬢に微笑みかけると、彼女は少し驚いた顔をして、こくりと頷いた。

 業務連絡とはいえシュミナ嬢と普通の会話が出来るなんて、少し感動だ。

 隣のユウ君も、うんうん、と頷きながらなんだか嬉しそうだった。


 わたくしはちらり、と時計を見た。時計の針はもうすぐ12時を指そうとしている。

 マクシミリアンの方を見ると、彼はまた女生徒に懐かれている……むむむ。

 休憩の時に、マクシミリアンを誘って二人で抜け出したいんだけどな……。


 そう……今日は大いなる目標があるのだ。


 ――わたくし、マクシミリアンと2人で、学園祭デートをしたいんです!!

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