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令嬢13歳・ベルーティカ王女の失恋

「えっと……貴女の目が覚めたとジョアンナさんが教えてくれて。この度はご迷惑をかけて……本当にごめんなさい」


 ぺこり、とベルーティカ王女は頭を下げた。可愛い犬耳が頭の上でふわり、と揺れる。

 ベルーティカ王女はわたくしの様子が気になって寮の周りをうろうろとしていたそうだ。

 そしてジョアンナと出会ってわたくしが目を覚ました事を聞いた。


「あのままどうにもならなかったら……私、貴女にもお兄様にも望まない結婚をさせてしまっていたのね。想い人が居るのに……申し訳なかったわ」


 頭を上げたベルーティカ王女の瞳は、涙に濡れていた。

『想い人』のところでマクシミリアンとわたくしを交互に見られ、キスを見られてしまった事を思い出して頬が熱くなってしまう。

 マクシミリアンの服の裾をきゅっと掴むと、彼は優しく笑ってくれた。


「……解決しましたし、謝罪は結構ですわ」


 ……許す、許さないという話で言うと……彼女のやった事をわたくしは許す事が出来ないだろう。

 クッキーを食べたのはわたくしの自業自得だったにせよ、セラさんの心を惚れ薬の力で捻じ曲げようとしたのは事実だ。そんな事は、許されない。

 ……そういえばセラさんとの事は、どうなったのだろう。

 でもデリケートな事だし聞いていいものか。


「……セラさんとは、どうなりましたの?」


 わたくしは悩んだけれど、それを口にした。

 するとベルーティカ王女は涙を堪えた表情で唇を噛み、震える声を絞り出すように話し出した。


「……彼の気持ちが、私に向く事は……無いみたい。当然よね……彼に無理ばかり強いて、その上で惚れ薬まで使おうとしたんだから。私、ライラックに帰って未亡人の塔に入るわ」

「……未亡人の塔?」


 聞きなれない言葉にわたくしは首を傾げた。


「『番』と出会い、結ばれなかった獣人達を管理する施設よ。今はこうして理性的でいられるけれど……私はそのうち、狂ってしまうから。分かるの……もう、心が裂けてしまいそうで。魂の伴侶である『番』と結ばれないというのは……そういう事なの」


 彼女の言葉に、わたくしは衝撃を受けた。

 ……一生、施設で過ごす? どう見てもベルーティカ王女は12、3歳……まだ少女という年齢だ。

 ミーニャ王子から『番』の説明を聞いて理解した気でいたけれど……頭で理解するのと実際にその重さを体感する事は全く違った。

 年若い少女が、人生を諦め、狂いながら生きて行かねばならないなんて……。

 だからミーニャ王子も強引な手段を講じてでもセラさんを手に入れようとしたのだろうし、『王家の蜜』なんて薬が存在するのだろう。

『番』が『番』を求める本能に欠けた人間だった……そのたった一つの事が、彼女の人生の歯車を狂わせた。

 セラさんが貴族だったなら、双方合意の上での政略結婚という手段もあったかもしれない。

 だけど彼は自由を求める平民で……彼女は王女だった。


「いつ……お発ちになるの?」

「……3日後に。シュラット侯爵家にも明日、改めてお詫びに行くわね。今日はこれで、失礼するわ」


 そう言って彼女は寂しそうに微笑むと、去って行った。

 その小さな背中をわたくしは……何も言えずに見送った。


「……お嬢様?」


 マクシミリアンに声をかけられ、頬を撫でられて。

 わたくしは、自分が泣いている事に気が付いた。

 好きな人と一緒に生きたい、それだけなのに、それはなんて難しい事なんだろう。


 ベルーティカ王女が帰られてからしばらくして、父様とミーニャ王子がいらっしゃった。


「ビアンカ! 可哀想に……酷い目にあって……!!」


 わたくしを抱きしめて泣き続ける父様を見て、ミーニャ王子は酷く居心地の悪そうな顔をしていた。

 父様は2時間程の間、嗚咽を上げながらわたくしを抱きしめて泣き、わたくしはその父様の頭をよしよしと撫で続けた。

 ああ……父様ったらせっかくのかっこいいお顔が涙でぐずぐずだわ……。

 そして抱きつかれ続けて体がなんだか痺れてきたの、父様そろそろ離して下さい……!!

 マクシミリアンとミーニャ王子がなんとも言えない顔をして見ているのが、ちょっと恥ずかしい。


「その……本当に、妹の事で大変な迷惑をかけてしまったな。詫びても詫び足りないくらいだ」


 父様が落ち着いた頃、ミーニャ王子が深く頭を下げ謝罪をした。

 ……王族がこんなに頭を下げて謝るなんて。しかもツンツンで我儘なミーニャ王子が……!!

 わたくしは目を丸くしてしまい、父様は当然だと言わんばかりに鼻を鳴らした。

 今回の件の賠償に関して父様とミーニャ王子は話し合い、ライラック近辺にしかない獣人用の魔法の補助具をいくつか渡して貰う事で片が付いたようだった。

 遠く離れていても話が出来る石や、空飛ぶ絨毯などテンションが上がる単語がミーニャ王子から飛び出して思わずそわそわしてしまう。

 その中でもわたくしの身の安全を守るのに有益そうなものを父様が選び、後日ミーニャ王子が持って来てくれるそうだ。

 後でジョアンナに訊いてみたら魔法の補助具はとんでもない価格だった。……貴族への傷害の賠償だし……そんなものなのかしら。だけど前世の庶民の血が震えるわ……。


 父様とミーニャ王子の会話を聞きながらも……。

 わたくしの脳裏からは……ベルーティカ王女の事が離れなかった。

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