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シュミナ・パピヨンは勉強する(シュミナ視点)

 近頃エイデンの様子が益々切羽詰まっている。

『シュミナは僕の事しか好きじゃないよね?』なんて言いながら私を抱きしめる時の……目が、本当に怖い。

 彼は最近私と取り巻き達が仲良くするのも嫌がるので、一人で居る事が増えた。

 エイデンが一言何かを言っただけで取り巻き達は蜘蛛の子を散らすように去ってしまったのだ。

 ……公爵家って、すごい権力を持ってるのね。

 中にはそれでも側に居てくれようとした子達も居るんだけれど……私の方から、離れるようにとお願いした。

 無理をして私に付き合っていると彼らの家がどうなるか分からない。


 エイデンのバッドエンドを回避する為に大事なのは、パラメーターを上げる事。

 勉強を頑張ったり、人との良い関係を築いたり……一定の時期までに設定されている数字をクリア出来ないとバッドエンドに突入してしまう。

 バッドエンドのフラグをへし折る為の第一関門が一年生の二学期の期末テストで前回より最低50番……成績を上げる事なのだけど……。


「ゲームでは、簡単な事なのになぁ……」


 図書室で、私は溜め息を吐いていた。

 ゲームではボタン一つで上がるパラメーターも現実ではそう簡単に上がらない。

 今まで私が勉強をサボり過ぎていた事を痛感してしまう。


「分からない……何一つ、分からない……」


 参考書と睨み合いながら冷や汗をかいてしまう。

 取り巻きにはもう頼れないし、エイデンは成績がいいけれど当然彼に頼る訳にはいかない……。

 女友達は一人も居ないし、色々やらかした後なので先生からも煙たがられている。

 男爵家に家庭教師のようなものを頼む余裕もない。

 ……詰んでるわ……。


「……どこが分からないの?」


 かけられた声に反応して横を向くと、この前通りすがりで話を聞いてくれたお兄さんが立っていた。

 白い肌、際立って整った顔立ち。綺麗な銀の髪を後ろで纏めた、少しきつい顔立ちだけど乙女ゲームの登場人物みたいな美少年だ。

 彼の美貌はその場に居るだけで空気を清廉なものに変える。

 まるでビアンカ様やフィリップ王子みたいね……。

 彼は今日は何故かウェイターのような格好をしている……学園祭が近いからその衣装かな。

 昔だったら新たな美形の登場にテンションが上がったのだろうけど、地雷原でタップダンスを踊っている現状でそんな浮かれるような気持ちは湧かない。


「……全部。ぜーんぶ分かんない」


 私が困った顔でそう言うと彼は椅子を引いて隣に座った。

 もしかして、教えてくれるのかしら……?


「2年生までの内容なら多分どこでも教えられるから。何でも聞いて?」


 彼はそう言ってふわりと耽美な雰囲気で微笑んだ。

 とんでもない美形の笑顔は、破壊力がすごい。私は一瞬赤くなってしまったけれど……そんな場合じゃないのだ!

 こう言ってくれるって事は2年か3年の生徒なのかな。

 3年生にしては見た目が若い気がするけれど、乙女ゲームにショタ枠って付き物だものね。

 ……っとまたゲーム脳になってたわね。


「じゃあ……1年の……魔法学の基礎から」


 1年の最初の方でやるべき授業の事を今更人に訊くなんて恥ずかしいけれど、聞かぬは一生の恥なのだ。

 基礎が理解出来ない事には今の授業内容になんて追い付けない。

 彼は私の拙い質問にすらすらと答えてくれる……こう言っては何だけど、教師よりも分かりやすい。

 質問をして、答えて貰って、それを書き留める、そんなやり取りがしばらく続いた。

 参考書を指す彼の指はとても綺麗だ。時々、それに見惚れてしまう。


「君は理解力はちゃんとあるから。真面目にやればすぐ追いつけると思うよ?」


 そう言われると『そうだったら嬉しいな』なんてやる気が湧いてしまうから現金なものだ。

 彼は私の勉強の様子を見ながら、ふむ、と考える顔をした。


「……なんとなく君の苦手なところが分かってきた。君さえ良ければ来週の同じ日同じ時間に要点を纏めたノートを用意してここに持って行くよ。私の都合が付かなければ友人に届けて貰うかもしれないけど」

「ぜ、是非、お願いしたいわ!! あ……でも私諸事情で迷惑かけるかもしれないから。遠慮しておこうかな」

「……迷惑とかは、気にしないで」


 彼は優しく笑って私の頭を撫でた。

 エイデンの事があるからあまり関わって欲しくない、それを口にしないとって思って更に口を開こうとしたのだけど……。


「ヴィゴ様。そろそろお時間です」


 マクシミリアンが何故か、彼を迎えに来たので目を丸くする。

 ……シュラット侯爵家の関係者なの?

 私がビアンカ様を虐めてたって知ったら……もう顔も合わせてくれなくなるだろうなぁ。

 せっかく、友達が出来ると思ったのに。そう思うと心が強く痛んだ。


「またね」


 そう言って彼は笑うと颯爽と去って行く。

 その笑顔は、ビアンカ様に似ている気がした。

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