令嬢13歳・3人の王子様・前
ミーニャ王子に攫われて授業をさぼってしまった事に関しては、『犬』経由で様子を察したマクシミリアンがこちらへ迎えに来る前に『他国の王族の歓待をする事になった』と先生に伝えてくれたようで無断欠席にならずにホッとした。
……うん、間違ってはいないわよね。
ノエル様がとても心配していらしたそうなので、後で謝っておこう……。
「まっかせて下さいお嬢様! ストラタス商会の包囲網は半端ないんですよ!」
寮に一旦戻って、ベルーティカ王女の捜索をミーニャ王子から依頼された事をジョアンナに話すとジョアンナはその立派なお胸を叩いて自慢げにそう言った。
……情報網じゃなくて包囲網なのね? 捕獲までする気満々なのね?
ジョアンナのご実家ってどんなところなのかしら……今度見に行ってみようかしら。
「私も『犬』に探らせておりますので、そのうち何か情報が出るのではないかと……」
「マクシミリアン、無理をしないでね? 人目が多いところでは『犬』を使わないで」
マクシミリアンが、力欲しさに攫われたりしたら、とても困る。
そんな事があったら出奔して地の果てまで探すつもりではいるけれど。
わたくしの力で、彼を見つけて取り戻せるかは正直自信がない。
転生したのにチートなんて持っていないんだもの。むしろ転生とかしてないマクシミリアンの方がチートなのよね……。
「お嬢様、大丈夫ですよ。大抵の輩は返り討ちに出来ますので」
マクシミリアンは甘い笑顔を浮かべわたくしのほっぺを指でぷにぷと突いてから、軽い音を立てて額や頬に口付けた。そして仕上げとばかりに唇にも軽くキスを落とす。
……キスに対して抵抗する気が全く起きなくなっているわ……慣れって怖い。
そしてされるのが、とても嬉しい。
ジョアンナは呆れてチベットスナギツネのような顔でこちらを見ている。
「あーあ……。長いマックスの初恋が実ったのは嬉しい事なんですけどねぇ。見せつけられるこっちの身にもなって下さいよぉ。お嬢様聞いて下さいよ、片想い時代のマックスってばですね……」
「ジョアンナ、黙れ」
ジョアンナが何か話そうとした瞬間、マクシミリアンの手がジョアンナの顔面を掴んだ。
痛そう……とても痛そうだ。ギリギリとすごい音がしている。
というかジョアンナが話しかけた片想い時代のマクシミリアンの事、聞いてみたいわ。
マクシミリアンは随分長い間、わ……わたくしなんかに片想いをしてくれていたらしいけど。
細かい事はあまり教えてくれないのだ。
それにしてもマクシミリアンとジョアンナは相変わらず遠慮のない関係という感じで、羨ましいわ。
「本当に二人は仲がいいわね」
「……お嬢様!!!? こんな粗雑な女と仲良くなんて死んでも無理です!!」
「やですよぉ!! こんな暴力男と仲良くなんて!!」
二人は仲良く声をそろえて叫ぶ。……ほら、仲がいい。
「……いいなぁ、仲良し」
わたくしがそう言うと、二人は同時にしかめっ面をした。
「お嬢様。そろそろミーニャ王子とのお待ち合わせの時間では?」
「そうね、そうだったわね」
ベルーティカ王女探しのお話をする為にミーニャ王子とカフェテリアで待ち合わせをしていたのでわたくしはマクシミリアンとそちらへ向かった。
彼はカフェテリアの丸テーブルに肘を付いて、フーフーと紅茶を冷ましながら飲んでいる。
……猫の獣人さんはやっぱり猫舌なのね。
どこかマクシミリアンにどこか似た容貌の男の子が可愛い猫耳と尻尾を生やして、カップをフーフーしている光景にはやっぱりちょっとグッとくるものがあるというか……。
マクシミリアンにもケモミミ、生えないかな。絶対、絶対似合うわ!
「……お嬢様。ミーニャ王子がそんなにお気に入りですか?」
マクシミリアンにじろり、と見られて、わたくしは我に返った。
「マクシミリアン。あの罪な猫耳と尻尾がいけないの。可愛いすぎるの……! でも恋とかじゃないわよ!?」
「……やっぱり早急に獣人化の薬を探さないと……」
マクシミリアンが焦燥感剥き出しの表情で考え込む。ご……ごめんなさい。
ミーニャ王子はこちらに気付いたようで、相変わらず愛想のない様子で手を振った。
妹が行方不明なのだ、にこにこしろというのは無理よね。
「遅いぞ。10分も待った」
唇を尖らせながらミーニャ王子は不満を訴える……。妹云々じゃなくて性格ね、この不愛想は。
「えっと……お約束の時間通りに着きましたわよ?」
むしろ5分早く着いたのだけど。
「僕が着いた時間が、待ち合わせの時間だ。その前にちゃんと着いておけ」
ミーニャ王子は猫耳をピンと立てて、縦瞳孔を細めながら当然じゃないかと言わんばかりの態度だ。
お……王族の横暴……!!
まぁここまでハッキリ我儘だと怒る気もしないけど……。
「……肝に銘じておきますわ」
わたくしはマクシミリアンに椅子を引いて貰って腰掛けた。
さて、妹姫探しのお話をしないとね……。
「ビアンカ、ミーニャ様と何をしているんだ?」
甘やかな美しい声が背後からかけられた。
……この声は……。毎日聞いているから分かる、ええ、分かりますとも。
……フィリップ王子ですよね。
「フィリップ様……」
わたくしはビクビクしつつ振り返る。
フィリップ王子は何故かメイカ王子と連れ立っていて、メイカ王子はふんわりと笑いながら軽く手を振った。
……王子様3人集合だー……。なんて全然嬉しくないわよ!!