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お嬢様と私・前(マクシミリアン視点)

前後編になりました。

それは、ビアンカお嬢様につける魔法の教師を誰にするかで、旦那様…シュラット侯爵が悩みに悩んでいた時の事。



私…お嬢様専属の執事見習い、マクシミリアンは旦那様の執務室に呼び出された。

お嬢様の生活状況の報告やお仕事のお手伝いで執務室には週一で呼ばれているのだが、今日はその曜日ではない。

何故呼ばれたのだろう…?首を傾げながら執務室を訪れると。


「ビアンカに付ける魔法の教師を、誰にしようか悩んでいるんだ。マクシミリアンもリストに目を通してくれないか?」


旦那様が思慮深い光を宿した目を私に向けながら言った。

マホガニー製の重厚な執務机の上には、魔法師達の名前が書いてある羊皮紙が数枚置かれていた。

その1枚に目を通してみたが…。

6歳の娘に付ける教師とは思えないそのラインナップに、私は嘆息する。

リストにあるのは…全て高名な上級魔法師達。

子供の指導を頼むメンツとしてはあり得ない。


(隣国のSSS級冒険者…?魔法騎士団の団長まで居るじゃないか。週一の授業とは言え、この方々を雇うのに一体いくらかかるんだ。旦那様は娘の為に侯爵家の財政を逼迫させるつもりなのか?)


さっき旦那様の目から感じた思慮深さは張りぼてか何かだったのだろうか…。

呆れた冷たい目線を投げて寄越すが、旦那様はリストに夢中で気付かない。

シュラット侯爵は実に有能な人物だ。

有能なのだが…娘の事となると判断力を失った脂下がった顔の変質者に転落してしまう。


(まぁ…お嬢様が可愛いのは、分かるけど…)


ビアンカお嬢様はとても可愛い。

いや、最近可愛くなられた。


少し前までは口を開けば誹謗中傷の言葉しか出て来ず、

少しでも自分の思う通りに行かなければ癇癪を起こし、

気にくわない相手には理不尽かつ容赦ない罵詈雑言を浴びせる。

かんばせだけは月下の妖精。

それ故に残念感は更に深まる…。

そんな、将来的にどんな化け物になるのやらと言う感じの、稀にみるクソガ…いや、アレなお嬢様だったのであるが…。


それが先日泉に落ちてから、憑き物が落ちたように人が変わった。

それもとてもいい方に。


(きっと前のお嬢様は、何かに取り憑かれてたんだな)


私は真面目に、そう思っている。


現在のお嬢様は笑顔を振りまく妖精だ。

最初はその変容に戸惑い、どう接していいのか分からなくなった時もあったのだが…。

そんな私を見かねてかある日お嬢様から、

『仲良くして♡』

と潤んだ目で見つめられた。実にあざとい。そして可愛い。とにかく可愛い。

その日から私はお嬢様と『仲良く』するのを頑張っている。

今ではおはようとおやすみのハグをする仲だ。

お嬢様は戸惑いながらも、私の背に小さな手を伸ばしてくれる。

……下心が無いとは、勿論言わない。

男爵家の三男と侯爵家の長女。

普通ならば絶対に、結ばれない組み合わせだ。


しかしお嬢様があの日ぽつりと言った一言。


『いっそ平民の好きな人でも見つけて南国に駆け落ちしたいなぁ…』


男爵家の三男なんて身分は、価値としては限りなく平民に近い。

お嬢様が本当にそれを望んでいるのであれば…。

両想いになれたら…あの方を攫ってもいいのだろうか。


…きっと1年も経たないうちにお嬢様自身口にした事を忘れているだろう、子供の戯言だ。


その子供の戯言に希望を持ってしまうくらいには、私は彼女に執着している。



何はともあれ、今の問題はお嬢様の魔法の教師の件である。


「旦那様。ここに揃えられたリストの方々に教えを乞うのは、いくら才気煥発の極みたるお嬢様とは言えほんの少しだけ時期が早いのでは無いかと…」


言葉を選びつつ旦那様を窘める。


「じゃあリストを作り直さねばか…」

「いえ、その必要は、ありません」


ため息と共に吐き出された旦那様の言葉に、被せるように私は言った。


「ん?マクシミリアン、伝手があるのか?」

「初級魔法、中級魔法までの授業でしたら…私もお嬢様に教えられるくらいの知識はあります。私にぜひ、お任せ下さい」


魔法は私の得意分野だ。生まれつき私の魔力は強く、膨大だった。

そしてとある事情があり、ある時期から上級魔法師の叔父が付きっきりとなり、力の制御の方法と中級までの魔法を教わっていた。


と言うか旦那様にはその力を買われ、私は執事見習いとなった。

いざと言う時にお嬢様の盾となる力。

旦那様は私にそれを求めている。


少し前まではあんな女を守る為になんて反吐が出ると思っていたのだが。

今ではお嬢様の為に、もっと研鑽を積まねばと強く願っている。


「俺だって魔法は得意だ。そうだ!俺がやればいいんじゃないか!」

「旦那様。王宮でのお仕事をお忘れですか?魔法の授業の曜日は家庭教師やマナーレッスンの日取りとの兼ね合いで、旦那様が最もお忙しい水月の日と決まっております。ご帰宅の頃にはお嬢様はもう眠っておりますよ」

「ずるい!マクシミリアンばかりビアンカにいい所を見せてずるい!!」


そう渋る旦那様であったがなんとか1時間後に説き伏せ。



こうして、私はお嬢様の魔法の先生になった。

お父様は娘に使う金に糸目をつけない。


この世界での一週間は、

白月の日・火月の日・水月の日・木月の日・金月の日・闇夜の日・満月の日

と言う一週間の名称です。

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