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令嬢13歳・学園祭の始まり

 学園祭当日。

 入念に準備を済ませたわたくし達はそわそわとしながらカフェとなる教室に向かった。

 普段は空き教室になっている場所を借りて、各家から使用人達を出し飾り付けをして貰ったのだ。

 我が家からはジョアンナがお手伝いに出てくれた。

 一度様子を見に行ったらジョアンナにくっついて着物のような服を着た女の子もお手伝いをしてくれていたのだけど……ジョアンナにどなたなのか訊ねたら『私の子飼いのヒナキです』と微笑まれた。

 メイドに子飼いの部下とか、意味が分からないわよジョアンナ。

 ストラタス商会の裏のドンが彼女の本職なんだろうな……うん。

 ジョアンナの夫であるシュラット侯爵家のコックのラヨシュは、彼女の秘密が気にならないのだろうか、なんて思ったけど。

 ……ラヨシュは細かい事は気にしねぇ! みたいな性格なので、気になってないんだろうな、多分。


 教室の扉を開けると、そこは本当のカフェの店内のようになっていた。

 白いテーブルクロスがかけられた丸テーブルが多数配置され、その上には色とりどりのフラワーアレンジメントが置かれている。

 窓にはたっぷりとした布地のクリーム色のカーテンがかけられ、床には赤の毛足が長い絨毯が敷かれていた。

 教室の隅には魔石を使った給湯機と色々なブランドの茶葉、茶器の類が置かれた大きいテーブルがあり、その後ろには簡易の魔石式の流し台も置いてある。そして大きな冷蔵庫にはぎっしりとケーキが詰め込まれている。

 マクシミリアンがお茶を淹れる事になっていて、ユウ君もお手伝いに来てくれるそうだ。いいのかしら、ユウ君は生徒じゃないのに……。昨日も手伝ってくれたし今更かな。


「さて、頑張りますか」


 わたくしはぴょこぴょこと頭の上に生えた白いうさ耳を揺らしながら腰に手を当て胸を張った。

 ……わたくしのやった準備なんてお菓子を包んだくらいなので……接客くらいは頑張りたいのだ。

 今日のわたくしはもちろんゾフィー様、マリア様とお揃いのウェイトレスの制服だ。

 ミニスカート……は無理なので青の膝下より少し長いスカートを履いて、下には白いタイツ。

 上衣は白いレースがあしらわれたブラウスで、上からフリフリのエプロンを着けている。

 そしてわたくしのお尻からは、まんまるなウサギの尻尾も生えているのだ。


「ビ……ビアンカさまっ。それ……それ、触っていいんですの??」

「はしたないわよ、ゾフィーさん。でも触っていいのかしら??」


 ゾフィー様とマリア様が怪しい手つきと笑み崩れたお顔で尻尾ににじり寄って来る。

 わたくしの喉は恐怖でひゅっと妙な音が鳴った。

 ……ミーニャ王子もわたくしに詰め寄られて随分怖かったんだろうなぁ……。


「……ゾフィー、痴漢みたいだよ?」


 眩しい白のシャツ、光沢のある質感の黒いベスト、黒のトラウザーズとサロンエプロンを着けたウェイター姿のノエル様が苦笑しながら言うと、ゾフィー様は『なっ!!』と心外そうな声を漏らして、頬を染めた。


「痴漢だなんて、酷いですわノエル様。純粋にビアンカ様に触りたいだけなのに!!」


 ……ゾフィー様、それを人は痴漢と言うのです。

 この獣人化薬は飲んで分かったのだけれど……耳や尻尾にもちゃんと感覚が通っているのだ。

 なのでもふもふされると、くすぐったくてちょっともぞもぞと落ち着きがない感覚になる。

 初めてウサギの獣人さんに擬態した時にマクシミリアンに耳と尻尾を散々触られてそれは痛感した。


「お嬢様をあまり虐めないで下さいね?」


 ノエル様とお揃いのウェイター姿のマクシミリアンが苦笑しながら、後ろからわたくしを抱き込んだ。

 ――マクシミリアン、ここ、教室!!

 誰かに見られたらまずいと腕から逃げると、おや、と少し不服げな顔をされた。

 ……そんな顔をしてもダメなんだから!!

 マクシミリアンの頭には先日と同じ黒い狼のお耳がぴょこりと生えており、ちゃんと尻尾穴を開けたトラウザーズからは立派な尻尾が飛び出している。

 ああ、なんて素敵なの……!!!

 ノエル様と並ぶと本当に、新規スチル絵って感じで眩しすぎる……。

 わたくしは思わず二人を拝んでしまい、不思議そうな顔をされてしまった。

 ……前世の業です、ごめんなさい。

 横を見るとゾフィー様とマリア様も二人を拝んでいた……。

 他の生徒の方々もそれぞれ思い思いの格好をしており、教室はとても目に楽しい事になっている。


「ビアンカ、仮装は出来たのか?」


 フィリップ王子が教室を訪れこちらに声をかけてきた。

 貴方のクラスの出展は大丈夫なの? と思ったけれど、絵画展をするとかなんとかで随分前から準備は終わっていたなという事を思い出した。

 人数が必要なこちらと違って当日も受付にだけ人が居れば十分なのだろうし。

 フィリップ王子の絵も展示されているそうなのだけど、彼の絵は評論家にかなり高い評価をされているらしくきっと高値が付くのだろう。

 ……本当に何でも出来るなぁ、この人。


「この通りですわよ、フィリップ様」


 わたくしがそう言ってくるり、と回って見せるとフィリップ王子は頬を染めた。


「ビアンカ……裾が、短くないか? タイツ越しとはいえ足が……」


 見えているのは膝下よりもっと下の部分でしかも分厚いタイツを履いているけれど、フィリップ王子はそこが気になるらしい。

 庶民のお店なら割とメジャーな丈なのだけど、令嬢の感覚からするとかなり短いものだ。

 パラディスコの旅行中はもっと短い物を履いていたけど……あれは非日常だったものね。


「似合いませんか?」


 首を傾げるとフィリップ王子はぶんぶんと首を横に振った。


「似合う、すごく似合う。他の男には見せたくないくらいだ。そのウサギの耳も良く似合っている……」


 そう言いながらフィリップ王子が近づいて来てそっとうさ耳に手を伸ばすと、マクシミリアンがわたくしを抱え上げて腕に抱いた。

 マクシミリアン、いきなり何を……!!!

 教室に居る令嬢や令息からどよめきが巻き起こる。

 マリア様とゾフィー様も興奮した目線を送りながらこちらを見つめている……そんな目で見ないで助けて、二人とも!


「……なんのつもりだ、マクシミリアン」

「お嬢様に不埒な気持ちで近寄る方の気配がしたもので。シュラット侯爵家の宝である、大事な大事なお嬢様ですよ。王子とはいえ婚約者でもないお方に触れさせる訳には参りませんので」


 ……姫抱き状態だと説得力がないわよ、マクシミリアン。

 不満ですよという視線を彼に送ると、マクシミリアンはそっとわたくしを地面に下ろし自分の背後に隠した。

 フィリップ王子の目が剣呑な色を帯び、すっと細まる。

 2人の視線がぶつかり合い、一触即発の空気が流れた。


「せっかく楽しい学園祭が始まるのに!! ケンカはしないで下さいませ!!!」


 わたくしが思わずそう叫ぶと、二人は不満ありありですという態度で仕方なさそうに互いから視線を逸らした。

 ……この二人は一生仲良くなる事が無い気がするわ……。

 あと数時間で学園祭の開始の時間だ。気を取り直して、頑張りますかね!

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