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令嬢13歳・マクシミリアンとケモミミ

 セラさんのお陰で、ベルーティカ王女は猶予を得らえる事になり。

 わたくしは少し安堵した。……彼女の恋が叶うかどうかは分からないけれど……それを今考えても仕方がない。

 ミーニャ王子のお陰でわたくしの用事は意味を成さなくなってしまったので、代わりに気になっていた事……ベルーティカ王女を今どう思っているのか、をセラさんに訊いてみたのだけれど。


「ベルーティカ様は可愛い方ですけど。どう見積もっても14歳くらいですよね? 下手すればもっと下じゃ? 俺24歳なんですよ……」


 と彼は苦笑いをしていた。……そういえば、そういう問題もあったわね。

 貴族社会は10歳になる前に婚約、成人である16歳前後の結婚が当たり前。二回り以上年上の方に嫁ぐ事もざら……なので最近忘れがちだったけれど。

 恋愛結婚が主流で同世代と付き合い婚姻を結ぶ事が多い平民にとっては一回り以上の年の差は確かにネックだろう。

 前世で言う社会人男性が近所の中学生に『結婚して下さい!』って言われても……って感じよね。うん。


「……マクシミリアンと一回り以上年齢が離れて無くて良かったわ。恋愛対象に見て貰えなかったかもしれないもの」


 とわたくしが言うとマクシミリアンは笑って『お嬢様ならおいくつでも私は大丈夫です』なんて言うけど……。それはそれで、危ない気がするの。

 5歳差という健全圏内の年齢差で良かった。本当に良かった。

 寮に戻って心配してくれた友人達に回復のご挨拶をすると、皆はとても喜んでくれた。

 ……うん、友達って素敵ね。

 ミルカ王女は何の手段を使ったのかある程度の事情を知っていたようで『大事に至らなくて良かったわ、本当に』と心底安堵した顔で言ってくれた。

 という事はフィリップ王子もわたくしが誤って惚れ薬を食べた事……知ってたりするのかしら……。


 数日が経って。

 ベルーティカ王女は王都に居を構える事になり、平民目線の生活を過ごしたいという彼女の希望で身分を隠して労働をする事になった。

『ここで働く予定なの。落ち着いたら遊びに来て?』と言って彼女が教えてくれたのは、王都でも老舗のパン屋さんだった。セラさんが紹介してくれたらしい。

 ベルーティカ王女がこの先どうなるかは分からないけど……わたくしには、彼女の幸せをこっそりと祈る事しか出来ない。

 騒動を巻き起こしてくれたお姫様だけど……出来れば幸せになって欲しいわね。


 そして今。わたくしの寮の部屋にはミーニャ王子がいらしている。

 約束していた子猫ちゃんになったミーニャ王子をもふもふ、させて貰うのです!

 マクシミリアンの『犬』達を時々もふもふさせて貰っているけれど、もふもふは皆それぞれ感触が違うからっ……!!

 『犬』を普段触っていても……ミーニャ王子は別腹っ……!!

 彼が獣化するのを待ちわびて今か今かと手をわきわきさせていると、ミーニャ王子は非常に嫌そうな顔をした。

 マクシミリアンがミーニャ王子を射殺しそうな目で見ているからだ。うう……やり辛いなぁ……。


「……なぁ。お前の番に殺されそうだから提案なんだが」


 そう言ってミーニャ王子が懐から青い液体が入った瓶を取り出し、わたくしに投げたので慌てて受け取る。


「これは……?」

「それは獣人に化ける事が出来る薬だ。それを番に飲ませて存分にもふもふすればいいんじゃないか? 獣化する訳ではないから耳と尻尾だけにはなるが。効果時間は一口で3時間だから、存分にもふれるぞ?」


 瓶をしげしげと眺め首を傾げるわたくしに、ミーニャ王子は説明してくれた。

 これは元々は獣人の国にスパイに来た人間から取り上げた薬だそうだ。

 それを自国で改良して、今は人間の部下が獣人の犯罪組織を調べる際の潜入捜査用などに使っているらしい。


「……頂いていいの??」

「今回迷惑をかけたからな。希望があればいくらでもやる」


 ミーニャ王子の言葉に、わたくしは思わず目を輝かせた。

 つまりお耳と尻尾が付いたマクシミリアンを……これからもふもふし放題なの!?


