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令嬢13歳・学園祭、本番近し

 準備も着々と済んで、学園祭の本番まであと1日。

 ここ数日で色々な制服の他校の生徒の方々が校内を見学する姿もかなり増えたように思う。

 想像していたよりも多くの人数が来ているようだ。

 仮装喫茶をやる我がクラスで大変なのは教室の飾り付けを頼まれた各家の使用人達や、ケーキや焼き菓子などのお菓子を作るゾフィー様達だ。

 わたくしもお菓子作りを手伝おうと家庭科室に行ったものの、手際の悪さを見たゾフィー様に困った顔で『ビアンカ様のお手を煩わせられませんわ……』と言われやんわりと椅子に座らされてしまった。

 クリームをかき混ぜるくらいの力技ならお手伝い出来ると思うの……ダメかしら?

 ちなみにマリア様は『薬草研究会の発表の準備がありまして……』という事でお菓子作りには参加していない。

 ノエル様も騎士祭に向けて今日も鍛錬をしているそうだ。リュオンの鼻っ柱を折って欲しいわね、ええ。

 マクシミリアンは令嬢達に混じってお菓子作りを手伝っている。

 彼は器用な手付きでどんどんケーキを仕上げていく。

 令嬢達のうっとりとした視線がマクシミリアンに投げられていて、わたくしとしては気が気じゃないんですよね……。

 お菓子作りをしていると聞きつけたユウ君も助太刀に来てくれて、家庭科室は2人を見つめる令嬢達が放つピンク色の空気で充満してしまった……。うう、いいなぁ、わたくしもマクシミリアンとユウ君とお菓子作りしたいなぁ。


「ビーちゃん、退屈? もうすぐ焼き菓子が焼き上がるから冷めたらラッピングをして貰っていい?」


 いつの間にか現場の主導権を握ったユウ君が手持ち無沙汰なわたくしを見かねて仕事を振ってくれた。

 優しい声音で言いながら、オレンジジュースも渡してくれる。

 ……優しい、気が利く。ユウ君はやっぱりいい子ですね。


「ありがとう、ユウ君。頑張って包むね?」

「うん、頑張ろうね!」


 そう言ってユウ君は微笑むと頭を撫でてくれた。

 お菓子はイートイン用だけでなくお持ち帰り用の販売もするのだ。

 ちなみに学園祭の売り上げは全て孤児院に寄付される事になっている。

 売り上げを……なんて言わないで直接寄付をすればいいじゃないかまどろっこしい、なんて意見も民衆からはあるそうだけど……。

 やらないよりもやる方がいいじゃない、とわたくしは思うのだ。


「ビアンカ、菓子を作っているんだって?」


 家庭科室の扉が開いてフィリップ王子まで参戦してきた。

 あちこちから黄色い歓声が沸く……フィリップ王子の人気は相変わらず凄まじい。

 彼は一直線にわたくしの方に来ると、座っているわたくしが立ち上がろうとするのを止め、目の前で片膝をついた。


「ビアンカ、今日も美しいな……。愛していると言ってもいいか?」


 そう言いながらフィリップ王子はわたくしの手を取りキスをする。そしてふわり、と大輪の薔薇が咲くように艶やかに微笑んだ。

 ……周囲の視線が痛いから、本当に止めて欲しいのですが!!


「……うう……」


 許可を求められても困る。

 王族に対して拒絶も出来ないけれど、心に決めた人が居るので許容も出来ない。

 ……それが分かっていて訊いているのだから、フィリップ王子は人が悪い。


「困った顔も可愛いな。愛しているぞ、ビアンカ」


 フィリップ王子は立ち上がると、わたくしの額に唇を落とした。

 瞬間、マクシミリアンが握っていたホイップクリームの絞り袋が音を立てて破裂し、周囲にクリームが飛び散った。

 そして彼の方から冷気が流れ込んでくる……不可抗力なのよマクシミリアン……!!!


「ちょっと、握力強すぎでしょう……!!」


 ユウ君とゾフィー様が慌てて飛び散ったクリームを掃除している。

 周辺をあらかた拭き終わってから、ユウ君はこちらに向き直った。


「フィリップ王子。お菓子作りのお手伝い、します?」

「する。何を作っているんだ?」


 ――フィリップ王子はパラディスコでのお菓子作り以来、お菓子を作る事に興味が湧いたらしい。

 ユウ君が厨房で何か作っている時、興味津々に見ているものね……。

 フィリップ王子に指示を出しながら、ユウ君はこちらに軽くウインクした。

 困っているのを見かねて助け船を出してくれたんだなぁ。

 エプロン姿も凛々しい王子に、令嬢達は釘付けだ。

 中には王子の色気に当てられて卒倒する令嬢まで出る始末だ。

 わたくしは倒れた令嬢達をえっちらおっちらと医務室に運んだりしながら、お菓子が焼き上がるとラッピングしてをくり返した。

 手先自体が不器用な訳でも無いので、ラッピングは順調に出来上がっていく。うん、適材適所ですね。

 フィリップ王子の方をちらりと見ると、いつの間にやら何層にもなっていて美しくフルーツが飾り付けられたホールケーキが出来上がっていた。

 ゾフィー様が嬉しそうに『王子謹製の明日の目玉商品ですわね……!!』と手を叩いている。

 とんでもない値段でも売れそうだなぁ……。


「明日のお菓子の準備が終わったら。最終的な衣装合わせをしましょう?」


 わたくしはそうゾフィー様に声をかけた。

 訓練帰りのノエル様と、『薬草研究会』の発表の準備帰りのマリア様も拾ってわたくしの寮の部屋に行く予定だ。

 エイデン様やシュミナ嬢に姿が認識されているのと、学内で妙な噂になっているという理由で、わたくしの男装は取り止める事になった。

 男装の取り止めを聞いたゾフィー様とマリア様は肩を落としてがっかりしていたけど……。

 ミーニャ王子から頂いた秘密兵器……獣人化出来るお薬で、獣人姿でウェイトレスをすると伝えると、お二人のテンションは一気に上がっていた。

 マクシミリアンにも、獣人姿でお手伝いして貰うのだ。お揃いよ、お揃い!


 シュミナ嬢は衣装をどうするのかな? と気になったので男姿の時にさりげなく訊いてみたら『勉強でそれどころじゃないから、コスプレはしないつもり。裏方のお手伝いをする予定よ』と言っていた。

 ヒロインのコスプレ、ちょっと見たかったなぁ。

 仲が良ければ『一緒にやらない?』なんて言えるのだけど……。

 シュミナ嬢と仲がいいのはあくまで『ヴィゴ』だ。

『ビアンカ』の事をどう思っているかシュミナ嬢に訊いてみたら『もう私が近づいちゃいけない人。酷い事、し過ぎたもの。いずれ謝らないと、とは思ってるんだけど……』と苦悶の表情で言われた。

 ……隣に、居るんですけどね。

 どのタイミングでシュミナ嬢に正体をばらすか……最近はそれも悩んでいる。

 シュミナ嬢に正体をバラして、女姿で友達付き合いを開始するという事は。

『シュラット侯爵家のビアンカ』もエイデン様の敵視の射程範囲になってしまうという事だ。

 エイデン様との完全な対立構造に、わたくしは対処出来るんだろうか。

 それにシュミナ嬢は……『ビアンカ』に対して何歩も引いてしまっている。

 いずれはちゃんと正体を話さなきゃいけないんだけどね。

 ――学園祭で、何かいいきっかけを掴めるといいな。

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