「じゃあ俺は宿に戻るから。……色々悪かったな」


 そう言ってミーニャ王子は、窓を開けると飛び降りて去って行った。

 ……獣人さんって本当に身体能力が高いのね。


「ママママクシミリアン!!」


 ミーニャ王子が立ち去るのを見届けて、わたくしは興奮でどもりながらマクシミリアンに小瓶を差し出した。

 だって、だって、マクシミリアンのケモミミが見れるんですよ!! どもっても仕方ないじゃない!


「獣のお耳が付いた私と……秘密の遊びをしたいのですか? お嬢様」


 マクシミリアンは瓶を受け取ると、楽しそうに笑う。

 なんだか……いかがわしい言い方ですね、マクシミリアン。

 でも、もふもふしたいです。あとケモミミの貴方を純粋に見たいです。


「……遊んで下さい。マクシミリアン」


 わたくしがそう言うとマクシミリアンはくすくすと笑いながら『承知致しました』と小瓶の液体を一口煽った。

 数秒は何も起こらなかったのだけど……手に汗を握りながら様子を見ているとマクシミリアンの頭にぴょこり、と黒い獣のお耳が立ち上がった。

 か……可愛い!!! この肉厚感は……犬、犬のお耳ね!!


「……尻尾が、邪魔ですね……」


 マクシミリアンが頬を染めながらトラウザーズの後ろに手を突っ込んで、尻尾を引っ張り出している。

 獣人さん用のトラウザーズじゃないから尻尾穴が空いていないのよね……。

 引っ張り出されたのは、とても立派で太いつやつやの黒い尻尾だった。


「もしかして犬じゃなくて……この尻尾からすると狼かしら……!!」


 テンションが上がってマクシミリアンの周囲をぐるぐるとしてしまう。

 一見すると冷たい印象のマクシミリアンのお顔立ちに狼耳は……とてもよく似合っている。

 お……推しの素敵新コスチュームだぁ……!


「マクシミリアン、素敵! とても素敵よ……!」


 狼獣人の執事なんて、前世のオタク心をこれでもかというくらいくすぐられるわ!!

 ああースマホ、スマホが欲しい。めちゃくちゃ写真を撮りたい!!


「お嬢様。見るだけじゃなく……」


 マクシミリアンの手が、わたくしの手をそっと取った。


「……触れなくて……宜しいのですか?」


 マクシミリアンに妖艶に微笑まれ、白い手袋に包まれた大きな手に手を取られ、甲に口付けられる。

 ……うう、今日もうちの執事はお色気たっぷりですね……!!


「じゃあ失礼して……」


 マクシミリアンの頭に手を伸ばし、お耳に触れるともふり、と柔らかい感触が手に伝わる。

 ああっ……なんていいもふもふなの……!!!

 お耳は見た印象と同じ肉厚……耳の中までしっかりと細かい毛が生えているのね。毛の感触は繊細だけれど狼らしく少し硬め……。

 そんな分析をしながらもふもふもふと感触を堪能していると……。

 マクシミリアンの頬が、上気して、目が潤んでいる事に気付いた。


「……お嬢様……そんなにされると……」

「!!!!」


 なんだか、色気がだだ洩れている!!空気が濃いピンクだわ……!!


「とりあえず、今日はここまで!!!」


 動揺したわたくしが叫ぶと、マクシミリアンは少し残念そうな顔をして。


「まだ、尻尾もございますのに」


 と呟いた。

 ぐっ……尻尾……!!

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